第三章 第五節
そんな訳で俺は、静音さんに、真理に辿りついた事に対する感謝の言葉を告げた。
そして当然、俺への告白は断った。
俺なんかが、静音さんと付き合っていいはずがない。正義と、(いるならば)正義と同格の男達に、愛を向けて欲しいと告げた。静音さんは、優秀な人間だからだ。
静音さんはコミュニケーション能力や学校での成績は微妙だが、それを帳消しにしてしまえるほどの、超美人だ。しかし、静音さんの長所は容姿だけではない。
静音さんの真の長所は、意思の強さにある。打たれ強い、と言い換えてもいい。
美人というのは、同性から僻みや嫉妬を受けやすい。それを避けることは不可能に近く、静音さんもその例に漏れない。
静音さんは告白された回数も尋常ではなく、毎回告白を断っているため、目の敵にする人間も多い。今までに何度もいわれのない誹謗中傷を受けてきたそうだ。
おまけに、静音さんの趣味は前述の通り、とても偏った2次元関係で、2次元を嫌っている人間からは『オタクでなければねー、残念(笑)』といった、嘲笑の対象にされる。
さらに言えば、同じ2次元好きの一部の人間からは『2次元を自分のキャラ付けの道具にするな』と、陰口を言われる始末。
けれど、静音さんはそれに屈しない。
何を言われても、好きなものは、きちんと好きと言う。好きなものに対して、一切の妥協をしない。
それは恋愛にも言えることらしく、俺が断り続けても、静音さんは全く諦める気はないようだった。何度拒否しても、何度も愛を伝えてくる。
実際、静音さんはあきらめずに今日も、強めのアプローチを俺にかけてきた。
……でも、おっぱいを触ってもいいと言われるのは流石に予想外だった。そういうアプローチは正義にすればいいのに。
静音さんは巨乳だし、正義は巨乳好きだから、きっと喜ぶはずだ。
あ、そういう意味では似内さんも、静音さんほどではないが、胸が大きいし、おっぱいアプローチは非常に有効だと思う。
青柳さんは……なんというか、その、今後に期待する。
ちなみに俺は、巨乳も、貧乳も、普通サイズの乳も、全てが大好きだ。全てのおっぱいがストライクゾーンに入っている。
……まあ、そんなどうでもいい俺の話は置いておいて、話を現在の状況に戻そうか。
さて現在。似内さんは、静音さんの正義への告白宣言を受け、あわあわと震えている。
俺はそんな似内さんに、あらかじめ決めておいた言葉を告げる。
「似内さん。こうなったら、静音さんより先に、正義に告白してみない?」
「さ、先に告白!?」
「そう、先に告白。似内さんは、ハーレムが嫌なんだろう? 正義と一対一の関係を築きたい訳だ。
でもこのままだと、先に静音さんに告白されちゃうわけだから、もしも正義が静音さんの告白を受けた場合、似内さんは告白する権利すら失う訳だ。
それは余りにも不利だろう? だから、静音さんより先に告白すればいいんじゃないかな?」
俺の言葉を聞き、さっきよりもあわあわと震えながら、似内さんは言う。
「で、でも、それだと、早間先輩に悪いですし……」
似内さんの言葉に対し、静音さんが微笑む。
「それは大丈夫だよ、似内ちゃん。私はハーレムを受け入れてる訳だから、もしも似内ちゃんが告白に成功しても、その後に続けて正義君に告白するだけだから。安心して!」
「全然安心出来ないです!」
似内さんが叫んだ。そして続けて言う。
「早間先輩は、伊澄先輩がハーレムを受け入れること前提に話してますけど、私的には、伊澄先輩はハーレムを受け入れるような人じゃないと思います!
だから、もしも奇跡が起きて、私が告白に成功しても、その後に早間先輩に告白されたら、伊澄先輩は私の告白を、その、てっ、撤回して、早間先輩の告白を受けちゃう、かも、しれません……!」
いつの間にか、似内さんが涙目になっている。声も震えていた。
こういう発言が出るのは、やはり自分自身に対する評価が低いからだろう。
先に告白するのは静音さんに悪いと言っていたけれど、それはたぶん、2つある理由の1つにすぎない。もう1つの理由。それはつまり……、
自分が正義の隣にいてもいいと、思える自信がない。
そういうことだろう。静音さんが相手ということで、分が悪すぎると感じているのもあると思う。
似内さんは、もっと自分に自信を持つべきだ。似内さんは、静音さんと比べて、決して劣っていない。
対等に対抗できる人間だ。だから、正義への告白はきっと上手くいく。それに、正義が告白を撤回なんてするはずがない。そしてなにより、似内さんが正義の隣にいることに、何も問題はない……
……が、悪い。本当に申し訳ない。俺は駄目人間だから、君のその自信のなさを利用させてもらう。
皆様、よいお年を