魔女と化かし合い3
「来たか」
午前中と同じく、酒場の席に腰かけていたギランが言った。彼女の前にはウォルタ達四人の姿がある。
「ええ」
ウォルタが答えた。その顔は自信に道溢れていた。
「……その顔、何か策をろうして来たようだな」
「もちろん、あなたを打ち負かすとっておきのをね」
「くくく……面白い、その策とやら見せてもらおうか。まあ、勝つのは私だがな」
「それはこっちの台詞よ……てなわけで、後は作戦通りに頼んだわよ、フウ」
「はい」
そう言うとフウはギランの向かいの席に腰を下ろした。
「ん? 何だ、相手はあんたか」
ギランが言った。
「ええ、何か不都合でも?」
フウが尋ねた。
「別に、誰だろうとかまわねぇぜ。結果は同じだからな」
「けっ、余裕見せやがって。フウ、そいつの鼻っ柱、へし折ってやれ!」
グランが言った。
「頑張れよ、フウ! 精一杯応援するからな!」
フレイが言った。
「え、ええ……お二人共、お気持ちは嬉しいのですがもう少しポーカーフェイスで頼めますか? 今回の作戦、流石のわたくしとはいえ、かなりデリケートなもの故に、集中したいので」
フウが二人に軽く釘を刺した。
「そ、そうだな」
「あ、ああ、ポーカーフェイスだなポーカーフェイス」
グランとフレイの二人はわざとらしく顔をこわばらせた。
「この二人にポーカーフェイスは無理ね」
ウォルタがため息混じりに言った。
「ははは、中の良さは相変わらずだな。今回も楽しい勝負になりそう……」
「そう笑っていられるのも今の内ですよ」
ギランの言葉を遮ってフウが言った。その瞬間、向かい合う二人の空気が一変した。
「……ほう、いいなその顔、勝負師の顔って奴だ。前言は撤回しねぇ。やっぱりあんたとなら楽しい勝負ができそうだ」
「あいにく、こちらには果たすべき使命があります。とっとと負けて頂いて、職人の居場所を教えてもらいますよ」
「くくく……いいだろう、勝負開始だ!」
テーブル上にカードが並べられ、ギランとフウの神経衰弱勝負が始まった。
「さて、先手はそちらに取らせてあげよう。あんた達が用意してきた策とやらも気になるしな」
ギランが言った。
「この野郎、相変わらず余裕かましやがってぇ」
グランが歯ぎしりしながら言った。
「おいグラン、ポーカーフェイスだぞポーカーフェイス」
フレイがグランをなだめながら言った。
「……あなた達ねぇ、せっかくの緊張感が台無しじゃないのよ。まったく、フウ、頼むわよ」
ウォルタが言った。
「心得ておりますよ。さて、ギランさん、わたくしが先手でよろしいのですね?」
フウが尋ねた。
「ああ、構わねぇぜ」
ギランが答えた。
「分かりました……ではこの勝負、私の勝ちですね」
「……何? あんた今何つった?」
「言葉通りですよ。この手番で私が全体の半数以上のカードを獲得して見せます。残念ですがあなたに手番が回ってくることはありません」
「……ふ、ふははは! 面白い! やれるもんならやってみな!」
「了解しました。ではそうさせてもらいます」
そう言うとフウはテーブル上のカードを二枚めくった。それらのカードの表面の数字は一致した。
「ほう、言うだけのことはあるな。続きをどうぞ」
ギランが言った
「では」
そう言うとフウは再びテーブル上の別のカードを二枚めくった。それらのカードの数字はまた一致した。
「……ほう」
ギランが言った。
「再び、参ります」
フウは再びカードを二枚めくった。それらのカードの数字はまたまた一致した。
「……」
その光景を目にしたギランは言葉を失った。
「おや? どうかしましたか?」
フウが若干の笑みを浮かべながら尋ねた。
「……いや、別にな。続きをどうぞ」
「かしこまりました」
そう言うとフウはカードをめくった。例のごとくそれらの数字は一致した。
(……どうなっていやがる、偶然にしちゃできすぎだ。これがこいつらのいう策って奴なのか?)
今まて余裕の表情を見せていたギランの顔は隠しきれない焦燥をおび初めていた。その間も、フウはテーブル上のカードを流れるように獲得していった。
(まずい、このままじゃこいつの言葉通り、半数以上の札を取られちまう! どうにかしてこいつらの策、否、イカサマを見破らなくては!)
ギランの体は本人も気づかない内にテーブルに対して前のめりになっていた。もちろん、フウのカードを獲得する手は止まらない。
(くそぅ、迂闊だった! まさかここまでの手段を持ち込んで来るとは、予想外だ! 先手を奴らに与えたのはまずかった! 先手は私が取るべきだった! そうすれば、この私の魔法によって、テーブル上のカードは全て私の者同然だったのに! ……って後悔している場合じゃない、イカサマを、イカサマを暴かなくては!)
襲い来る後悔と焦燥の波によってギランの脳内はパンク寸前になっていた。彼女の頬からいくつもの大粒の汗が流れ落ちた。
そして、遂にフウの手が28枚目のカードに伸びた時だった。
「ちょ、ちょっと待てぇ!!」
ギランがかつてないほどの大声でさけんだ。
「……どうしました? まだ私の手番は終わっていませんが?」
フウが余裕の表情で尋ねた。




