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第一章 第一節

初投稿です。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

◆虎上青葉


 大丈夫。大丈夫なはず。俺は死なないはずだ。


 腹に突き刺さっているナイフと、溢れ出る血を見つつも、俺はそう自分に言い聞かせる。

 いや、死にたくない訳じゃない。でも、それは今じゃない。


 俺をこんな状態にした女の子は、うっとりとした表情をしながらこちらを見つめている。

 さて、どうする? どうすればいい? 次に打つ手は何だ?

 今にも気を失ってしまいそうなほどの酷い痛みに耐えながら、必死に考える。


 一体どうすれば、この子を、俺の親友のハーレムに入れることが出来る?


----------


 命の危機に瀕する、2時間ほど前。俺は、妹を家の自室に呼び出してこう言った。


「俺は、親友の伊澄正義いずみまさよしが大好きだ」


 男として、正義以上の人間はいないと思っている。


 俺は正義のためなら、何でも出来る。それくらい、正義のことが好きなのだ。

 それらも補足して告白する。すると、


「あっくんはホモなの?」


 妹は呆れた目をしながら、あっくんこと俺、虎上青葉こがみあおばに向かってそう言った。


「違う」


 俺は妹の疑問に対し、きっぱりと否定する。俺は決してホモではない。ノーマルだ。女の子が大好きだ。 だから恋愛的な意味で言えば、正義のことは対象に入らない。正義のことを見ると胸がトクンと震える瞬間が割とあるが、あれは正義の行動や言葉や顔の造形の素晴らしさ等に感動しただけであって、恋愛感情的な意味は全くない。


「じゃあ、どうしてあっくんはそんなに伊澄先輩のことが好きなの?」


 正義の事が何故好きか?

 それはとても一言では言い表せない。

 でもあえて言うなら、それは正義の性格だろう。


 あんなに人間として出来た男を、今までに見たことがない。

 困っている人間がいたら手を差し伸べ、他人を虐げている人間がいたらその人間を止める。

 まるで、少女漫画に出てくる、性格が良いスーパーイケメンみたいな男だ。いや、みたいじゃなくて、まさにそうなのだけど。


 実を言えば、俺は過去、正義に命を救われている。

 その日は、俺の高校入学初日だった。

 学校に行くため、通学路を歩いていた俺に突如、わき見運転をしたトラックが突っ込んできた。

 突然の事に俺は驚き、身体が硬直してしまった。さらにおまけに、走馬灯まで見る始末。


 俺は死を覚悟した。

 だがその時、奇跡が起きた。

 正義が現れ、動けなかった俺をさっと担ぎ、トラックの進行方向から外れた道路わきへと運んでくれたのだ。

 俺はそんな正義を一目見てこう思った。


 やべぇ、超イケメン。と。


 俺が女の子ならこの時点で確実に恋にオチただろうな、うん。

 そしてその後、正義が俺と同じ高校の制服を着ていて、同じ学年であることを表すネクタイをしていることにも気付いた。


 正義は、俺と同じで、その日高校に入学する新1年生だったのだ。


 だが、俺と正義は入学式に出ることは出来なかった。

 事故の取り調べ等で時間が掛かり、入学式どころか、その日の学校行事全てに出れなくなってしまったのだ。


 高校生活最初の1日がどれほど大切で、それに出れないことがどれほどの損失か。少し考えれば分かる。


 自己紹介をして、近くの席の人と仲良くなって、どこの出身だとか、何が好きだとかの話で盛り上がって、連絡先を交換し合ったり、一緒に下校したりする。コミュニケーションを取り、友好を深める絶好の、そして失敗は絶対に許されない大切な日。


 そんな日に欠席。名前も知らない、赤の他人のせいで。あまりにも不幸だ。


 一番悪いのはわき見運転をしたトラックの運転手だろう。けれど、俺がその場にいなければ、正義が俺を助ける必要はなく、学校に行けたはずだ。俺にも十分責任がある。

 俺は正義に詫びた。俺が事故に遭わなければ、こんなことにはならならなかったのに。本当にごめんなさい、と。


 謝っても許されることではないと思っていた。なのに正義は、俺を全く責めなかった。

 俺を責めるどころか、「身体は大丈夫?」と、終始俺を気遣ってくれたのだ。

 恋ではないが、俺の心は完全にオチた。

 正義に心酔した。要するに、正義の信者になったのだ。


 多少脚色を加えてはいるが、俺と正義の馴れ初めはこんな感じである。


 ……といった内容を、出来るだけ簡潔にまとめつつ、妹の涼香に伝えた。


「へえ。あっくんの命を助けてくれたのが、伊澄先輩だったんだ。じゃあ、私にとっても恩人だね」

「うん? どうしてだ? 涼香すずかは、正義と話したことすらないだろう?」


 俺は何となく嫌な予感がしつつも、涼香に問いかけた。

 涼香は、正義の事は知っていても、実際に話したことはない。そんな程度の間柄だというのに、恩人とは一体?


 これはあれだろうか。家族を助けてくれてありがとう、私も感謝します的なやつ。


 なるほど、そういうことか。そういうことだろう。それなら分かる。いや、それ以外の意味なんてない。

 嫌な予感なんて全くしない。


 と、自分の頭で無理やりそのように解釈していたら、涼香は微笑みながらこう言った。


「だって、私の未来の夫の命を救ってくれたんだから、私にとっても恩人でしょ?」


 おおう、嫌な予感が的中してしまった。俺は、頭を抱えつつ言う。

「……涼香、頼むから、家の外でそういう冗談を言うなよ? 色々誤解される」

 妹が兄の事を、夫にしたいくらい好きだなんて、一体どこのラノベだよ。

 冗談にも程がある。


「冗談? 冗談なんかじゃないよ。私があっくんを好きなのはホントだし」

「……あのな。そもそも、俺達は兄妹だからな」


「兄妹と言っても、義理じゃん私達」


 そう。俺と涼香は本当の兄妹ではない。

 俺を産んだ母は、俺が小さい時に病気で死んでしまった。父が再婚した際、新しい母の連れ子だったのが涼香だった。昔はおとなしい子だったのに、今では兄妹恋愛を迫ってくるくらい、色んな意味で強い子になってしまった。どうしてこうなった。


「義理だろうが、兄妹が恋愛していいなんて法律はないと思う」

 俺は淡々と告げる。そしたら、


「えっ? あるよ?」

「あるの!?」


 とんでもないカウンターが来た。マジで? ホントに?


「うん。私もつい最近まであっくんと同じように思ってたんだけど、この前テレビで『新婚さ○いらっしゃい』を見てたら、連れ子同士で結婚した人達が出てたんだ。それで、連れ子同士の結婚は法律で認められてる、って分かったの」

「……マジか。すごいな、日本の法律」


 というより、よく『新婚さんいら○しゃい』出ようと思ったな、その連れ子夫妻。

「ちなみに、夫が兄で妻が妹なんだって。という訳で、前例もある事だし、私とあっくんが結婚しても何の問題もないよ。だから結婚しよ?」

 そんな求愛に対し俺は、

「丁重にお断りさせて頂きます」

 ノータイムで拒絶した。


「えー、なんでー?」

 涼香が少しいじけた感じの表情で問いかけてくる。その問いに、俺は少し考えてから、

「そりゃあ、結婚する気がないからだよ」

 と言った。涼香は小さく嘆息する。そして苦笑いしつつ、


「やっぱり、あっくんってホモだったんだね」

「だからどうしてそうなる!?」


 再びの爆弾発言に対し、俺は叫ぶように言う。

「俺はノーマルだって言ってるだろう!?」

「またまた嘘言っちゃって。本当は男の子が好きだけど、男の子同士じゃ結婚できないから、結婚しないって言ったんでしょ?」

「畜生! 妹がおかしな推論を始めた!」

「あはっ。ごめんごめん。冗談だって。あっくんって、からかうと面白いから、つい」

「まったく……」

「でも、あっくんの事を好きなのは本当だよ?」

「……それも冗談にしてくれ」

「無理。だって仕方ないじゃん、好きなんだから」


 などと、涼香は軽いノリで言ってくる。なので俺もつい、軽いノリで、


「いや、まあ、俺も涼香の事は好きだけど。むしろ大好きだけど」


 嘘偽りない本心を言った。俺が涼香を大好きなのは間違いないからだ。

 もちろん、妹としてだけど。しかし、


「そ、そう。大好きなんだ。じゃあとりあえず、今回はこのくらいにしておこうかな……」


 涼香は顔を真っ赤に染めつつ、幸せそうな表情をした。

 

 軽率だった。軽いノリが仇になった。答え方、完全に間違えた。


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