第一章 第二節
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なので俺はこの状況を無理やり変え……、というより、話の本筋に戻す。
「……それはさておき、だいぶ話が脱線してるから、そろそろ正義の話に戻すぞ。実は正義は今、3人の女の子に、恋愛的な意味で強く好かれている。
1人目は、俺と同じ2年生の青柳彩矢さん。
2人目は、後輩の1年生、似内風子さん。
3人目は、先輩の3年生、早間静音さんだ」
3人とも、この学校では有名人だ。何故ならば。
「すごい。3人ともウチの学校でトップクラスの美人さんじゃん」
その通り。俺は頷く。
3人とも、人が100人いれば、99人は美人判定をするであろう、美人さんなのだ。
「少し疑問もあるけど、伊澄先輩なら、その3人に好かれるのも分かる気がする。伊澄先輩、ウチの学校でトップクラスのイケメンさんだし」
その通り! 俺はとても強く頷く。
正義は、性格だけではなく顔も良い、パーフェクト男なのだから。
1つ訂正するとすれば、正義のイケメン度はトップクラスではなく、トップなのだ。
あくまで、個人的な評価ではあるが、俺と同じ評価の人間は少なくないはずだ。
「でも、だいぶ今更だけど、そのことが、私を呼び出した事と何の関係があるの?」
……ですよね。そういう疑問になりますよね。
元々涼香には、大事な相談があると言って自室に呼び出したのだから。
そうして来てみたらいきなり、俺が正義を称賛しだしたのだから、呆れたり混乱したりするのは無理もない。
涼香は家では普段、薄手のパーカーとショートパンツというラフな格好をしているのに、今はデートにでも行くかのような、すごく気合が入った感じの服装をしている。
たぶん、色んな意味で勘違いさせてしまったのだろう。反省しなければ。涼香の今後のためにも。
さて、だいぶ回りくどいことになってしまったが、涼香を呼び出した本当の理由を説明することにしよう。俺は姿勢を正し、真っすぐに涼香の目を見て、こう言った。
「涼香。実は俺は、正義と似内さんを両想いにしたいんだ」
「……えっ、そうなの?」
「ああ。色々理由はあるんだけど、そのために、涼香に協力して欲しいことがある」
「私が?」
「そうだ。涼香と似内さんは友達だよな?」
「うん、もちろん」
「なら頼む。俺に似内さんの連絡先を教えてくれ」
俺と似内さんは現在のところ赤の他人。だから似内さんと接点を持つため、涼香に協力を依頼したのだ。 しかし、
「嫌」
ノータイムで断られてしまった。
でもここで諦める訳にはいかない。俺は必死に食らいつく。
「そこをなんとか!」
「駄目」
「一生のお願い」
「あっくんの一生のお願いはとっくに使用済みじゃん」
「それはそうなんだけど、俺を助けると思って」
「無理」
「……どうして教えてくれないんだ?」
「普通、友達の連絡先を勝手に教えられないでしょ? 一般論として」
「兄妹で結婚したい人間が一般論を語るのか……」
……でもまあ、そうだよな。俺への恋愛アプローチ以外に関して言えば、涼香は割と常識人だ。そのため、似内さんの許可なく、連絡先を教えるのに抵抗があるのだろう。
「ならせめて、似内さんを俺に紹介してくれないか?」
別に、紹介なんてしてもらわなくても、自分で直接会いにいけば良いと思われるかもしれない。
俺もそう思ったし、実はそれは実行していた。
以前、似内さんが1人で校舎を歩いていた時、彼女に話しかけていたのだ。けれど、完璧に無視されてしまった。残念。
俺の行動が軽率だったということもあるが、彼女の日常を調べてみると、基本彼女は涼香を除いて、クラスメートからも距離を取っていることが分かった。
特に男子に対しては、話しているところを見たことがない。
いや、何人かの男子が話しかけようとしたところは見た。ただ、その全員が塩対応されたけど。
そういう訳で、涼香に紹介を依頼したのだが……。
「それも無理」
またもや断られてしまった。
「なぜ?」
「似内さん、男の子と話すのをすごく嫌がるから。だから正直、似内さんが伊澄先輩を好きだって聞いた時、すごく驚いたんだ。 ……というかそもそも、あっくんはどうして似内さんが伊澄先輩を好きだって分かったの? 私に紹介を頼むってことは、あっくんは似内さんとは話したことないはずだよね?」
「そ、それは……」
痛いところを突かれた。
「……悪い、それについては説明できない」
「え、なんで?」
説明したくても、できない理由があるのだ。
「なんかやましい事でもあるの?」
「ノーコメント」
「……あるんだ」
「ノーコメント」
「もー!」
涼香が頬を膨らませて抗議してくる。でも、似内さんのためにも、説明はできない。
「ホント悪い。それ以外なら答えるから」
「じゃあ、どうして伊澄先輩を好きな3人の内、似内さんを選んだの?」
それなら答えられる。
答えられるが、その前に涼香の勘違いを正そう。
「涼香。それは誤解だ」
「えっ、何が?」
「俺は、似内さんだけを、正義とくっけようとしている訳じゃない」
「………………………………………………………………………………はい?」
涼香は、訳が分からないという表情をしつつ、首を傾げる。
俺は涼香が抱える疑問を解決するため、こう言った。
「青柳さんも、早間さんも、もちろん似内さんも、正義とくっつけるんだよ」
涼香は、さらに複雑な表情になる。
「……あっくん。私、自分の恋愛観が普通じゃないことは充分自覚してるけど、それでも、あっくんがしようとしてることは普通じゃないって言えるよ?」
「大丈夫だ、涼香。俺も自分がやろうとしていることは普通じゃないと思ってる。だが、俺は正義のために、3人を正義とくっつけ、正義ハーレムを作らないといけないんだ」
「ごめん、あっくん。どうしてそういう発想になるのかが全く分かんない」
思いっきり否定されてしまった。
確かに、俺の説明は足りてなかった。もっと丁寧に説明しなければ。
「じゃあ順番に説明していこう。まず、日本の結婚制度についてどう思う?」
「兄妹結婚を推進して欲しい」
「兄妹結婚からは離れてくれ。兄妹結婚以外で、日本の結婚制度についてどう思う?」
「うーん。別にこれといって言う事はないかなあ。最近だと、夫婦が一緒の名字じゃなくて、それぞれが結婚前に名乗っていた元々の名字のままでもいいよねって、考えの人もいるらしいけど、私には関係ないし。だって今、あっくんと同じ名字だから、結婚後も名字は変わらないし」
「さらっと自分の願望を入れるな。あと、兄妹で結婚出来るとしても、俺は涼香と結婚する気はないからな」
「やだ、あっくん。デきても結婚してくれないの? 私一人じゃ、子供を育てきれないよ」
「そっちのデきるじゃねえよ!? デきたのに責任とらないとか、俺最低野郎じゃねえか!」
「ちなみに私は、いつ出来ても大丈夫だよ。もし本当にそういうことになったら、あっくんはちゃんと責任とってくれるって、信じてるから」
「そうか。そういうことには決してならないから、安心してくれ」
「つれないなぁ」
「何とでも言ってくれ」
だいぶ話がそれてしまった。涼香のペースに乗せられると、いつもこうなるんだよな。
自分が主導権を握らなければ。
「……俺は日本の結婚制度の中で、一夫一妻制に疑問を感じているんだ。どうして、1人の男に対して1人の女しか結婚してはいけないんだ。おかしいとは思わないか?」
「いや、おかしくはないと思うけど。だって普通、自分が好きになった人には、自分だけを好きになってもらいたいと思うでしょ? だから、一夫一妻制で何の問題もないと思う」
「確かに、そういう考えの人は多いだろう。だけど、当人同士が認めるなら、一夫多妻でも、多夫一妻でも良いと思わないか?」
涼香は俺の話を聞いた後、腕を組みつつ思考し始める。そして数十秒後、こう言った。
「……うーん、まあ、当人同士が認めているのなら良い……のかなあ?」
よし、一応納得してくれたぞ。話を続けよう。
「だろう? そうであるならば、正義と似内さん達が認めれば、4人で1つの家庭を持っても問題ないはずだ」
「ああ、なるほど。だからさっき、正義ハーレムなんて言ってたんだ。伊澄先輩も見かけによらないなぁ。見た目は草食系なのに、実は女の子3人と付き合いたいと思ってる超肉食系だったなんて。それに協力しようとしてるあっくんもあっくんだけど。まあでも、女の子組はハーレムなんて認めないと思うよ?」
「いや、涼香。正義は別に、女の子3人と付き合いたいだなんて思ってないぞ。それどころか、女の子3人から好意を持たれていることすら気づいてない。だから、正義から協力してくれとも当然言われていない」
「……え? じゃあ、もしかして、伊澄先輩と似内さん達をくっつけようとしてるのは、あっくんの独断ってこと?」
「その通り」
「………………………………………………あっくん、明日一緒に病院行こっか」
「なぜ!?」
俺は絶叫した。