第五章 第二節
それから約30分後。俺達は学校から離れ、とある河原にいた。早朝であること、また、ランニングコースから外れた地点であることから、辺りに人気はない。
青柳さんは俺を通じて、静音さんをこの場に呼び出した。
そして、告白をやめるよう脅迫したが、静音さんはそれに全く屈しなかった。
その結果。
「うらあっ!」
「あぶなっ」
「かわすんじゃねえよ!」
「かわさないと顔に当たるじゃない」
「あたりまえだろ! そこ狙ってんだから!」
「物騒だなあ」
「スタンガン使ってる奴が言っていいセリフじゃねえ!」
声だけを聞いているとふざけているようにも聞こえるが、そこで行われていたのは、ハイレベルな女の戦い(物理)だった。
青柳さんが凄まじい早さの手刀を放ち、それを静音さんが左手の甲を使って弾く。また同時に、右手で持っていたスタンガンを刺すように青柳さんへと向ける。
すかさず、青柳さんは左足を、静音さんの右腕に向かって振り上げる。見事にヒット。静音さんの右手は空に向けたように挙がり、狙いが外れる。
その隙を狙い、青柳さんが左手での手刀により、再び静音さんの顔面を狙おうとするが、静音さんはそれをバックステップで避けた。
「青柳ちゃん、なんでそんなに顔狙いなの?」
「はあ? そんなの、顔が傷つけばお前が告白出来なくなるからに決まってんだろ!」
「そっか、なるほど。それは困るね。なら、やっぱり全力で避けないと」
だがしかし、第三者の視点から言わせてもらうと、静音さんの状況はかなり悪い。
顔面狙いという言葉が表すように、青柳さんは静音さんを傷つけることに躊躇がない。
それに対し、静音さんはスタンガンという一撃必殺の武器は持っているものの、相手が後遺症を残さないよう、攻撃する箇所を数カ所に絞っており、それらすべての箇所を青柳さんに把握されている。
静音さんは、必要以上に相手を傷つけようとはしない人(気に入っている人間なら尚更で、顔面を狙うなんて以ての外)なので、攻撃箇所を拡大しようとはしないだろう。
そのため……、
「どうしたどうした、動きが鈍ってきたじゃんか!」
徐々に押されていく。
「さっさと告白を諦めろ! 今ならまだ許してやる!」
それでも。
「……そう言われても、したいものはしたいんだから、仕方ないよ」
激しい攻撃を受けてつつも、反撃のチャンスを狙い、静音さんは食いついていく。
「仕方なくねえよ! させるわけにはいかないんだよ!」
「どうして?」
「どうしてって……、そりゃ、あ、あたしが、正義の事が好きだからに決まってるだろうが!」
「うん、それは知ってる。なら、何で告白しないの? それとも……、何か、告白出来ない理由でもあるの?」
「っ……!」
揺らいだ。
明らかに青柳さんの動きが鈍った。その隙を、静音さんが見逃す訳ない。
静音さんは、自分が持っていたスタンガンを、青柳さんに向かって投げた。
武器を手放すという行動に面を食らい、青柳さんはそれをかわす動作しか取れない。それにより、体勢が崩れる。
そこへすかさず、静音さんは自分の胸元から、予め用意しておいた2つ目のスタンガンを取り出し、スタンガンを青柳さんへと向けた。
「勝った!」
タイミングは完璧。確実にスタンガンがヒットする。
そう思っていた。
「舐めんなッ!」
青柳さんは瞬時に身体を捻り、回避不可能だと思われていた体勢から復帰する。そしてそれは、低姿勢からの回し蹴りに近いものだった。つまり、防御であり攻撃である。
その蹴りにより、静音さんのスタンガンが弾かれる。さらに、その攻撃から繋がる連撃。回し蹴りの勢いを利用し、加速する形で再び身体を捻る。
そこから繰り出された速くて重い裏拳が、静音さんの腹部にヒットした。
「ぐぅっ!?」
静音さんは耐えられず、膝を地面につける。
完全に無防備。攻守が入れ替わり、絶体絶命の危機に陥った。
「終わりだ、スタンガン女!」
青柳さんの全力の一撃が、静音さんの顔面へと迫る。
その危機を、静音さんが回避する方法は……無い。
静音さん自身には。
突然ですが、本日中にもう一話分投稿したいと思います。しばしお待ちいただけると幸いです。