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魔女と後輩2

「じゃあ、早速、午後の仕事の内容を説明するわ、今回の依頼は薬草、リカ草の採取よ」


ウォルタが手にした依頼書に目をやりながら言った。昼食を終えた三人は、ザワの森へとやって来ていた。


「仮加入ってことで、今回の仕事はハナにも同行してもらうけど、最初だし、今回は私とフレイの仕事ぶりを見学する形で大丈夫よ。魔物との戦闘になっても、戦闘に参加させることはないから、リラックスしてついてきて」


ウォルタが言った。


「はイ! よろしくお願いしまス!」


ハナが言った。


「ふっふっふ! このフレイ先輩が魔女の何たるかを、ばっちし教えてやるからな! よく見ておけよ!」


フレイが言った。


「……早速、先輩面してるわね。まあいいわ、行きましょう」


三人は森の中を歩き始めた。





「っ! 二人共待って、あそこのしげみ」


歩き初めてしばらくして、ウォルタが言った。


「……何か動いていますネ」


ウォルタが指さしたしげみを見たハナが言った。


「ってことは……魔物か!」


フレイの言葉と共に、しげみから、リスの姿をした魔物が飛び出して、三人に襲い掛かった。


「ちょうどいいや、先輩であるウチの戦いぶりを見せてやる!」


そう言うと、フレイは魔法剣を構えて魔物へと突っ込んだ。


「くらえ!」


フレイは魔物に向けて剣を振り下ろした。しかし、その振り下ろされた剣が魔物を切り裂くことはなかった。


「……あれ?」


フレイは不思議に思い自身の右手を見ると、そこには剣は存在しなかった。それもそのはず、彼女の握る剣は魔物に当たる前に、彼女の手からすっぽ抜けて、前方の木に突き刺さってしまったのだから。


「しまった! 手が滑った!」


そう言いながら右手を見つめるフレイに、魔物が襲い掛かって来た。


「ああもう、こんな時は炎魔法だ! くらえ! くらえ!」


フレイは半ばやけくそに魔物に向かって火の玉を連射し、それを食らった魔物は、光の粒子となって消えた。


「ふぅ、危なかった」


木に刺さった剣を抜いたフレイが言った。


「ふ、フレイ先輩?」


その光景を冷や汗を浮かべながら見ていたハナが言った。


「ん? ……あ、あははは、今のは戦闘中に剣がすっぽ抜けた時の対処方を見せたんだよ。魔女たるもの、戦闘中は常に臨機応変な対応が求められるからな。剣だってわざと、すっぽ抜けさせたんだ。ほ、本当だぞ!」


フレイが目を泳がせながら言った。


「思いっ切り、手が滑ったって言ってたじゃない」


ウォルタ指摘した。


「え、演出だよ! 演出! さあ、気を取り直して進むぞ、ハナ!」


「えっ、は、はイ!」


「……完全に気合いの入れ過ぎで空回っているわね」


三人は再び森を歩き始めた。





それからも、リカ草を求め森の中を進む三人であったが、その道中、フレイがハナにいい所を見せようと前に出ては空回るという場面が幾度となく続いた。


「……はぁ」


フレイが深いため息をついた。


「ちょっと、出発前のやる気はどこに行ったのよ」


ウォルタが言った。


「だって、今日のウチ、全然いい所ないんだもん。そりゃ、やる気だってどっか行っちゃうよ」


フレイが口をとがらせながら言った。


「そ、そんなことないですヨ! さっきの石につまずきながらも、必死に魔物に挑む姿、ワイルドでかっこよかったですっテ!」


ハナが言った。


「そ、そうか? あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ」


フレイが言った。


「まったく、後輩に気使わせてどうすんのよ……ん? あれは……」


何かを見つけたウォルタが足を止めた。


「見つけたわ。あれがリカ草よ」


前方の木の根元に生えた植物を指さしたウォルタが言った。


「あれか! よし! 頼むウォルタ、ウチに取らせてくれ! いい所見せたいんだ!」


「別にいいけど、ただ草を摘むのにいい所も何もないわよ」


「いいんだって、これぐらしなくちゃ、ウチの立つ瀬がないからな。行ってくるよ!」


「フレイ先輩、お願いしまス!」


「おう! 任せておけ!」


フレイは木の根元に近付くと草に手を近づけた。しかし、次の瞬間、木の周辺の地面が割れて、地中から巨大なカマキリの姿をした魔物が現れた。


「どわぁ⁉ 魔物⁉」


そう驚いたフレイに魔物の持つ鋭い鎌が襲い掛かった。フレイはとっさに、腰の鞘から引き抜いた魔法剣で、その鎌を防いだ。しかし、魔物の鎌の勢いは凄まじく、フレイは剣ごと後方に突き飛ばされた。


「フレイ!」


「フレイ先輩!」


ウォルタとハナの二人はフレイのもとへと駆け寄った。


「……へへへ、見ろよハナ。無事、リカ草をゲットしてきたぞ。すごいだろ!」


フレイが達成感に満ちた表情で言った。


「は、はイ! やりましたね、フレイ先輩!」


ハナが冷や汗を浮かべながら言った。


「……って、今はそんなこと言っている場合じゃないでしょうが!」


ウォルタの言葉と共に、魔物の鎌が三人を襲った。三人はそれをなんとかかわした。


「戦闘開始よ! ハナは下がって、自分の身を守る事に集中して! フレイは牽制をお願い!」

魔物から距離を置いたウォルタが言った。


「了解でス!」


「了解!」


『ウェイブ』


ハナはウォルタの後方に移動し、フレイは握りしめた剣に魔導石をスキャンし、剣を斬撃発射可能にした。


「くらえ!」


フレイは魔物に向かって剣を振り下ろし、炎の斬撃を飛ばした。しかし、その斬撃は魔物の振り払った鎌による一撃で消滅してしまった。


「な⁉ ウチの斬撃を消した⁉ なんて切れ味だ!」


目の前の光景にフレイは驚愕した。


「なら、数で勝負よ!」


『ラピッド』


ウォルタは握りしめた魔法銃に魔導石をスキャンし、ガトリング型に変化させた銃から、魔物に向かって、無数の銃弾を放った。しかし、その銃弾も魔物の鎌の高速の連撃によって消滅してしまった。


「なんて、鎌さばきなの⁉ これじゃあ奴に遠距離攻撃は届きそうにないわね……」


ウォルタが冷や汗を浮かべながら言った。


「なら、近距離攻撃だ。この剣で奴を切り伏せてやる!」


フレイは魔物との距離を一気に詰めると、構えた剣を振り下した。すると、それに対抗するように魔物は両腕の鎌でフレイの剣を受け止めた。


「ぐっ! 何だこいつのパワー⁉」


両足で地面を踏みしめ、両腕に力を込めるフレイであったが、魔物の凄まじい腕力の前に押され気味になった。


「っ! 駄目だ、こいつ強過ぎる!」


魔物の鎌に押し切られ、フレイは剣ごと弾き飛ばされた。


「フレイ! ……そんな、フレイが力で押し切られるなんて、この魔物、いったいどうすれば……」


「あの、ウォルタ先輩!」


考え込むウォルタにハナが話しかけた。


「ん? ハナ、どうしたの。危険だからもっと下がって……」


「いえ、差し出がましいようですが、拙者にも戦わさせてもらえませんカ。あの魔物、拙者の力ならどうにかできるかもしれないんでス!」


「それ、本当! ……でも、あなたは仮加入の身、危険な目に合わせる訳には……」


「お願いしまス! 戦わさせて下さイ! 駆け出しとは言え拙者も魔女の端くれ、守られてばかりでは嫌なんでス!」


ハナはウォルタの目を真っ直ぐ見て言った。


「ハナ……分かった、あなたの力とやら見せてもらうわ!」


「はイ! ありがとうございまス!」


そう言うとハナは魔物の前に歩み出て、自らの腰に付けた鞘から、片刃の剣を抜き放った。


「それがあなたの魔導具? 変わった形の剣を使うのね」


「ええ、これがヒノデ島で最もポピュラーな魔導具、“魔法刀”でス」


「そうなの、でも、剣による攻撃は余程の力がないとフレイみたいに奴の鎌の前に弾かれる

わよ」


「大丈夫でス。これを使いますかラ」


そう言うとハナは懐から何かを取り出した。


「それって、魔導石! それで魔導具をパワーアップさせるんだな!」


体制を立て直したフレイが言った。


「いえ、これは魔導具に使いませン」


そう言うとハナは右手のグローブを外した。彼女の右手の甲には魔法陣が描かれていた。


「まさか⁉」


魔法陣を確認したウォルタが言った。


「ええ、これは拙者自身に使いまス!」


『シャドウ』


ハナは刀を構えたまま、右手の甲に描かれて魔法陣に魔導石をスキャンした。すると、次の瞬間、ハナの姿は十人に増えたのだった。


「なっ⁉ ハナが増えた⁉」


フレイは驚愕した。


「人体に魔導具を使ったというの……ハナ、それはいったい」


ウォルタが尋ねた。


「これが、拙者の一族に伝わる、魔女の極意、その名も“石読”。魔導石の能力を自らの肉体に付加するものでス。そして、今、拙者が使用した魔導石の能力は対象を分身させるもノ。これだけの人数がいれば、あの魔物も押し切れるはずでス!」


そう言うとハナ、およびその分身達は、各々を刀を構えると、目の前の魔物に向けて疾走し、その距離を一気に詰めた。そして、臆することなく正面から魔物に切りかかった。


『せいやァ!』


ハナとその分身達の繰り出した一撃は、魔物の両腕の鎌と鍔迫り合いになった。魔物は何とかハナ達のを押し返そうと腕に力を込めたが、ハナの10倍の腕力には敵わず、やがて押し切られてしまった。


「その刃、もらいまス!」


ハナ達の繰り出した追撃により、魔物の両腕の自慢の鎌はボロボロに砕け散った。


「……すげぇ、ハナの奴、こんなに強かったのか」


ハナの戦いぶりを見たフレイが言った。


「ええ、彼女、駆け出しとは言え、魔女としての戦闘力は私達より遥かに上だわ」


同じく、ハナの戦いぶりを目にしたウォルタが言った。しかし、次の瞬間、ハナは魔物を前にして突然地面に膝をついてしまった。


「ハナ⁉ どうかした⁉」


ウォルタが彼女に駆け寄って言った。


「あ、あはは、すいませン。この極意、とてつもなく体力を使うため、つイ。とどめは先輩方にお譲りしまス」


肩で息をするハナが笑顔で言った。


「ふふ、お膳立てをしてくれたってわけ。気が利くじゃない。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら。フレイ! あんたもよ! いい所見せたいんでしょう!」


「おう! 当たり前だ!」


『ラピッド』


『デュアル』


ウォルタが銃に魔導石をスキャンした。


『マキシマム』


『ウェイブ』


フレイが剣に魔導石をスキャンした。


ウォルタの手元には二丁のガトリングが出現し、フレイの握る剣は彼女の背丈以上に巨大化し、斬撃発射可能になった。


「行くわよ!」


「行くぞ!」


ウォルタの構えた二丁の銃から無数の銃弾が、フレイの振り下ろした剣から巨大な炎の斬撃がそれぞれ魔物に向けて放たれた。そして、それらは、鎌を失ってなすすべのない魔物を光の粒子へと変えた。


「す、すごイ、これが先輩二人の力……」


二人の姿を後方から眺めるハナが、目を輝かせながら呟いた。





「リカ草採取完了! 依頼達成だな!」


フレイが言った。採取を終えた三人は森の入り口に戻って来ていた。


「ええ、そうね。ハナもお疲れ様。そして、ありがとう。今日の仕事、あなたがいなければ成し遂げられなかったわ。これからもよろしく頼むわね」


ウォルタが言った。


「……あの、そのことについて、お二人にお話があるのですガ」


二人に向き合ったハナが口を開いた。


「話? 何だ?」


フレイが尋ねた。


「その、拙者、お二人のギルドには加入しないことにしました」


「……な、何ぃ⁉ どうしてだよハナ! まだ一日目だぞ! ……はっ! やっぱり、ウチがいい所を見せられなかったからか?」


「い、いえ、そうではありませン。フレイ先輩の底知れないガッツも、ウォルタ先輩の冷静な判断力もとても素敵でしタ。けど、それ以上に、お二人が最後に魔物に放ったコンビネーションの美しさに心を打たれてしまったんでス。そして、思ったんでス。ああ、拙者も誰かとこんな美しいコンビネーションを決めてみたいなっテ」


ハナは話を続けた。


「だから、決めましタ。拙者、自分で一からギルドを作りまス! そして、唯一無二のパートナーを見つけて、お二人負けないようなコンビネーションを生み出して見せまス!」


ハナが笑顔でそう言った。


「……そう、それがあなたの目標なのね。いいんじゃない、とても素敵だわ。だけど、新しくギルドを作るってことは、これからはライバルってことになるわね。手加減しないから、覚悟しておきなさい」


ウォルタが笑顔で言った。


「はイ! 望むところでス!」


「ふふ、とは言え、困った事があったらいつでも相談しにきてちょうだい。一からギルドを作った身として、力になるわ」


「本当ですカ! ありがとうございます、ウォルタ先輩!」


「ちょ、先輩はやめてよ、違うギルド同士ならもう上下関係はないわ」


「いえ、この先輩はギルド作りの先輩という意味ですヨ」


「何ぃ⁉ ずるいぞウォルタ! 一人だけ、まだ先輩のままなんて!」


「……何よそれ。だったらあなたはカレー評論家の先輩とかでいいじゃない」


「それこそ何だそれ!」


「ふふフ」


三人は夕暮れのザワの森を後にした。

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