魔女と魔物の島3
「……これは」
襲撃を受けたB地点の駐屯地にやって来たヒカリは、目の前の状況に言葉を失った。駐屯地の施設は無残にも破壊されていて。辺りは負傷した彼女の仲間の魔女達の姿で溢れかえっていたからである。
「……想像以上の惨状ね。とにかく、私達は周囲に警戒しながら負傷者の保護にあたるわよ」
ウォルタが言った。
「お、おう! ……しかしこれほどの被害を出すなんて一体どんな魔物なんだ」
フレイが負傷者に肩を貸しながら言った。
「……いえ、魔物とは限らないでしょう。アジトに報告に来た方は、何者かの襲撃を受けたと言っていましたからね」
フウが負傷者の手当てをしながら言った。
「魔物以外の何かの可能性があるってことか?」
グランが周囲を警戒しながら言った。
「ええ。とくにわたくしやウォルタさんとフレイさんはその存在に心当たりがあるはずです」
フウが言った。
「それって……まさか!」
ウォルタがそう言いかけた次の瞬間、どこからともなく現れた無数の巨大な木の枝の様なものが彼女達の周囲を襲った。
「っ!? 魔物!?」
ヒカリは枝の襲撃をかわすと腰のホルスターから魔法銃を引き抜き、周囲を見回した。
「皆さん! 大丈夫ですか!」
「大丈夫、平気よ! それより一体どこから攻撃を!」
銃を構えたウォルタが言った。
「フウ! フレイ! くせ者の相手はアタシらに任せて負傷者を守れ!」
グランが言った。
「守れって言われても、どこから攻撃が来るか分かんないだぞ!」
フレイが冷や汗を浮かべながら言った。
「皆さん! 落ち着いて下さい! おそらく敵の目的はわたくし達を混乱におとしいれることです。ここは、ヒカリさんの指示に従いましょう」
フウが言った。
「そうね。ヒカリ!」
「はい! 皆さんは負傷者の護衛をお願いします! 謎の枝の群れは私が対処します!」
ウォルタの言葉にヒカリが答えた。
「何!? ひとりであの数を相手にすんのか!?」
フレイが言った。
「はい、この手の相手に有効な手は持ち合わせています」
そう言うとヒカリはふところからひとつの魔導石を取り出した。
『ショット』
ヒカリは魔法銃にその魔導石をスキャンした。それと同時に、再び無数の巨大な木の枝が襲って来た。
「来た! 落とします!」
そう言ってヒカリが魔法銃の引き金を引くと、その銃口から無数の光の粒子が放たれ、それらは襲い来る枝の群れをひとつ残らず撃ち落とした。
「……す、すごい」
その光景を見たウォルタが呟いた。
「ふぅ……これで終わりだと嬉しいのですが」
次の攻撃があることを懸念したヒカリの言葉に、ウォルタ達は唾を飲み込んで周囲を警戒した。その場は一時の静寂に包まれた。
「相変わらず流石だな」
突如、その静寂を破って、何者かの声が響いた。五人が声のした方向に顔を向けると、そこにはフード付きの黒いローブを身にまとったひとりの女性の姿があった。
「……どちら様かしら。今、立て込んでいるのだけれど」
ウォルタが警戒しながら尋ねた。
「私か? ふふ、私のことならそこの彼女がよく知っているよ。なあ、ヒカリ?」
そう言うと女性はフードを外した。するとヒカリと同じ金髪が風になびいた。
「っ!? あなたは……」
目の前の女性の素顔を見たヒカリは言葉を失った。
「おい、どうしたんだヒカリ? 誰なんだそいつは?」
フレイが尋ねた。
「……姉さん……です。私の姉の……アカリ姉さんです」
ヒカリが答えた。
「姉貴だぁ? なんだよ驚かせるなよな」
グランが言った。
「グラン、警戒を解かないでください。彼女、ただならぬ空気をまとっています」
フウが言った。
「ヒカリ、そのあなたの姉はここに何しに来たのかしら?」
ウォルタが冷や汗を浮かべながら尋ねた。
「……分かりません。姉は一年前に失踪し、行方知れずでしたから」
そう言うとヒカリはアカリそばまで歩み出た。
「……姉さん……なのよね?」
ヒカリが尋ねた。
「ああ、そうさ。私はお前の姉だ」
アカリは笑顔で答えた。
「……今までどこで何を! みんな心配して!」
「すまなかった心配をかけて、でもこの通り私は帰って来た。ある目的を果たすためにな」
「……目的?」
「ああ」
そう言うとアカリはヒカリに片手を差し出した。
「そう……お前を消すというな」
「え?」
突如、アカリの手から出現した鋭利な木の枝がヒカリに向けて放たれた。
「っ!?」
「ヒカリ!」
隙を突かれ動けなかったヒカリの体を、ウォルタが突き飛ばした。それによりヒカリは放たれた枝をかわす形となった。
「……ちっ、邪魔者が」
そう言うとアカリは再び手から木の枝をウォルタとヒカリに向けて放った。
「させるかぁ!」
しかし、その攻撃は間に駆けつけたフレイの剣撃によってはじかれた。
「ウォルタ! ヒカリを!」
フレイが剣を構えながら言った。
「分かったわ! ヒカリ、大丈夫?」
ウォルタが尋ねた。
「……そんな……何で……姉さんが」
そう呟くヒカリの声は震えていて、その視線はウォルタと合わなかった。彼女はパニック状態に陥っていたのである。
「……無理もないわね」
そう呟くとウォルタはヒカリに肩を貸し、アカリの元から離れた。
「……魔女共が、邪魔をするなぁ!」
「ぐわっ!」
アカリの放った攻撃に、フレイは突き飛ばされた。
「フレイ!」
「フレイさん!」
フレイの元に駆け寄ったグランとフウが言った。
「あ、ああ平気だよ。それよりこの枝の攻撃……」
フウが言った。
「ああ、さっきの謎の枝の襲撃もこいつの手によるものに違いないな。ヒカリの仲間は魔物じゃなくてこいつにやられたってわけか」
グランが言った。
「それにその攻撃の禍々しさ、魔法とは似て非なる者です」
フウが言った。
「……ってことは」
フレイはフウに顔を向けた。
「ええ。この力は魔物と同様のもの。人にして魔物の力を操る存在。わたくしの知る限りそれはただひとつ!」
フウは唾を飲み込んだ。
「彼女は……鬼女です!」
フウの言葉にアカリは不敵な笑みで答えた。




