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第2話
















「つまり貴方にも良くわからないと……」


「まぁそうだな」


「ど、どうするんですかこれ!」


「んー……さぁ?」



空を飛んで挙句に身体が入れ替わるという摩訶不思議体験をした亜里朱の脳内は以前として大荒れだ。


しかも目の前の男……見た目はまんま亜里朱なのだが彼も何故こんな事になったのか全く分からないと言う。何でも助けようと近付いたら光に包まれたとか、自分も同じような光に包まれたのを覚えていた亜里朱は目の前の男が嘘を付いていないのを悟る。




「まぁそんな細かい事はどうでもいいじゃねぇか」


「良くないよ!」




ははは、と笑う目の前の自分。私はそんな大口を開けて笑ったりしない、はしたないのでやめて欲しい。



「一生このままとか絶対ありえないよぉ……」




はぁ〜、と長いため息をつく。そうだ、自分はまだ何も出来ていない。これから自分だって人並みに幸せになってそれなりに良い人と一緒になって、子宝に恵まれて……



「夢見るのはいいがちゃんと現実も見てくれよ?というかお前絶対処女だろ」


「ばっ、何言ってるんですか!馬鹿なんじゃないですか!」


「その反応は図星だな。安心しろよ、そうやって夢見てる女ほどろくな出会いはあったもんじゃないから」




顔が真っ赤になっている事を自覚しながら自分を落ち着ける。これ以上まともに相手をしていてはまた墓穴を掘りそうだ。けれども彼の言葉を聞いてむっ、としてしまう。私だって女の子なのだ。少しは夢見たってバチは当たらないはず。



「私だって……女の子なんです。少しぐらい……夢見たって」


「……あー、はいはいわかったわかった。もういいから止めてくれ」



心底嫌そうに言う彼に言葉を遮られる。心なしか彼が私を見る目は凄く冷めたようなものを見るような目をしているように思えた。



「ちっ、どいつもこいつも……」


「何ですか?」


「何でもねぇよ。取り敢えずお前には世界を救って貰う、これは絶対だ。というか強制だな、良かったなこれからはお前が勇者だ頑張ってくれ」




何処か人事のように言う彼。

世界を救え、そんな事をいきなり言われてもまるで意味が分からない。生まれてからずっと平和に流されるように生きてきた亜里朱からしたらまるで想像が出来ないのも無理もない。そんな事はゲームや漫画の世界の話なのだから。



「そんな事言われても……私にはどうすればいいか分からないよ……」


「大丈夫、大抵の事は適当に武器振り回したり魔法使ったりしてたら解決するから」


「魔法使えるんですかっ!?」


「お、おう。というかお前ほんと表情が忙しいな……そうかお前んとこは魔法文明がないのな。身体からは微塵も魔力とか感じないし」



魔法が使える、そう聞いて柄にもなくテンションが上がってしまう。誰だって1度は夢見るものだ。空を飛んだり炎を出したりと1度は想像した事はないだろうか。



「試しにやってみろよ。適当にちっこい火を想像して『ファイア』って言ってみろ」


「えっと……『ファイア』」



柄にもなくテンションが上がりきっている亜里朱は手を突き出しさながら物語に出てくる魔法使いのように右手を突き出しながらそう言った。想像するのは火、取り敢えずライターの炎でいいかな。そう思いながら亜里朱は魔法を発動した。


亜里朱が魔法を発動した瞬間、手のひらからそれは巨大な炎の塊、もはや隕石のように大きなその塊は目の前の草や木あるもの全てを薙ぎ払いながら突き進み遠くの山にぶつかり合い山を跡形もなく消し飛ばした。

流れる沈黙。



「ってこれどうするんですかぁぁぁ!」


「いやいや俺がやったんじゃないし」


「あな、貴方が試してみろって言ったんですよ!責任とって下さいよ!」


「お前が力込めすぎなんだって、だからわざわざちっこい火を想像しろと……」


「ライターの火でこうなるなんて誰も思わないよ!」


「ライター?そりゃ恐ろしい兵器なんだな」


「なわけないでしょう!?」




ふー、ふー、と肩で息をする。この男にまともに付き合っていると此方が持ちそうにない。そもそもこんな事になっているのは誰のせいなのか。しかし彼も悪くなければ自分も悪くない、それどころか彼は自分を助けてくれようとしてこうなったのだからとばっちりも良いところなのだろう。



「もういいです……」


「そうか。取り敢えずあれだ、街に行こうか」


「行けばいいんでしょう……というより貴方の名前を教えて貰えませんか?いつまでも貴方、ってのも可笑しい話ですし」


「確かにそうだ」



そう言って彼はむむむ、と唸る。自分の名前にそんな考える事があるのだろうか。少ししてから自分の中で納得がいったのか彼は口を開いた。



「取り敢えず俺の事はシン、とでも呼んでくれ。そういう訳でお前の名前も教えてくれよ、現状じゃお前の名前を俺が名乗る事になるだろうしな」


「そうですね、私は更西 亜里朱といいます。更西が性で亜里朱が名前になりますね」


「分かった。ひとまずだが亜里朱、名前を借りるぜ。お前も俺の名前使ってくれや、宜しく頼む」



そう言いながら此方に手を差し出すシンにつられて自分もその手を握り返す。

まだ完全に理解に追い付いた訳ではない亜里朱は色々諦め始めていた。きっとこういう不可思議な事はもう考えたら負けなんだと、そもそも異世界に飛ばされた時点で自分の当たり前が通じる筈が無かったのだと自分に言い聞かせるようにした。


異世界に飛ばされただけでなく、異性と身体が入れ替わり何やら世界を救えとわけも分からないことを言われ普通ならパニックになって発狂しても可笑しくないのだがここまで来るとひと回りしてきて諦めの境地に入るというものだ。


以前としてやる気のなさそうにしている男、今は自分の体であるが彼とはウマが合わない。そんな気がする。前途多難だ、これからどうしようか。



何度目か分からないため息をこぼしながら2人は歩いて行く。








――――――――








「ぜぇ、ぜぇ……もう無理だ」


「だらしないですよ、ほら男の子ならもっと頑張ってよ」


歩き初めて数時間。以前として森は続いており2人はまだ抜けれていない。数時間と言えどもずっと歩き続けていれば疲労は自ずと溜まっていく、だが2人は実に対照的だ。シンは息が上がっており心底辛そうだ、それに比べ亜里朱には微塵も疲れを感じられない。


「んなもん、お前が俺の身体使ってるから……だろ。ていうか絶対運動とかしてないな、この程度で息が上がるとは……引きこもりか?」


「違うよ!?、まぁ確かに運動はろくにしてなかったけど引きこもりではありません。用事がなければ家にいることは多かったのは確かだけど……」


「お前絶対友達いねぇだろ」


「失礼だよっ!?私にも友達ぐらい……いたよ、何人かは」



徐々に萎んでいく言葉、そんな亜里朱にジト目を向けるシン。実際に友達は多くはない、じゃあ浮いているのかと言われればそうでもない。基本的に落ち着いている場所が好きでぼーっと何かを眺めているのが好きだった亜里朱は自然と1人になりがちだった。話し掛けられれば普通に受け答えするし、愛想だって悪くない。けれども友達、と言える程親密な人はさほど多くないのは紛れもない事実だった。


本当は容姿がとても整っていて雰囲気から亜里朱に周りがたじろいて話しかけなかっただけなのだが。実際に告白も何度もされているし、特に仲良くもないのに頻繁に声を掛けられるのもそのせいだ。だがそれは本人が知る由もない。




「あー、疲れたぁ……休憩しようぜ」


「そんな事言ってたら日が暮れちゃいますよ?私、野宿とか絶対やですから」


「えぇ……どう足掻いても街までたどり着かねぇって。だってまだ半分も進んでないっぽいし」


「え、嘘ですよね?」


「ほんとほんと」



嘘ではなく本当だ。まだ身体が入れ替わる前に凡その距離は分かっているシンだからこそ言える事だ。元よりこんな事になるなんて予想打にしていない事もあってか殆どノープランで2人は歩き進めている、入れ替わりさえしなければものの数秒で目的地についていたのだから仕方がないと言えば仕方がない。


しかし運が良いのか悪いのかまだモンスターの類には遭遇していない。少なからずこの世界にはモンスターなるものが生息している、もちろん人に襲い掛かってくるモンスターが殆どなのでこうしてまだ遭遇していないのは紛れもなく幸運である。



「……ん?やべぇな」


「どうかしましたか?」



木に寄りかかって座っていたシンが突然立ち上がる。それにつられて亜里朱も同じように立ち上がる。



「何人かこっちに来てるな。真っ直ぐ向かってきてるから明らかに俺達を追ってきてる」


「ど、どうして……って何でそんな事が分かるの!?」


「魔力を感じるのもそうだが、人の気を感じるのと風が教えてくれたのさ。質からみて明らかに一般人じゃないからこりゃ軍か?取り敢えずこのままいけば直ぐに追いつかれる」



亜里朱にはシンの言ってる事が半分ほど良く分からなかったがそれでも今凄くピンチなんだ、という事は分かった。そうと分かれば早く逃げなければならない、歩きだそうとするが手を引っ張られるのを感じ足が止まる。


「待てよ、どうせあっちはこっちの魔力辿って来てるんだしお前が魔力隠すかしない限り逃げれないぞ」


「ど、どうするんですか!?私達このまま……」


「まぁ捕まったら殺されるか一生牢獄の中だな、俺達身分証明出来ないし山1つ吹き飛ばしたし」


「な、なんでそんな笑ってられるんですか!もうぅ……」



ケラケラと笑うシンに亜里朱は泣きそうになる。一般人ならともかく軍に目を付けられて追われている、ずっと気ままに平和に生きてきた亜里朱からすれば絶望が押し寄せて来ているのと同義なのだ。



「まぁ落ち着けって。逃げられないなら倒しゃいいんだよ」


「そんな事ができるわけないよ……」


「俺だったらそうだな、けどお前なら余裕だ」



キョトンとする亜里朱。私が?というふうに自分を指さす。うんうんとニコニコ笑って首を縦に振るシン。



「無理に決まってるでしょぉぉ!」


「ほらサクッと倒してくれよ」


「だから無理ですって、私自慢じゃないですけど腕相撲ならクラスメイト全員にだって勝てない自身があるからっ!」


「えぇー、ほら『ファイア』でもいいじゃん」


「あれ人に使ったら死んじゃうから……」



明らかに『ファイア』はオーバーキルだ。あんなもの人に使ったら骨ごと消え去るに違いない。


「いたぞ!おい、お前ら……」


「わ、私は逃げるからね!」


「ちょ、おい!」



一目散に亜里朱は逃げ出した。後ろは振り向かずひたすら全力で。勝てるはずがない、なら逃げるしかない。杖やら剣を持った明らかに一般人じゃない格好を見た瞬間戦うだなんて微塵も考えられなかった。


しかし直ぐにシンが付いてきていない事に気が付いた亜里朱は走りながら後ろを振り向いた。



「あれ?誰もいない……」



だが後ろを振り向いてもシンの姿がないどころか武装した軍の人すらいない。訳がわからずキョトン、とする亜里朱だが取り敢えず引き返す事にする。もちろん全力ではなく直ぐに逃げれるように警戒しながらだが。


そこで気が付いた。


「私、もしかしてめちゃくちゃ速い?」



そのまさかだった。








「お前……おいて、くなよ!」



豆みたいなシンと軍を見付けた亜里朱は取り敢えずシンに駆け寄った。近く理解に苦しんでいた亜里朱だが実際にこうも体験してしまえば納得するしかない。自分は今物凄く早い、それこそ最高時速の車より軽く速い。



「だって、こんなスピード出るなんて思わないよ普通」


「いいから……アイツらどうにかしろよ!」



ぜぇぜぇと息を切らしながら後ろを指さすシン。後ろでは剣を抜き走ってくる者や器用に魔法を詠唱しながら走ってくる者もいる、飛んでくる炎の塊や風の塊を辛うじてかわしていくシンを何処か亜里朱は他人事のように見ていた。


もちろん自分にも飛んできているのだが飛んでくるスピードが遅すぎるのでまるで脅威を感じられない、いや充分速いが何故か不思議と脅威を感じられなかった。



「へぇー、それが人にモノを頼む態度?」


「そういうの……ほんと、いいから!」


「冗談だよ。けどあの人達はとてもじゃないけど倒せないよ?」


「大丈夫、だ。まず右手を……大きく振りかぶれ」


「こうですか?」


「んで……思いっきり振り抜け!」



心に余裕があった亜里朱は言われるがままに右手を振り抜いた。しかしこんなことをして何になるのだろうか。直接手が当たれば確かに痛そうだが空をきったところで何になるのか。


そう思ってた頃が亜里朱にもありました。




「な、なに!?うわぁぁぁぁぁ……」


「えぇ……」


「ぜぇぜぇぜぇ……」




亜里朱が右手を振り抜いた瞬間、風が吹き荒れ草木は激しく揺れ始めて大規模な竜巻が発生した。辺りの木や地面を抉るほどの威力の竜巻はあろう事か軍全員を吹き飛ばしてお星様にした。


「完璧だな!」


「これなんてファンタジーなのかな……」



こんな調子でやっていけるのか。

亜里朱はとてもとても不安になった。

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