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魔女と密着取材1

「取材?」


食堂で昼食後のコーヒーを口にしたウォルタが言った。


「ええ、そうです! お二人の一日密着取材です!」


ウォルタの向かいの席に座った眼鏡をかけた黒髪のショートヘアーの少女が言った。


「へぇ、面白そうじゃん! ……ってあんた誰だ?」


ウォルタの横でカレーを頬張るフレイが尋ねた。


「おっと失礼、申し遅れました。私、週間魔女通信の新人記者、タビーと申します! 本誌では毎週コーナーの一部として魔女の方々の一日密着レポートを掲載させていただいているのですが、この度、都市襲撃事件に於いて大活躍をなされたお二人に、そのコーナーを飾って頂きたいという運びとなり、一日密着取材のお願いに参りました!」


タビーが笑顔で答えた。


「私達があのコーナーに……うふっ、私達も有名になったものね」


あくまでも平静を装うウォルタであったが、その口元は気持ち悪い程にニヤついていた。


「一日密着取材か、ちょっと緊張するけど、滅多にない機会だし、やろうよウォルタ!」


フレイが目を輝かせて言った。


「そうね、断る理由はないわ。そういうことでタビーさん、よろしくお願いするわね」


ウォルタはそう言うとタビーに向けて手を差し出した。


「本当ですか! ありがとうございます! 一緒にいい記事を作りましょう!」


タビーはそう言うと、ウォルタの差し出した手を握りしめた。そして、翌日からギルド、ヴィネアの一日密着取材が始まったのだった。





翌朝、ウォルタの自宅。そこの寝室では彼女の目覚まし時計が鳴り響いていた。


「……うぅ、あーもう分かった分かった、起きるわよ!」


ベッドの上のウォルタはそう独り言をこぼすと、勢いよく目覚まし時計を止めた。


「ふわぁあ、もう朝か……」


「ええ、朝ですよ! おはようございます!」


そうあくびをするウォルタの耳に何者かの声が響いた。


「ええ、お早う……って、うわぁ⁉」


ウォルタはベッドから転げ落ちた、それもそのはず、彼女の枕元にはタビーが立っていたからである。


「ちょっと、何であなたがウチにいるのよ⁉ というかどうやって入って来たの⁉」


ウォルタは床に打ち付けた腰をさすりながら尋ねた。


「そりゃあ一日密着取材ですから! お二人のことをお早うからお休みまで取材するのが私の仕事です! ちなみに、どうやって入って来たかは秘密です!」


タビーが笑顔で答えた。


「いくら何でも密着しすぎでしょ! ……ってあなたもしかして、私が起きるまでずっとそこでスタンバイしてたって訳?」


ウォルタが尋ねた。


「はい! そうです!」


そう答えたタビーの目元にはクマが広がっていた。


「み、見上げた記者魂ね。まあいいわ、それより早く支度しないと……」


「おや、お出かけですか?」


「ええ、戦場にね」


「せ、戦場?」


タビーは首を傾げた。





「ここが戦場……」


そうつぶやいたタビーの姿は、広場の依頼掲示板前にあった。


「そうよ。しっかし今日は一段と荒れているわね」


そう言ったウォルタの視線の先では大勢の魔女が掲示板前にたむろして、依頼を吟味していた。


「何か、皆さんすさまじいオーラを放って掲示版を睨みつけていますね……」


タビーが冷や汗を浮かべながら言った。


「そりゃそうよ。今夜の晩飯代がかかった依頼選びだもの。さあ、私達ももたもたしていられないわ、行くわよ!」


「えっ、は、はい!」


ウォルタとタビーは目の前の魔女の人だかりをかき分けて、掲示板前に辿り着いた。


「今日の依頼はそうね……これにしようかしら!」


そう言ってウォルタが依頼書に手をかざした瞬間、その手の横に何者かの手が並んだ。


「ん?」


「あ?」


ウォルタとその何者かは顔を見合わせた。


「……ウラ、またあなたなの」


「それはこっちの台詞よ、ウォルタ」


その正体は双子の魔女の姉、ウラだった。二人は訝しげな表情で互いを見つめ合った。


「前にも言ったわよね、早い者勝ちがこの掲示板のルールだって。今のはどう見ても私の方が早かったわ。この依頼はウチのギルドのものよ!」


ウォルタがウラに詰め寄りながら言った。


「いいや、私の方が早かったわ。この依頼はこっちのものよ!」


ウラも負けじと、ウォルタに詰め寄って言った。


「私よ!」


「いいや、私だわ!」


二人は互いの目で火花を散らした。


「あ、あの、ウォルタさん、そちらの方は?」


二人のやり取りに圧倒されていたタビーが尋ねた。


「え、ああ、紹介するわ、こちらギルド、アミーのウラよ……そうだ! ねぇ、ウラ、よかったらあなたも取材受けて行かない?」


ウォルタが何か思い付いた様に言った。


「取材? 何のことよ?」


ウラが首を傾げた。


「おお! ウォルタさんのご友人様ですね。私、タビーと言います。よろしければインタビューの方よろしいでしょうか?」


タビーが目を輝かせてウラに詰め寄った。


「い、インタビュー⁉ えええと、私がギルド、あ、アミーのウラだわよ!」


突然のインタビューに緊張してうろたえたウラは無意識の内に掲示板の依頼書から手を離した。すると、ウォルタはその隙に掲示板から依頼書をもぎ取り、一目散に逃走した。


「って、ああ⁉ ちょっと、ウォルタ、せこいわよ!」


一瞬の隙を突かれたウラは全速力で去って行くウォルタに向かって叫んだ。


「悪いわね、ここは戦場! 油断した方の負けなのよ! タビーさん! 行くわよ!」


「ああ、ちょっとウォルタさん! すみませんウラさん、インタビューはまた次の機会ということで……待ってくださいよウォルタさぁん!」


タビーはウラに軽く会釈をするとウォルタの後を追った。


「……うう、また負けた……悔しいぃい!」


ウラはその場で地団駄を踏んだ。





「ふぅ、魔女の方は早朝から大忙しですね。私もうへとへとですよ」


ウォルタの自宅に戻って来たタビーが言った。


「そりゃ、あなたが寝不足のせいだと思うけど……まあ、いいわ、次の支度に取り掛かるとしましょう」


タビーの言葉に冷や汗を浮かべたウォルタは家に上がるとキッチンに向かった。


「次の支度? いったいなんでしょう」


ウォルタに続くタビーが言った。すると、ウォルタはキッチンの棚からフライパンとおたまを取り出した。


「おっ! 朝食作りですね! どんなメニューか楽しみです!」


「いいえ、その前にやる事があるわ」


「へ?」


タビーは首を傾げた。そしてウォルタはフライパンとおたまを持ったまま別の部屋に向かった。


「この部屋って……」


タビーが呟いた。


「耳、押さえておいた方がいいわよ」


ウォルタが言った。


「ま、まさか!」


タビーは何かを察し、両手で耳を押さえた。そして次の瞬間、ウォルタは両手でフライパンとおたまを構えると、二つを勢いよくぶつけ合い、轟音を響かせた。


「……ん? 朝か」


その部屋に置かれたベッドの上のフレイが目を開けた。


「…………あと30分」


フレイは再び目をつむった。


「……フ・レ・イぃいい! 起きなさぁあああい!」


ウォルタは鬼の形相でそう叫ぶとフライパンとおたまを連続して打ち鳴らした。


「うぅっ! 何て爆音! しかし、この音の中で平然と二度寝とは流石、魔女ですね!」


両手で耳を押さえたタビーが感心しながら言った。


「何ほめてんのよ! しかも魔女関係ないし!……というかあなたは早く起きなさい! フレイ!」


ウォルタの自宅にはしばらく轟音が鳴り響いた。

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