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魔女と廃船4

ウォルタの握る銃が自動追尾弾発射可能に、フレイの握る剣が自動探知ロープに変化した。

「これでも!」

「食らえ!」

ウォルタの銃から青く光る銃弾が放たれ、フレイの剣はしなるムチの様に伸びた。やがて、空中で爆炎が上がり、姿を現した魔物は光の粒子となって消えた。

「まずは一匹ね」

ウォルタが言った。一方、フレイの放った炎のムチも空中で見えない何かを捉えた。

「これで二匹目!」

空中で炎が上がり、姿を現した魔物が光の粒子となって消えた。

「これで!」

「ラストよ!」

残りの一体をフレイのムチが縛りあげ、それをウォルタの銃弾が貫いた。

「ふぅ、お疲れ様。相変わらずのナイスコンビネーションね」

「へへ、当たり前当たり前。それじゃあ船長室に向かおう!」


「おじゃましまーす……って、うわ、物がいっぱいだ。これなら何か手がかりになるものがあるかもな」

船長室内に足を踏み入れたフレイが言った。

「……ご明察、フレイ。早速、それらしきものがあったわよ」

そう言うとウォルタはある場所を指差した。そこには大きな机が置いてあり、その上には分厚い本が置かれていた。

「こいつは一体なんだ?」

本を目にしたフレイが言った。

「ふーむ、どうやら日記帳のようね。持ち主の名前はイレア、女性の名前ね」

「へぇ、女性の船長か。なんかかっこいい! でも、この船にはウチら以外、誰も乗ってないぞ?」

「……どうやら、それは当然のことみたいね」

日記に目を通したウォルタが言った。

「ウォルタ?」

「……この日記の中身を見れば分かるわ。おそらく彼女はもう、この世にはいない」


「……なるほど、そういうことか」

日記を見終えたフレイが言った。

「ええ、結論から言って、フウに取り憑いているのは、彼女の霊ね。日記によれば、彼女は船が大好きな冒険家だった。しかし、ある時大嵐に遭遇し、命を落としてしまった」

ウォルタが言った。

「けど、船が大好きだった船長さんは、この船から離れたくなくて、幽霊の姿でこの船にとどまっているのか」

「そういうことね」

「でもよ、だとするとフウの体を使って船を壊そうとしているのはどうしてなんだ、船が大好きならそんなことするとは思えないな」

「いいえ、大好きだからこそ、この船を壊そうとしているのよ」

「どういうことだ?」

「おそらく彼女はあの世でも船と一緒にいたいのよ。だからこの船を壊すことで、船の魂も向こうに連れて行こうとしているのね」

「そうか……でもそいつは、なんというか、ちょっと自分勝手じゃないか?」

「ええ、船には船の魂がある。その魂は例え持ち主であったとしても、奪うことはできないわ」

「そうだな。だったらそれを教えに行こう! 船長さんに!」

「ええ、かわいそうだけど今の彼女の居場所はこの世界ではないものね」

二人は頷き合うと、船長室を後にし、フウとグランのもとへと向かった。


「うおっ! 危ねぇな、コラ!」

フウの蹴りをかわしたグランが言った。霊に取り憑かれたフウと対峙する彼女は苦戦を強いられていた。

『船、壊す……貴様、邪魔!』

そう言いながらフウはグランに蹴りの猛攻を浴びせた。

「くそ、ターゲットを船からアタシに切り替えてくれたのはうれしいが、こんな化け物相手じゃ身が持たねぇぞ!」

そう言った次の瞬間、グランは破壊された船の床に足を取られ、バランスを崩した。

「っ!? しまった!」

『消えろ!』

フウの蹴りがグランの体を捉えた。しかし、その蹴りは青い閃光によって遮られた。

「……たっく、おせぇぞ。ウォルタ! フレイ!」

グランが笑顔で振り返った先には、銃を構えたウォルタとフレイの姿があった。

「待たせたわね、グラン。ケガはない?」

ウォルタが言った。

「なんとかな。それより、謎解きは済んだのかよ?」

グランが尋ねた。

「ああ! ばっちしだ! 後はウチらに任せろ!」

フレイが言った。

「そうかい、そんじゃ選手交代だ。頼んだぜ」

「ええ」

そう言うとウォルタはフウの前に歩み出た。

「初めまして船長さん、私は魔女のウォルタ。まずはあなたにお礼を言うわ、あなたの船と出会えたおかげで私達は大嵐から一命を取り留めることができた。ありがとう、本当に助かったわ」

『……』

「それと、二つ謝罪をさせてもらうわ。ひとつはあなたの船内を勝手に散策したこと。もうひとつはあなたの自室に入り、勝手に日記を読んだこと。ごめんなさい、配慮に欠ける行為だったわ」

『……』

「そして最後にひとつ、あなたにお願いがあるわ」

『……何だ』

「今すぐ、私達の仲間の体から出て頂けないかしら、フウはあなたの操り人形なんかじゃないのよ」

『……それは、無理だ』

「何ですって?」

『……こいつの体は船を壊すのに不可欠だ。私とこの船はいつも一緒だった。だからこの船の魂も一緒に向こうに連れて行く! この女の体はその後に返してやる』

「そんなの間違ってる!」

フレイが前に歩み出た。

「あんたがこの船の事を大切に思っていることは分かったよ。だけど、本当にこの船の事を思うのならば、破壊するなんておかしいよ!」

『……なんだと? 貴様が私とこの船の何を知っているというのだ!』

「知らないさ、ウチ達は何にも知らない。けど、自分の都合だけで、何かの魂を奪おうとするのは間違ってる。それだけは分かる!」

『……小娘が、私のしていることが間違っているだと、そんなはずは……うぐっ!?』

突如、フウは膝を着いた。

「……ウォルタさんとフレイさんの言う通りですよ」

フウの口が開かれた。

『……き、貴様!?』

「フウ! 意識が!」

ウォルタが言った。

「お手数をかけましたね、皆さん。でも、もう大丈夫ですよ。この船長さんの魂がわたくしを縛り付ける力は確実に弱くなっています。おそらく、お二方の言葉に心を揺り動かされたからでしょう」

『……なっ! この私が心を動かされされただと? そんなことはありえん!』

「いいえ、あなたに取り憑かれているわたくしには分かります。現に、わたくしの体で船を破壊しているときも、あなたの心は迷いを抱いていました。船を破壊し、その魂を持ち去るのが果たして正しいことなのかどうかと」

『ぐっ!』

「しかし、せっかく、生きてる人間の体を手に入れ、船を破壊する手段を見出したあなたは、今の自分の行いを正しいと信じ込み、行動に移らざるをえなかったのでしょう」

『……』

「もう、今のあなたには船を破壊しようという気持ちは微塵もない。そうですよね?」

『……私は、この船で世界を周るのが夢だった。この船と一緒になら、世界の果てまででも行けるだろうと思っていた』

「……」

『……しかし、現実はそんなに甘くはなかった。嵐の中で私は命を落とし、私はこの船を残して、この世界の住人ではなくなってしまった』

「……」

『……怖かったのだ。この船なしで新たな世界へ旅立つのが。だから、この船の魂も引っ張っていこうとした。そんなこと、許されるはずがないのにな』

「……船長さん。いえ、イレアさん。私も船には馴染みのある者ですから、あなたの気持ちも分かります」

『……お前』

「確かに一人きりで新たな世界に旅立つのは誰しも不安なものです。今までそばにいてくれた者の手を取って、共に行って欲しいという思うのは、なんらおかしいことではありません。でも、その手は離さなくてはいけない。あなたにはあなたの、船には船の航路みちがあるのですから。手をつないだままではその場から進むことができない」

『……』

「この船はまだこの世界の海を走るんです。だから、お別れをしましょう」

『……ああ』

次の瞬間、フウの体から青く光る煙が解き放たれた。

「っ!? フウ、大丈夫?」

ウォルタを先頭に三人はフウのもとへ駆け寄った。

「……ご心配をおかけしました。でも、もう大丈夫ですよ。そうですよね、イレアさん」

『ええ、フウさん』

イレアの声が船内に響いた。

『皆さん、この度は多大なるご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。グランさん、数々のご無礼、謝罪します』

「おいおい、どうしたんだよ。急に物腰が柔らかになっちまって。拍子抜けしちまうぞ」

グランが笑顔で言った。

「ふふ、これが本来の彼女なのね」

ウォルタが笑みを浮かべながら言った。

「謝罪なんていいよ。こっちだって勝手に日記見たりしたんだし、おあいこだよ!」

フレイが笑いながら言った。

「少々、足を酷使された気もしますが。鍛え方がちがいますからね、この程度なんともありませんよ」

フウが両足を抑えながら言った。

『み、皆さん……ありがとう、本当にありがとうござい……』

「待った」

『へ?』

イレアの言葉をウォルタが遮った。

「その言葉を言うのは、私達じゃないでしょう?」

「……そう、ですね!」

彼女の力強い返事を四人は確かに受け止めた。そして、イレアの万感の思いを込めた感謝の言霊が船内に響き渡った。

嵐を抜けた船は、雨で濡れた甲板を日の光できらめかせた。


「おいあれ、陸じゃないか?」

フウの小舟の上のグランが言った。

「ホントだ……おい、二人共! 陸だ、陸が見えたぞ!」

フレイが叫んだ。

「言われなくても分かってるわよぉ! ……まったく、どこにあんな元気あるのかしら」

ウォルタが言った。

「ははは、年寄り臭いですよウォルタさん。ま、無理もないか、イレアさんを見送って以来数日、ずっと海の上ですものね」

操縦桿を握るフウが言った。

「と、年寄り扱いは心外ね! ……彼女、無事向こうに行けたかしら?」

「……大丈夫ですよ、彼女なら。なんせ、このわたくしの魂を抑え込むほど力強いお方ですから」

「ふふ、そうね。それじゃあ、今日も私達は私達の航路みちを行きましょう」

「ええ」

四人を乗せた小船は陸を目指して海を駆ける。柔らかな海風をその背に受けながら。

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