第7話
「おっちゃん。今からドラゴン狩ってくるからクエストの発注頼むわ」
「えっと……お嬢さん、今なんて言った?」
「だーかーらぁ、クリムゾンドラゴンだっけ?それ狩ってくるから受理してくれ」
此処は街の中にあるギルド支部。
主にギルドは様々な人から寄せられる依頼を受け持ちそれを外部の人に紹介する役割を持っている。依頼と言っても飼い猫の捜索から部屋の掃除、遠方に行く際の護衛など幅広く存在していて報酬は依頼主から送られるシステムだ。
様々な世界を渡り歩いてきたシンにとって非常に馴染み深い建物でもある。元は世界全てひっくるめて1つだったと言われているのは既に多くの人々に知られていると思う、そんな事は誰も確認する手段がないのだがシンは違う。やはりと言うべきか世界はそれぞれ様々な特色を持っているが共通して存在しているものもある。それがギルドであったり魔法であったりモンスターであったり。
手っ取り早く手柄を立てたりお金を手に入れたりするのには打って付けなギルドの依頼。
間違いなくこの世界の中心であるここエルミナーゼのギルド支部にはずっと誰も成功した事がない依頼が存在するという。
依頼主は国王な時点で地雷臭がするその依頼、だが手っ取り早く社交界という表舞台に出るにはこれ程打って付けの依頼は存在しないだろう。
クリムゾンドラゴンの討伐
太古の昔から存在しているとされているドラゴン。滅多に目を覚まさないが目を覚ました時、腹を空かせたドラゴンはこの国までやって来てその度に甚大な被害を与えるだけ与えて満足したらそれで帰っていくという正しく人類の敵で災厄。前は46年前に起きたらしく大体50年の周期でドラゴンは目を覚ますらしい。
しかし強力で強靭な肉体、全長90mはあるんではないかと言われているそのクリムゾンドラゴンにまともに戦いになった記録はなく討伐は絶望的とされている。
デカデカとボードに張り出されたその依頼はずっと誰の手にも触れられずそこにあるらしい。
だからこそそんな依頼に手を出そうとするシン達にギルド受付の男は正気を疑った。
「馬鹿な事はやめときなお嬢さん、これはな王国騎士団全部隊で挑んでも勝てねぇって言われてるんだ。エルミナーゼの騎士団が勝てねぇんだ、この世界にはクリムゾンドラゴンを倒せる奴なんていねぇよ」
「ふーん、じゃあ受けるから行ってくるわ」
「話聞いてたのか!?お、おいお前さんも何とか言ってやれよ、お前さんの可愛い嫁さんが死んじまうぞ!」
「あ?」
「ひっ!?」
このままでは無駄に命を散らすことになってしまう。丁度シン(亜里朱)と同じぐらいの娘がいる受付の男はそれを黙って見過ごすなんてことは出来なかった、お前も止めてくれと連れだと思われる男に声を掛けた。
だがその瞬間に放たれるプレッシャーに男は心臓を握り潰されているかのような威圧感に息が出来なくなる。
一体なんだこのプレッシャーは。
ここに依頼を受けに来る様々な人を見てきた男。だからこそ男は人を見る目はそれなりにあるつもりだった。だが目の前男、一体どんな修羅場を掻い潜ってくればこんなプレッシャーを放つ事が出来るんだ。
「ほら行くぞー」
女が声を掛け男はそれに付いていく様にギルドから出て行った。その瞬間プレッシャーから解放され力なく地面に膝を付き荒い息を整える。
これはもしかしたら……
そんな思いを持ち始める男だった。
「お前欠伸なんて我慢すんなよ、間抜けな顔になってたぞ」
「ご、ごめんなさい」
本人は欠伸を我慢していただけだったようだ。
―――――――――
「よう、そこの嬢ちゃん達。クリムゾンドラゴンを討伐しに行くんだってな」
「そうだけど、何のようだ?」
「俺達これでも結構腕が立つんだ、協力させてくれ。なに足はひっぱらねぇさ」
ギルドを出て少し歩いた先でシン達を待っていたのは武器を装備した男2人。そんな男2人は自分達もクエストを手伝うと言ってきたのだ。
先程のやり取りで嫌でも目立ってしまった2人。こうなる事は予定調和だったとも言える。
「わりぃな。また別の機会に頼むよ」
「そう言うなよ嬢ちゃん。お前達はクリムゾンドラゴンの情報とか殆ど持ってねぇだろ?俺達はクリムゾンドラゴンを見たことがある、少しは役に立つと思うぜ」
「おうよ。それにクリムゾンドラゴン挑むんだから次が……」
「お前はちょっと黙ってろ!へへへ、どうだい嬢ちゃん?」
シンは内心めんどくせぇなぁ、と毒ずく。まず目が血走っているし情けなくも下半身が盛り上がっている時点で彼らがどういう根端で近付いてきたのか丸分かりである。
やはり女の身体はめんどくさい。朝からやたらと周りの目線が集まっていたのは気が付いてたのだがその殆どが男からの視線だ。男の身体であったのならこうはなるまい。
さてどうしたものかと思っていると
「だ、駄目です!」
突然亜里朱が大声でそう言った。
ああなるほど、亜里朱もコイツらの目的に気が付いたのか?
どうやら亜里朱も男達の目的にきがついたらしい。確かにこんな男どもに自分の身体が狙われてるとなると気が気でないだろう。けどそんな目も血走って明らかに興奮している男にそんな事を言ってしまったらどうなるのかは目に見えている。
「あ?男にようはねぇんだよ、すっこんでろ殺されてぇのか!」
「うっ……け、警察呼びますよっ!」
おいお前、へっぴり腰で俺の後ろに隠れるんじゃねぇよ。というかこれお前の身体なんだが盾にしていいのか。
キレた男は腰に吊るしてある剣の柄に手を当て亜里朱に脅しをかける。一瞬悲鳴を上げそうになったがそれを我慢しシンの後ろに隠れて男を睨み付けた。
「はぁ、ほんとめんどくせぇなぁ」
「おぉぉ!」
バサァ、と音を立ててローブが捲れる。シンは制服の上からローブを羽織っているだけの状態でどうしても手を出せばこうしてローブが捲れてしまう。どうもこの世界では制服は何処と無く下着と近い分類のようで更に男達は下半身を元気にハッスルさせる。
制服の上からでもしっかりと分かる膨らみ、スカートから見える足に男は目が釘付けになりそろそろ男達も我慢出来なくなってきたのか息が荒い。
「まぁ気持ちは分からんでもないがそんなにいいもんかねぇ……」
「へ、へへ……いい身体してるなぁ……」
「お、俺もう我慢出来ねぇ!」
ふにゅん、と自分の胸をつつく。まぁ柔らかいよなぁ。それだけだけど。後ろにいる亜里朱はまだ怯えているようでそんなシンの奇行に気が付かないようだ。
そんな誘ってるとも取れない行動に1人の男は我慢ならずその胸へと手を伸ばす。
「だ、だめぇぇぇぇ!」
「あばらっ!?」
もうすぐ触れそう、となった時に叫びながら亜里朱はシンの前に出てビンタを男に炸裂させた。ぐるんっ!と人間の首ってそんなに回るんだ、なんて見当違いな事をシンは思いながら男が吹き飛んで行くのを見ていた。
一回転、二回転、三回転と回転して四回転しそうになった所で勢いは止まり男は地面へと落ちた。ピクピクと痙攣している男を唖然としてみている連れの男。そして他人事の様におっ、結構クセになるなとか思いながら胸を揉んで眺めているシン。ぜぇぜぇ言いながら手を振り抜いて目がヤバい亜里朱。
なんだが色々とカオスだった。