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魔女と船出

「と、都市からの依頼ですって⁉」


ウォルタは驚愕した。彼女の姿は都市直属の魔女部隊の詰所の一室にあった。


「え、ええ」


向かいの椅子に腰かけたソルジが答えた。


「都市からの依頼かぁ、そいつはすげぇな。で、その依頼ってのはどんな奴なんだ?」


ウォルタの隣に腰かけたフレイが尋ねた。


「鉱石集めです。開発予定の巨大魔法結界に使う為の」


「きょ、巨大魔法結界? 何なのよそれは?」


「その名の通り、都市全体を覆う事が出来る程の大きさを持つ結界です。近頃、都市内部にも関わらず魔物が出現する事態が多発していまして、その事態を見かねた都市側はその結界を設置する事によって、魔物の侵入を事前に防ぐことを決定したんです」


「なるほど、確かに最近、都市内部での魔物の確認が相次いでいるものね、それこそ、以前私達がクリア神殿で遭遇した魔物だとか」


「その結界が完成すれば都市に安全が戻るって訳か。でも、なんでその材料の鉱石探しをウチらみたいなギルドに頼むんだ? 普通はソルジさん達、魔女部隊の仕事な感じがするけど」


「そ、そうですね、普段なら私達の受け持ちになるものですが、お恥ずかしい事に私達は現在、都市の復興と警備で手一杯でして、ギルドの方に頼むほか手がないもので……」


「確かに、それも重要な仕事だわ。それと比べたら、結界設置なんて大掛かりな作業、後回しにせざるを得ないわね。それでソルジさん、その鉱石の名前や、存在する場所はどこなのかしら?」


「鉱石の名はミラストーンと言います。特別な力を秘めた希少な鉱石で、それらが存在する場所は……」


「場所は?」


フレイが尋ねた。


「この大陸の外側、海の向こうの島々です」


「……は?」


ウォルタの目は点になった。


「ですので、お二人には仕事の間、しばらくこの大陸から離れて頂く形になってしまいます。も、申し訳ございません」


ソルジは深々と頭を下げた。


「……ちょ、ちょっと待って、それって大仕事じゃない! 私達の様な少人数のギルドが受け持つ仕事の規模じゃないわよ! 何故、私達に頼む訳?」


ウォルタが椅子から立ち上がりながら言った。


「私も詳しくは聞かされていないのですが、都市側は以前の都市襲撃事件に於いて大活躍をなされたお二人にどうしてもこの仕事を頼みたいそうで……」


ソルジが冷や汗を浮かべながら言った。


「実力を認めて貰えるのは嬉しいことだけど、流石に無理があるわよ。ねぇ、フレイ?」


ウォルタが尋ねた。


「そうか? ウチは面白そうだし、やってみてもいいと思うけどな」


フレイが笑顔で答えた。


「お、面白そうって……あ、あんたねぇ、今回の仕事の話は今までとは訳が違うのよ! 大陸の外よ! 外! 分かってるのそれを!」


ウォルタがフレイに詰め寄った。


「分かってるよ、しばらく家を空ける程の大仕事だってことは。けど、大陸を出れるまたとないチャンスだよ、ウォルタも言ってたじゃん、いつか海の向こうの島々に行ってみたいってさ」


フレイが笑顔でそう言った。


「それとこれとじゃ話が別よ! 私達二人で島々を巡って鉱石集めをしなくちゃならないのが、どれだけ大変か想像してごらんなさいよ!」


「うーん、確かに大変そうだけど、大陸を飛び出しての大仕事でしょ、腕が鳴るってもんじゃない?」


「いいや、鳴らないわ。いくらあなたと一緒だからって、この仕事は私達には荷が重すぎるわよ!」


「そんなことないって、やろうよウォルタ!」


「無理よ!」


「やろうよ!」


「お、お二人共、落ち着いて下さい」


言い合う二人にソルジが止めに入った。


「もしこの場で結論を出すのが難しいのであれば、今日は一旦、このお話を持ちかえって頂いて、明日にでも返事をして頂く形でもよろしいですが、どうです?」


ソルジが冷や汗を浮かべながら言った。


「はぁ、それがいいかもね。悪いわねソルジさん、一日、考える時間をもらうことにするわ」


ウォルタがため息混じりにそう言った。


「分かりました、お返事は明日ということで。こちらには気を遣わずに、くれぐれもご無理のない決断をしてください。元々は私達がするべき仕事なのですから」


「ああ、悪いなソルジさん」


フレイが言った。そして、二人は魔女部隊の詰所を後にしたのだった。





そして、その日の夕方


「なあウォルタ、依頼の話なんだけどさ」


自宅の前で、フレイがウォルタに声を掛けた。


「あれから考えたけど、ウチは是非とも受けたいと思うんだ、この依頼」


フレイの真っ直ぐな声がウォルタの背中に響いた。


「もちろん、島の外に出ることは楽しい事ばかりじゃなくて、大変な事もいっぱいあるのは分かっているよ。だけど、ウチらがその仕事を成し遂げることが、都市を守ることにつながるというのなら、ウチはこの仕事を、やってみたいと思うんだ」


「……」


「ウォルタ?」


「……フレイ、あなた怖くはないの?」


無言でフレイの話を聞いていたウォルタが口を開いた。


「こ、怖い? 何がだ?」


「その仕事の失敗よ」


「し、失敗?」


「ええ、正直言って……私は怖いわ」


ウォルタがフレイに背中を向けながら言った。


「フレイ、あなたには悪いけど今回の仕事、私は成し遂げられる気がしないの。さっきも言ったけど、この仕事、私達には荷が重すぎるのよ。ギルドがなぜ掲示板から依頼を選ぶのか分かる? それはそれぞれの依頼に各々適したギルドを割り当てる為なのよ。ギルドには適材適所があるの、今回の仕事に私達は適してないわ」


「……ウォルタは、そう思うのか?」


「ええ……あなたは違うの、フレイ?」


「ああ、ウチはそうは思わない」


「え?」


「ウォルタ言ってたじゃん、魔法は誰かの為の力だって。ウチはその“誰かに”適する適さないはないと思うんだ。その誰かを助けたいと思うかどうか、その気持ちが大事なんだよ」


「フレイ……」


「ウォルタはさ、都市の皆の事、助けたくないのか?」


「そんなこと! 私だって助けたいわよ! けど……」


「荷が重い、か?」


「……ええ」


「だったらその重い荷とやら」


「アタシ達も一緒に背負ってやるよ」


二人の背中に突如、何者かの声が響いた。


「あ、あなた達は⁉」


「フウ! グラン!」


二人の振り返った先にはフウとグランの姿があった。


「聞きましたよお二人共、都市襲撃の時に大活躍したせいで、面倒な仕事を押し付けられたらしいじゃないですか。人気者はつらいとは、正しくこの事ですね」


「その面倒な仕事に自分から首を突っ込むお前はどうかしてるよ。ま、アタシもだけどな」


フウとグランが笑顔で言った。


「首を突っ込むって……あなた達まさか」


ウォルタが言った。


「ええ、ミラストーン集め、私達二人も同行させて頂きますよ」


フウが言った。


「嫌って言ってもついていくからよろしくな」


グランが言った。


「二人共……なあ、ウォルタこれでもまだ怖いか?」


フレイが尋ねた。


「……ええ、怖いわ」


ウォルタが言った。


「ウォルタ!」


「……なんて言えるわけないでしょ、むしろその頼もしさが怖いくらいだわ」


ウォルタの顔に笑みが戻った。


「悪かったわねフレイ、柄にもなくビビっちゃって。フウもグランも、ありがとう、おかげで決心がついたわ」


ウォルタは体の前で右こぶしを握りしめた。


「ギルド、ヴィネアはミラストーン集めの依頼を受けることに決めたわ。フレイ、異論はないわね!」


「っ! ああ」


フレイが満面の笑みで答えた。





その数日後、四人とソルジの姿は都市の大陸の外れの港にあった。


「ウォルタ様、この度はこちらの身勝手なお依頼を受けて下さり、誠にありがとうございます」


ソルジが何度も頭を下げながら言った。


「い、いいのよ。魔法は誰かの為の力だもの、その力で都市を守れるのなら本望だわ、ね、あなた達?」


「おう!」


「はい!」


「まあな!」


ウォルタの問いにフレイ、フウ、グランの三人が答えた。


「ありがとうございます、皆様。それではウォルタ様、これを」


そう言うとソルジはカバンから何かを取り出し、ウォルタに差し出した。


「これは?」


ウォルタが尋ねた。


「クリア神殿のマナ様の協力のもとで開発した、ミラストーンのありかを示すことができるレーダーです。と言ってもまだ試作品の為、精度は完璧とまではいかないのですが」


ソルジが申し訳なさそうに言った。


「とんでもない、これがあれば鉱石集めがだいぶ楽になるわ。ありがとうソルジさん、マナさんにもよろしく言っといて頂戴」


ウォルタが言った。


「そう言えば、聞いてなかったけど、そのミラストーンってのはどれだけの量必要なのかしら?」


ウォルタが尋ねた。


「おっと、そうでしたね、すいません。巨大魔法結界に必要なミラストーンの数は……7個です」


ソルジが答えた。


「な、7個ぉ⁉ そんだけなら、楽勝じゃん!」


フレイが言った。


「いやいや、フレイさん、島を巡って集めなきゃならない程の希少な鉱石なんですよ。7個でも十分に大変ですって」


フウが冷や汗を浮かべながら言った。


「そ、そうなのか? まあ、この四人ならどの道楽勝だけどな!」


フレイが笑顔で言った。


「まったく、どっから湧いてくるんだよその自信は」


グランがため息混じりに言った。


「ふふ、フレイの言う通りね。この四人なら楽勝だわ! それじゃあ、出航と行きましょ……」


ウォルタがそう言いかけた次の瞬間、轟音と共に目の前の海から巨大な魚の姿をした魔物が現れた。


「っ⁉ 魔物⁉」


ウォルタが言った。


「おやおや困りましたね、これから景気よく船出行こうと思っていましたのに」


フウが言った。


「まったく、空気の読めない野郎だぜ」


グランが言った。


「船を壊されちゃたまらない、ウォルタ!」


フレイが言った。


「ええ、こんな奴とっとと片付けて出航よ!」


「ラピッド」


「マキシマム」


「スパイラル」


「アブソーブ」


四人は各々魔導具に魔導石をスキャンした。そしてウォルタの握る銃はガトリング砲に変化し、フレイの握る剣は身の丈以上に巨大化し、フウの握る槍の矛先はドリル型に変化し、グランの握るハンマーの頭部は巨大な岩石の塊に変化した。


「私達の仕事を邪魔する奴は容赦しないわ! 行くわよ、あなた達!」


「おう!」


「ええ!」


「ああ!」


フレイ、フウ、グランはウォルタの言葉に答えると魔物に向かって突っ込んだ。そして、青い流水の閃光、赤い烈火の斬撃、白い旋風の刀刃、黒い大地の鉄槌が魔物を貫き、光の粒子へと変えた。


「あの巨大な魔物を一瞬で……」


その光景を見たソルジは驚愕した。


「ふう、とんだ邪魔が入ったけれど、私達の実力を示すいいデモンストレーションにはなったわね」


「ああ! ウチらのこの力があればこの先どんな困難が待ち受けていても、乗り越えて行けそうだ!」


「だな。それじゃあ魔物も片付いたことだしよ」


「ええ、ウォルタさんもう一度お願いします!」


「分かっているわ。それじゃあ改めて……出航よ!」


『おう!』


四人を乗せた船は大海原へと漕ぎ出したのだった。





「……例の作戦は順調でしょうか?」


四人が大陸を旅立った同時刻、とある島の洞窟の中で何者かが尋ねた。


「はい、問題ありません」


アルラが答えた。


「しかしよぉ、こんなまどろっこしい作戦、やる意味あんのかよ?」


バジリが言った。


「バジリ、あんたいつもそればっかりね、他に言うことないわけ?」


「あん? なんだとこの野郎!」


「なによ!」


「……まあまあ、二人共落ち着いて下さい」


言い合いを始めた二人をその何者かが止めた。


「……この作戦が成功すれば、忌まわしい魔女共に一泡吹かせることができます。計画は虎視眈々と進めなくては行けませんからね、ふふふふふ」


不気味な笑い声が洞窟内にこだました。

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