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第4話
















「ここが一流レストラン ブランジュール。名だたる貴族達も通い詰めている有名なレストランさ。かく言う僕も良く此処に来ていてね特に……」


「あー、うん」







拉致?されたシンは手を引かれるがままに馬車の中へと押し込まれた。何されるんだと身構えたシンだが特に何かされる訳でもなく今の今まで街の案内をされている。きっと悪いヤツではないのだろう、割と気が利くし此処が初めてと聞いて直ぐに案内役をしてくれているわけだし。


それでもローブから出ている足に目線が行っているのは男なら仕方がないのだろう。ここは1つ見逃してやろう、亜里朱なら間違いなくそうはさせないだろうが生憎と今身体を動かしているのは男なのだから。




「おい小娘、もっと興味がありそうにせんか」


「んなこと言われても……」




付き添いの男に小突かれてそちらを向くと此方にしか聞こえない声でそう言ってくる。確かに街案内は有難いのだがシンとしては地理の確認さえ出来ればそれで良かったのだからこれはありがた迷惑なのである。

感謝すべきなのだろうが実際はこうして迷惑を被っている、相手がほぼ善意だけの行動なだけに無下に出来ないのも非常にめんどくさい。



「悪い、俺この辺で……」


「!?ふせたまえ!」




流石にこれ以上は相手にも悪いしこの辺で帰るかなとシンが言い切る前にケルトがそう叫んだ。次の瞬間馬車が爆発した。





「大丈夫かね?」


「おう、助かったわ」


「なに君のような美しい女性を護るのが僕の役目さ」


「くっ、何奴!」



間一髪のところでシンはブランに抱えられて無事に脱出していた。やはりシンが思っていた通りただの道楽貴族ではないらしい、付き添いの男も無事であるところを見るにやはり2人は軍の関係者だろうか。自分で脱出は出来なくもないが正直だるかったので丸投げしたが予想通り助けてくれて内心は「あ、マジで助けやがった」と驚き半分感謝半分あと呆れほんのちょっとである。


地面に降ろされたシンは周りを見渡す。


(30人ってとこか、人気の無い道での犯行。こりゃ当たりかもな)


見えるのはせいぜい10人程度だが隠れているのは直ぐに分かった、だだ漏れの殺気を見逃すシンではない。調査のつまりで外に出たが思いのほか早くこの世界の闇に触れる事が出来たのは運が良かった。確実にこれは世界の危機に繋がっている筈なのだ。



「言いたい事は沢山あるが……君たちはあろう事かこの美しい女性に手を出した、覚悟は出来ているかね?」



ブランの雰囲気が変わる。

腰に指していたサーベルを抜き構える姿に隙はない、「達人」のそれである。


「小娘は下がっておれ、ブラン様と私がここは抑えよう」


「あー、いや俺も何人か担当するわ3人ぐらい貰っていいか?」


「なに?」



ブランは既に戦闘を始めており目の前で暴れている。10人だけだった黒ローブたちはいつの間にか数が増えて20人程になっていた、それでも見るからに圧倒しており何人か既に血塗ろになり地に這いつくばっているところを見るに余裕だろう。



「……まぁいい、危なくなったら直ぐに駆け付ける。精々気を付けろよ」



付き添いの男は飛んできたファイアをサーベルで逸らしそのまま敵の方向へ走っていく。あぁいうのをツンデレって言うんだよな誰得だよと思いながら小道を睨む。



「さてと……そろそろ出てこいよ」



幾つも別れた小道から3人の男が現れる。どうやらこの3人がこの中で1番強いらしい、こんな所まで当たりを引く必要は無かったのだが運が良いのか悪いのか。

下衆な笑みを浮かべる男3人は舐め回すようにシンの身体を見ている。



「おい嬢ちゃん、見上げた根性してるじゃねぇか……なら何されても文句ねぇよな?」


「へへ、上玉だな。俺は口貰うぜ」


「おいおいお前またかよ」



なるほど、確かに女性は大変だ。男であるシンでさえ吐き気がするその下衆な考えに溜め息を吐く。こんな気持ち悪い目線向けられたら怯えるのも無理もない、残念ながら自分は見た目こそかわいい女だが中身は男なのだ。吐き気こそしても恐怖はない。



「悪いな、これ借りもんだからさ。簡単に許してやるつもりはないんだわ、どうしてもヤリたいんなら無理やり組み伏せてみろよ」


「威勢がいい女は嫌いじゃないぜ!さぁ、怯える顔を俺に見せてくれよ」


「お前ほんと性格捻じ曲がってんな」


「性癖も捻じ曲がってるぞ」



どうやら後ろ2人は手を出すつもりがないらしい、下品な笑い声を上げながら爆笑している。1人が剣を片手に此方に向かってくる、それをシンはポケットからナイフ1本を取り出し身構えた。



「へへ、そんなちゃっちいナイフで相手出来ると思ってんのか?」


「どうだかな、案外魔法のナイフだったりするかもよ?」


「そうかい。じゃあ見せてくれよ!」



ブンっと大きく薙ぎ払われた剣は此方に腹を向けている、どうやら殺す気はなくあくまで犯すつもりらしい。

それを軽く弾こうとナイフを当てる。



「っ、てぇ」


「どうしたよぉ、パンツみせて誘ってんのかァ?」


「いやぁ思ったより貧弱でさぁ、パンツぐらいで喜ぶなよ。犯したいんだろ?」


「言ってくれるじゃねぇか!」



ナイフを当てた瞬間、想像以上に重い感触がナイフから伝わってきて受け止めきれずシンは尻餅を付いた。どうやら思っていたよりこの身体(亜里朱の)凄く貧弱らしい。再び振るわれた剣を他人事の様に見る、そう見える事には見える。だが身体の動きがいつもよりかなり、いや超絶遅い。しかしこの程度であれば



「おぉ!」


「何してんだよ空振りとかバッカじゃねぇの」


「た、たまたまだってんだ!」



この様に簡単に躱す事が出来る。ちょっと腕がたつぐらいの腕前じゃ無限の修羅場を駆け抜けて培われた戦闘経験、技術、目、化け物じみた直感を持ったシンを捉える事は到底出来ない。それでも肉体スペックがガクンと落ちた今、到底この先やっていけないだろう。それこそ対人戦であればどうにかなるかもしれないが人外相手、「達人」より上の相手には完全に無力だ。


大振りで振るわれる剣を幾度となくかわしながら考える。気は問題なく使える、だが闘気を纏うには些か身体の方が貧弱過ぎて耐えられそうにない。潜在的に宿る気が少ないのか、それとも単純に身体が貧弱過ぎるのか亜里朱の身体に宿る気は極端に少ない。


『気』というのは簡単に言えば生命エネルギーのようなものだ。人は必ずしも身体に気力を宿している。殆どの者がそれに気が付かず、無意識に使っている場合が多い。例えば歩く時、何かを持ち上げる時、喋る時、簡単に言えば体力のようなものを『気』という。『気』というモノを意識して使うものは殆どいない。そもそもが知られないというのもあるのだが殆どの生命には魔力が宿っている、元からある便利なモノがあるだけにそれに気が付かないのだ。知っているからと言って意識すれば誰しもが自在に扱える、という訳でもないのだが達人級の人物にでもなれば話は違ってくる。


『気』というモノは先ほども言った通り生命エネルギー、体力のようなもので潜在的な量も多少なりとも関係してくるが鍛錬を積む事に増えていく。そして1番わかりやすいのが達人級が無意識に纏っている『闘気』だ。

常時纏っている訳ではない。もし纏っているとすればその者は神でさえ殺せるだろう。そんな者達を超越者と呼んでいるが大体の人は普段は闘気を沈めておりそんな事は分からないのだが強者という者は本能なのか、それとも修行で培われた感なのか大体分かってしまう。


先ほどの超越者の例は非常に希なケースであり大体は緊張状態、いわゆる戦闘中に昂ってくれば纏うみたいな感じだ。『闘気』は強者の出すプレッシャーのそれであり客観的に見た単純な強さの目測、パラメーターの様なものである。多少の防御にも使えない事もないが格下相手にしか通用しないだろう、だが逆に言えば『闘気』というモノは格下キラーでありもし格下の者が『闘気』を感じて背筋に冷や汗をかきながらも意地で突貫した所でダメージは与えられないだろう。


仮に武器がかなり上質であれば『闘気』を抜ける事もある。しかし基本は『闘気』を抜ける事が出来るのは『闘気』を纏った一撃かそれ相応の魔力のみ。もちろん抜け道も存在するが基本はそれのみなのだから格下キラーだというのは納得して貰えたと思う。


『気』はもちろん『闘気』だけでなく他の使い方も出来る。



シンが闘気を纏おうと思えば出来るだろう、だがこの身体でそれをしてしまえば最悪一瞬でガス欠になって動けなくなる、なんて事になりかねない。それ程までに潜在的な『気』の量が少ない、はっきり言って異常なまでに。これではまるで……



「はっ、こんな事考えても意味ねぇか」


「うる、せぇな!ちょこまかと、さっさと倒れろや!」



本当に嫌になる。

会った時から分かっていた、一目見たときから分かっていた。けれども頭で理解しようにも心はそれを一方的に拒絶する。押し寄せる感情の波を抑えるので手一杯だった。





『私の分も生きて……本当に大好きだった、あぁわたし幸せだったなぁ』




余りにも似すぎていた。

アイツに。




「あぁ……」


「な、いつの間に!?」


「ほんとやってられないな」



一瞬で男の後ろに移動したシンはおもむろにナイフを投げた。ヒュッ、と風をきる音が辺りに響く。そしてナイフは男の足に刺さった、なんの抵抗もなく突き刺さったナイフに刺された本人は一瞬何が起こったか分からなかったが暫くして大声を上げる。



「ガァ”ァ”ァ”ァ”ァ”、お、おれのあしがぁ……」



足を抑えて痛みに苦しみながら床を這いずる男をまるでゴミを見るかのような目で見下しながら近付いていく。嫌な事を思い出してしまった、いや忘れる事自体が許されない。そう言われているようで。



「てめぇ!」


「……」


「ぐぁぁぁぁあ!」



もう1人の男が走りながら剣を横に薙ぎ払ってくる、不意も何もないただ怒りを込めて振るわれた攻撃なんて当たるはずもない。酷く冷めた目で男を一瞥したあと、後ろに下がりながら手に持った3本のナイフを同じ要領で投げ、それはなんの抵抗もなく男に刺さる。たかだかナイフが刺さった程度でのたうち回る、痛みに慣れていなくて平和ボケしている証拠だ。




アイツは身体に剣が刺さっても泣かなかった。


アイツは自分の骨が折れても他人の心配をした。


アイツは例え負けると分かっていても引かなかった。


アイツは誰かを守る為なら自分の事なんて二の次でひたすら一生懸命だった。


アイツは……



『私はね、皆が笑顔でいてくれるんならそれで満足なんだよ』




「あぁ、イライラする……俺の気が変わらないうちに消えろ。さもなくば……」


地面を蹴る。

ただ蹴るだけではない。気を圧縮し足の裏に集めて一気に解き放つ。


文字通り一瞬で最後の1人の後ろに回ったシンはいつの間にか手に握っていた2本のナイフを首元に押し当てる。


「殺すぞ」


「ひ、ひぃぃぃ!?」


後ろから蹴ると男はバランスを崩して倒れ込むが直ぐに起き上がると仲間を連れて一目散に消えていった。


1人残されたシンは空を見上げる。



「ほんとうに、やってられねぇな」


ぽつりと呟かれた悲しみに溢れたその言葉は誰にも聞かれることも無く消えていった。

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