魔女と密着取材2
「午前の仕事終了っー! 昼メシだ、昼メシぃ!」
午前中の仕事を終え、街に戻って来たフレイが言った。
「ふぅ、やっと一息つけるわ」
隣を歩くウォルタが言った。
「お疲れ様です、お二人共! して、昼食はどちらで?」
さらに隣を歩くタビーが尋ねた。
「そんなの決まってるよ! 食堂だよ食堂! あそこのカレーは絶品なんだ!」
フレイが目を輝かせながら答えた。
「へぇ、そうなんですか! それは楽しみです!」
タビーが言った。そして三人は食堂へと到着し、タビーによる二人の昼食取材が始まったのであったが……。
「はぁい、私の名前マリー。ギルド、ガープ所属の魔女よ。魔導具はメイス、使用するのは魔力を衝撃波に変えるシンプル・イズ・ザ・ベストな魔法よ。好きな食べ物はオムライス、嫌いな食べ物は海藻。趣味はぬいぐるみ集めで、最近は手乗りサイズのシリーズものを集めるのがマイブームね。そうだ! この前、お店の限定販売で手に入れた子がいるのよ。それがまあ可愛くて可愛くて、いつも持ち歩いちゃって! 今バッグから出すわね」
「は、はぁ」
マリーの話にタビーが相槌を打った。いつの間にかウォルタとフレイの取材は、偶然、食堂に居合わせたマリーのものにすり替わっていた。
「……なあウォルタ、今日ってマリーの取材だったけ」
フレイが冷や汗を浮かべながら尋ねた。
「……いや、違うでしょ」
同じく冷や汗を浮かべたウォルタが答えた。
「き、貴重なお話ありがとうございます、マリーさん! ところでフレイさん、カレーのお味はいかがですか?」
マリーの取材を無理矢理切り上げたタビーが尋ねた。
「もちろん、いつも通り美味しいよ! 何たってここのカレーは材料に対するこだわりがすごいからね。スパイスにはあの珍味のメラメラ草がふんだんに使われていて、それがニンニクと合わさることで、独特のうま辛さを生み出していてさ。隠し味はタウの実を使ったフルーツソースでそ、いつがルー全体にコクを広げるのに一役買っているんだ。もちろん、具にも力を入れているよ。野菜は食堂の人の畑で取れたものを使っていてさ、特にニンジンが絶妙な甘さを持っていて、それがスパイスの辛さと上手いこと調和して、しつこすぎない辛さを築き上げているんだ。さらに、肉にはあのかの有名な……」
フレイがテーブルに身を乗り出しながら答えた。
「……ねぇウォルタ、今日ってカレーの取材なのかしら?」
マリーが冷や汗を浮かべながら尋ねた。
「……いや、違うわよ」
同じく冷や汗を浮かべたウォルタが答えた。
「さぁて、食休みも済んだことだし、午後の仕事に向かうわよ」
公園のベンチで伸びをしたウォルタが言った。
「おう! そうだな!」
フレイが言った。
「午後のお仕事は、待ちに待った魔物退治ですね! 私も気合い入れて行きますよ!」
タビーが言った。
「そのことなんだけど、タビーさん、本当に私達についてきて大丈夫? 魔物退治は常に危険との隣り合わせ、一日密着取材とは言え、無理することはないのよ」
ウォルタが言った。
「ご心配ありがとうございます。けど、私もご一緒させてください。魔物退治と言えば戦闘、戦闘と言えば魔女の方々が一番輝きを放つ場面です。お二人の勇ましいお姿をこのフィルムに収めるためにも、ぜひ、お供させて頂きたいです!」
タビーが首からかけたカメラを両手で握りしめながら言った。
「そう、なら止める理由はないわ。一緒に行きましょう。ただし、危険に目に合う覚悟はしといて頂戴」
「はい! どんな危険が待ち構えていようと乗り越えて見せます!」
「……とは言ったものの」
タビーが呟いた。デコ山に着いた彼女の目の前には一本のつり橋がかかっていた。
「本当にこんなところ通るんですか?」
タビーが冷や汗を浮かべながら尋ねた。
「ええ、目的の魔物はこの先にいるらしいからね……タビーさん、大丈夫?」
ウォルタがつり橋を前に震えているタビーに尋ねた。
「え、あっはい、大丈夫だと思います……」
そう作り笑いを浮かべたタビーの顔には大量の汗が流れていた。
「別に怖かったら無理しなくていいよ、ウォルタだって暗い所は苦手なんだし」
フレイが言った。
「ちょっと、フレイ! あなた、余計な事を!」
ウォルタが頬を赤らめながら言った。
「ほう、ウォルタさんは暗い所が苦手と……」
タビーはそうつぶやきながらメモをした。
「あなたもそんなことメモしてんじゃないわよ!」
ウォルタが顔を真っ赤にして抗議した。
「す、すみません記者の習性でつい……ですが、私も行きます! ちょっと怖いですが、お二人の勇士を記事にする為にも、こんな所で止まってはいられませんから!」
そう言うと、タビーは我先につり橋を渡り始めた。
「っ⁉ タビーさん危険よ! 引き返しなさい!」
突如、ウォルタが叫んだ。
「大丈夫です! これくらいのつり橋、渡り切って見せます!」
足元に視線を落としながらつり橋を渡るタビーが答えた。
「そうじゃないわよ! 上よ、上! 魔物よ!」
「へ?」
ウォルタの言葉を受けたタビーは頭を上げた。彼女の視線の先には一体の巨大な鳥の姿をした魔物が羽ばたいていた。
「あ、あわわわ……」
恐怖の板挟みになったタビーはその場に固まった。すると次の瞬間、魔物はつり橋に向けて体当たりを繰り出した。
「きゃあ!」
その体当たりを受けて大きく揺れたつり橋に、タビーの体は空中に放り出された。そして、その下には深い崖が広がっていた。
(嘘、私こんなところで……)
「くたばってもらっちゃ困るわよ、タビーさん!」
そう絶望しかけたタビーの腕を掴んだウォルタが言った。
「ウォ、ウォルタさん!」
顔を上げたタビー言った。
「一緒にいい記事つくるんでしょ、あなたの仕事はまだ途中のはずよ!」
そう言うとウォルタは崖からタビーを引き上げた。
「ウォルタさん……そうですね、私の仕事はお二人に一日ついて行くこと。ありがとうございす! おかげで目が覚めました! お二人の勇士、じっくりと観察させてもらいます!」
タビーがカメラを構えながら言った。
「ええ、頼んだわ! それじゃあ行くわよ、フレイ!」
ウォルタが魔法銃を構えながら言った。
「ああ、ウォルタ!」
フレイが魔法剣を構えながら言った。そして、二人は目の前の魔物へと立ち向かって言った。
「ふう、今日もいい仕事したわね」
ウォルタが言った。彼女は無事、魔物退治を達成し、帰路に就いていた。
「ああ、まったくだ…ん? どうしたんだタビーさん、やけにニコニコしてるけど」
隣を歩くフレイが尋ねた。
「え、ああすみません。先程、撮らせて頂いたお二人のお写真の現像が楽しみでつい」
カメラを手にしながら笑顔を浮かべたタビーが答えた。
「さっきの、魔物を倒した後にウォルタとウチで決めポーズとった奴か! ウチもどんな写真になるか楽しみだよ!」
フレイが笑顔で言った。
「まったく、なんでわざわざ決めポーズなんて、恥ずかしいったらありゃしないわ」
若干頬を赤らめたウォルタが言った。
「とか言って、ウォルタもノリノリだったじゃん!」
フレイが言った。
「べ、別にノリノリじゃなかったわよ! 私はタビーさんのお願いだから仕方なく!」
顔を真っ赤にしたウォルタが言った。
「お二人共、いい笑顔してましたよ……そうだ! 決めました、その写真、記事のトップに掲載しましょう! きっといい記事になること間違いないですよ!」
「それはいいけど、あんまり変なこと記事にしないでよ、フレイが寝坊助だとか、フレイのカレー談義だとか」
「おい! 全部、ウチのことじゃないか!」
「ふふ、どんな記事になるかは出来上がってからのお楽しみです! それでは、私はここで。お二人共、本日はご協力ありがとうございました。きっと素敵な記事を作って見せますから、待っていて下さいね!」
そう言うと、タビーは二人に手を振って別れた。
そしてその夜……。
「あーあ、今日も一日疲れたわぁ!」
寝室に入ったウォルタはベッドにダイブした。
「……でも、私があの魔女通信に載る日が来るとは……ぐふふふ、笑いが止まらないわ」
ウォルタは再び気持ち悪い程の笑顔を浮かべた。
「さぁて、寝ようかしら、お休みなさい」
「はい! お休みなさい!」
ウォルタの枕元に何者かの声が響いた。
「……ん? って、うわぁ!」
ウォルタは再びベッドから転げ落ちた。ウォルタの枕元にはタビーの姿があった。
「だからなんであなたがいるのよ! 取材はもう終わったはずでしょ!」
ウォルタが床に打ち付けた腰をさすりながら尋ねた。
「コーナー名物の抜き打ち取材です! 言ったはずですよ、お早うからお休みまで取材するのが私の仕事ですと!」
タビーがウィンクしながら言った。
「何よそれ! びっくりしたじゃない、もう!」
ウォルタが抗議した。
「す、すいません。ですが抜き打ちでないと得られない貴重な情報という物もありますから。例えば、ウォルタさんは今回の取材を笑いが止まらない程嬉しかったとか」
「だから、変な事記事にするなぁ!」
ウォルタが顔を真っ赤にしながら叫んだ。
そして数日後、ギルド、ヴィネアの一日密着取材が掲載された週間魔女通信が発売された。そのコーナーのトップには各々魔導具を構え、背中合わせで笑顔を浮かべた二人の写真が掲載されたのだった。




