魔女と廃船2
「はぁ、危機一髪って奴だった。なんとか助かったよ」
フレイが言った。
「ええ、そうね。これだけの大きさの船なら、この嵐もしのげるでしょう」
ウォルタが言った。
「しかしよぉ、何だかこの船やけにボロくねぇか? いまいち心もとないぜ」
グランが言った。
「ちょと失礼ですよ、グラン。せっかくこの船に同乗させていただくと言うのに」
フウが言った。
「一息つきたいとこだけれど、まずはこの船の人に挨拶しに行きましょう」
ウォルタの言葉に頷いた三人は、彼女の後に続いて船内へと足を踏み入れた。
「ごめん下さーい、旅の者ですけどー」
ウォルタの声が船内に響いた。しかし、そこにひと気はなく、外の嵐の音以外は何も聞こえない空間となっていた。
「……あれ、おかしいわね」
ウォルタが首を傾げた。
「こんな大嵐ですし、奥の部屋にでも避難しているのかもしれませんよ?」
フウが言った。
「それもそうだな、とにかく先に進もう! この雨と海水で濡れた体もどうにかしたいしね」
「ああ、体が冷えてしょうがねぇや。風邪引く前に行くぞ」
そう言うとフレイとグランの二人はせっせと奥の部屋へと入っていった。
「ちょっと、あんた達! まったくもう、もうちょっと謙虚にできな……へっきし!!」
ウォルタは小さなくしゃみを一つした。
「まあまあ、二人の言う通り、このままでは体によくありません。先に進みましょう、ウォルタさん」
「……そ、そうね」
ウォルタとフウの二人も奥の部屋と進んだ。
それからしばらく船内を歩き回った四人であったが、人どころかネズミ一匹も出会う事はなかった。
「あれぇ、おっかしいな。誰もいないや」
フレイが近くにあったシーツで髪を拭きながら言った。
「そのようね……って、あなた! 何勝手に船のもので体拭いてんのよ!」
ウォルタが言った。
「まあまあ、ウォルタさん……しかし、奇妙ですねこんな大型の船なのにも関わらず無人だとは」
フウが言った。
「そうかぁ? アタシはこいつはいわゆる捨てられ船ってやつだと思うけどね」
同じくシーツで体を拭くグランが言った。
「なるほど、確かにそれなら納得いくな。この船、妙に年期が入っている気がするし」
フレイが言った。
「問題はそこね、それほどまでに使い古された船が、なんでこんな大嵐の中を無人で航行しているのかしら? ねぇ、フウ?」
ウォルタが尋ねた。すると、フウはある一室の扉の前に立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
ウォルタが尋ねた。
「あ、いえ。この部屋から何やら人の声が聞こえたような気がしまして」
「人の声? 誰かいるのか?」
フレイが尋ねた。
「分かりません……皆さんはここにいてください、少し確かめて来ます」
そう言うとフウはドアノブに手をかけた。
「おい、大丈夫かよ。気をつけろ、この船どうもただの廃船じゃなさそうだからな」
グランが言った。
「心配ご無用。私、強いですから」
そう言うとフウはドアを開けた。その次の瞬間、ドアの開け放たれた部屋の中から突風が放たれた。フウはその突風に揉まれるように吹き飛ばされた。
「な、何だぁ!?」
「こいつは一体!?」
「フウ!? 大丈夫!?」
その光景を目にしたフレイ、グラン、ウォルタの三人は叫んだ。すると、壁に叩き付けられたフウは、何事もなかったかのように身を起こした。
「大丈夫かよ! フ……ウ?」
フウに駆け寄ったフレイは絶句した。
「どうした、フレイ?」
グランが尋ねた。すると、フウは勢いよく三人の方を振り向いた。
「っ!? これは!?」
ウォルタの目に飛び込んで来たのは両目を赤く光らせたフウの姿だった。
「おいおい、何の冗談だ。いつにもまして目付き悪いぜお前」
冷や汗を浮かべたグランが言った。すると、フウはおもむろに口を開いた。
『……壊す』
「へ?」
『……船……壊す!!』
突如、フウは跳躍し、すぐそばの壁に飛び蹴りを入れた。その破壊力はすさまじく、船は大きく揺れた。
「どわぁっ!? ……なにしてんだお前!」
グランはフウに飛びかかった。
『っ!? ……邪魔だ!!』
フウはグランを弾き飛ばすと、再び船の破壊を再開した。
「グラン!」
「大丈夫!?」
フレイとウォルタが駆け寄った。
「……あ、ああ。アタシは平気だ。けど、あいつは一体」
グランが言った。
「どうしたんだよ、フウ。人が変わっちまったみたいに……まさかさっきの突風で飛ばされた時、頭を強く打っちゃったのか!?」
フレイが言った。
「……いえ、どうやらそんな単純なものじゃなさそうよ。二人とも、彼女の背後をよく見て!」
ウォルタの言葉を聞いたフレイとグランはフウの背中を目を凝らして見つめた。すると、そこにぼんやりと青い光を放つ煙の様なものがあるのを確認できた。




