魔女と熱砂の島4
「さてと、どうやってこの溝を攻略しようかしら」
ウォルタが言った。
「単純に飛び越えるのはまず無理ですね……となると」
フウが言った。
「ええ、力でダメなら頭を使うまでよ!」
「同感です。しかし、どうやって向こう岸に渡ります? 橋でも作りますか?」
「そうしたいのは山々だけど、辺りに橋の材料になりそうなものがないのよね……ん?」
突如、溝を見ていたウォルタが何かに気がついた。
「どうしました?」
フウが尋ねた。
「……フウ、あそこを見て」
フウはウォルタの指さした溝のある地点に目をやった。するとそこには下が奈落なのにも関わらず、数個の石ころが空中に浮かんでいた。
「石が浮いている? いや、そんなはずは……まさか!」
「ええ、おそらくそのまさか……だと願いたいわね」
「ならばやることは一つ…そうですね、ウォルタさんの魔法で作り出した水を私の風魔法で飛ばすというのはどうです?」
「それ採用。行くわよ、フウ!」
「ええ!」
次の瞬間、ウォルタは手のひらから生み出した水の玉を溝の上空に向けて投げた、そしてそれはフウが風魔法で生み出した小さな竜巻に巻き込まれ、スプリンクラーのように溝に向かってまかれた。すると、そのまかれた水滴達は、先ほどの石ころのように溝の上で動きを止めたのだった。
「これで目には見えなかった"透明な橋"が見えるようになったわ」
ウォルタの言うとおり、この溝には透明な橋がかけられていた。それに先ほどのスプリンクラーによってまかれた水が付着することで、その姿を確認出来るようになったのだ。また先ほどの石ころもその橋の上に乗っかていたことで、空中に浮いているように見えたのだ。
「そのまさかでしたね。しかし、よく気がつきましたね」
「あの石ころ、おそらく天井の破片かなにかのおかげよ。あれがなければこんな橋の存在、気がつけなかったわ。さ、ととっと渡っちゃいましょう」
「ええ……しかし妙ですね」
「何がよ?」
「この道は力の道のはずです、溝を飛び越える跳躍力という名の力を試す道、だとしたらこのような橋を用意しておくのはおかしくありませんか?」
「確かに、まるでこの橋を発見できるかどうかを試されたみたいよね。これじゃあ力というより頭脳、知を使うことを求められたも同然よ」
「……もしかしてですけど、この別れ道は壁に書いてあった道の名前とは逆の事を試してくるのではないでしょうか」
「逆の事を?」
「はい、力の道と言っておきながら実際は知を試して来たことからそううかがえます」
「でもなぜそのような仕組みなのかしら?」
「おそらく、自分の得意分野の方を選ばせおいて、不得意な分野の能力を試すのが目的なのでしょう。どちらの道を選んでも、先に進めるのは力と知の両方の力を備え持つ者だけといった感じですかね。最も、奇しくもわたくし達は互いに不得意な分野の道、すなわち得意分野の道を選んだことになりますが」
「なるほどね……もしそうだとしたら、フレイとグランは!」
「ええ、心配いらないでしょう」
「……分かったよ、グラン」
フレイが言った。
「何ぃ!? 問題の答えが解ったのかよ!」
グランが言った。
「いや、分かったのはその問題の答えじゃないよ。ウチが分かったのは、この岩のどかしかただ」
「……はぁ? 頭の使いすぎでおかしくでもなったのかよ、この問題を解かねぇと岩がどかせねぇってこの壁に書いてあるだろうが。それとも他に方法があるっていうのか?」
「ああ」
「……聞かせてもらおうじゃねぇか」
「簡単さ、この岩をどかす方法、それは…」
「そ、それは?」
「力ずくで岩をぶっ壊す! 頭でダメなら力を使うまでだ!」
「……」
「な、なんだよその反応は! 名案だろ?」
「……たっく、期待させといてそれかよ……でも、ま、分かりやすくていいかもな」
「グラン!」
「へへ、付き合うぜフレイ。いっちょこの岩にどでかいのぶちかましてやろうぜ!」
「おう!」
フレイとグランは各々魔導具を構えると、それに魔力を込めた。
「いっせーの……」
「せぇ!」
フレイの繰り出した斬撃とグランの繰り出した打撃が同時に岩を襲った。そして、岩は跡形もなく砕け散った。
「……なんだぁ、思ったより簡単に砕けたぞ」
フレイが言った。
「どうやら見かけ倒しだったようだな、最初っからこうすりゃよかったってわけか」
グランが言った。
「だな。でもそれはそうとして、問題の答えが何だったのかは気になるな」
「そうかぁ、アタシはそんなのもうどうでもいいけどな。気になるんなら後で二人に聞いてみればいいだろ」
「それもそうか、じゃあ先に進もう」
「おう」
二人はさらに先へと歩き出した。
「ここは……」
ウォルタがつぶやいた。彼女とフウは遺跡内の開けた空間へとさしかかっていた。
「急に雰囲気が変わりましたね……おや、あそこにあるのは」
そう言って目を細めたフウの指さした方向には巨大なスイッチらしき物を備えた壁があった。
「いかにもって感じ、怪しすぎるわね」
ウォルタが言った。
「しかしここは行き止まりですし、アクションを起こすならあれを押す他ないようですよ」
フウが言った。
「それもそうね、鬼が出るか蛇が出るか……押すしかないようね」
そう言うとウォルタはスイッチに近づくと、それを両手で押した。
「……何も起きないわね」
「いいえ、ちゃんと起きていますよ!」
フウの声に振り返ったウォルタの目に飛び込んできたのは二体の人形の姿をした魔物の姿だった。
「魔物!? 罠だったてこと?」
「どうでしょう、とにかく蹴散らしますよ!」
そう言うとフウは手のひらの収納魔方陣から槍を取り出すと、目の前の魔物との距離を一気に詰めた。すると魔物は自らの体を回転させ、周囲に巨大な砂嵐を起こし始めた。
「目眩まし!? 小細工を!」
「フウ、後ろ!」
ウォルタの声を聞いたフウが背後を振り返ると、もう一体の魔物が突進を繰り出して来ていた。フウはすかさずその攻撃を槍で反らした。
「フウ、大丈夫?」
「ええ、助かりましたウォルタさん。しかしこれは参りましたね」
「この空間全体を覆うほどの巨大な砂嵐、これじゃあ奴らの居場所が分からないわ」
「しかし奴らはわたくしに攻撃を仕掛けて来た。向こうはこちらの居場所を察知出来るようですね」
「これじゃあやられる一方だわ。長期戦になる前に何か打開策を!」
「策ならもうありますよ」
そう言うとフウは懐から何かを取り出した。
「それって魔導石?」
「ええ、こういうタイプの相手にうってつけの効果を持つ物です」
「なら早くそれを!」
「いいえ、これを使うのはわたくしではありません。ウォルタさん、あなたです」
「わ、私?」
「はい」
そう言うとフウはウォルタに魔導石の効果を伝えた。
「なるほど、それなら私の方が向いているわね。分かったわフウ、この魔導石、使わせてもらうわ!」
そう言うとウォルタは銃に魔導石をスキャンした。
『チェイス』
魔導石から音声が発せられた。
「……見た目の変化はなしか、ま、当然よね、なんたってこの魔導石の能力は!」
ウォルタが構えた銃の引き金を引き、放たれた銃弾が砂嵐の中に吸い込まれた。すると次の瞬間、二人の後方で銃弾が何かに当たる音がした。
「銃弾に目標の追尾機能を付加させるものだものね……最もその威力は著しく落ちてしまうけど。てなわけで、フウ!」
ウォルタが叫んだ。
「ええ、今の音で居場所が分かりましたよ、そこです!」
フウが繰り出した風の槍の一撃が砂嵐の向こうの魔物を貫いた。砂嵐の中で光の粒子が弾けた。
「ウォルタさん、残りの一体もお願いします!」
「了解よ!」
再びウォルタの放った銃弾が砂嵐の向こうで音を響かせ、その音の位置をフウの槍が貫いた。
「……ふぅ、やったわね。ありがとうフウ、あなたのくれた魔導石のおかげよ」
「いえいえ、例には及びませんよ。銃使いのウォルタさんだからこそ、その石の真価を発揮できたのですから」
「それはどうも、しかしこれからどうしましょう? これ以上先には進めそうにないけど」
「ふーむ、単にこちらの道がハズレだったか、あるいは……」
「あるいは?」
「もう一つの道でも同じようなアクションを起こす必要がある、とかですかね」
「あーくそぅ! 何なんだよこいつらは!」
もう一方の道で同じく開けた空間にたどり着いたフレイが言った。
「お前が不用意に変なボタン押したせいだろうが!」
同じく魔物の砂嵐に閉じ込められたグランが言った。
「しょうがないだろ、ボタンがあったら押したくなっちゃうんだから!」
「しょうがなくねぇ、自制しろよ!……って言ってても埒があかねぇか、とっととこいつら蹴散らすぞ!」
「どうやってだ?」
「こいつを使え、フレイ!」
「こいつは……魔導石か! でも何でウチが使うんだ?」
「そいつの能力はアタシには不向きなんだよ、いいから使え!」
「よく分からんが、オーケー! 使わせてもらうぞ!」
そう言うとフレイは剣に魔導石をスキャンした。
『キャプチャー』
魔導石から音声が発せられると、フレイの握った剣の刀身がロープ状に変化した。
「なんだこりゃ、ロープか!?」
変化した刀身を見たフレイが言った。
「ああ、その剣は魔物捕獲用のロープだ。そいつは魔物を自動で探知して捕獲できる! 砂嵐で姿が見えなかろうが関係ねぇ!」
「なるほどな、それなら……いっけぇ!」
フレイは砂嵐に向かってロープを放った。するとロープは砂嵐の向こうで何かを捕らえた。
「かかったぞ!」
フレイがロープを引くと、砂嵐の中から、ロープに縛られた魔物が飛び出した。
「よっしゃあ! 後はアタシに任せろ!」
グランが勢いよく振り下ろしたハンマーがその魔物を捉えた。魔物は光の粒子となって消えた。
「よし! もう一体も!」
「頼んだぜ!」
光の粒子が弾けると共に、砂嵐が消滅した。
「……ふぅ、助かったよグラン」
フレイが言った。
「いいってことよ、それよりこれからどうするよ、先へ続く道が見当たねぇ……」
グランがそう言いかけた次の瞬間、遺跡が大きく揺れた。
「うわっ! 今度は何だ!?」
「っ! グラン、あそこ!」
グランがフレイの指さした方向に顔を向けると、そこには新たな通路が出現していた。
「……通路が出現した? 一体どうなってんだ」
グランが言った。
「さっきの魔物を倒したからかな? とにかく進んでみようよ」
フレイが言った。二人が出現した道を進むと、とある開けた空間に出た。
「また広い所に出たな、今度は何が……」
「あっ、あなた達!」
フレイが声のした方を振り向くと、そこにはウォルタとフウの姿があった。
「ウォルタ! フウ!」
フレイが言った。
「おいおい、どうなってんだこりゃ」
グランが言った。
「ふふ、やはりこういう仕組みでしたか」
フウが言った。
「仕組み? どういうことだ」
グランが尋ねた。フウはフレイとグランに状況の説明をした。
「……なるほど、この場所への道は、二つの道それぞれで魔物を倒すことで出現する仕組みだったてことか」
グランが言った。
「へぇ、ってことは、ウチがボタンを押したのは正しかったんじゃん!」
フレイがグランの顔を見ながら言った。
「け、結果的にはそうだったけどよ、普通あんな怪しいボタンためらいもなく押すかよ」
グランが言った。
「ふふ、その様子だと大分フレイに振り回されたようね。大変だったでしょう?」
ウォルタが言った。
「ちょ、ウォルタぁ、まるでウチが世話のかかる奴みたいな言い方しないでよ」
フレイが言った。
「そうですよウォルタさん、どちらかと言うと世話のかかるのはそっちのきかんぼうの方の方ですよ」
フウが言った。
「だれがきかんぼうだ! ったく……ん? なんだあの光は」
壁の一部を指さしたグランが言った。
「あの光……もしかして!」
ウォルタはグランの指さした壁の部分を手で崩し削ると、その奥から光輝く鉱石が姿を現した。
「やっぱり! ミラストーンよ!」
ウォルタが言った。
「おっしゃぁ! 二つ目のミラストーン、ゲットだぁ!」
フレイの声が遺跡内に鳴り響いた。
「突然だけど、二人に問題!」
フレイが言った。ミラストーンを手に入れた彼女達は遺跡を脱出し、もと来た道を戻っていた。
「何よ?」
「何です?」
ウォルタとフウが言った。
「お、例のあの問題か」
グランが言った。
「そうそう! えーおほん! 朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足の生き物なーんだ!」
フレイが言った。
『人でしょ』
ウォルタとフウは声をそろえて答えた。




