表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/112

魔女と後輩1

「うぅ、困りましたネ……」


ポカの森の中で、一人の黒髪で三つ編みの少女が呟いた。


「迷ってしまいましタ……どうしましょウ」


少女はおろおろしながら、森の中を歩いていた。そして、少女の身がある樹木のそばに差し掛かった時、少女の足元でカチッという音が鳴り響いた。


「ん? なんでしょ……おわぁア⁉」


少女の身は突如出現した鉄製の網によって捕らえられ、そのまま、近くの樹木に網ごとつるされる形となった。





「問題! 今日のウチのお昼はなんでしょうか?」


フレイが言った。午前中の仕事を終えた、彼女はウォルタと一緒にポカの森の中を歩いていた。


「……カレーでしょ」


隣を歩くウォルタが言った。


「おお! 正解! 流石ウォルタ、よく分ってるね」


「まったく、毎日、毎日、飽きずによく食べられるわねぇ。カレー発案者も海の向こうで喜んでいるに違いないわ」


「海の向こう? カレーってこの大陸発祥の料理じゃないのか?」


「そうよ。確か発祥はスチム島で、それがヒノデ島でアレンジされた物がこの大陸に渡って来たのよ……というか、あなたカレー好きならそれくらい知っておきなさいよ」


「ハハハ、これは一本取られたな。スチム島にヒノデ島か、いつかそこで本場のカレーってのも食べてみたいな。きっと美味しいに違いない!」


「どうだか、本場のものよりも食べなじんだ土地のものの方が美味しいってこともあるっていうし、本場のものだからって一概に美味しいとは言え……ん?」


ウォルタがそう言いかけた、次の瞬間、彼女の視界に樹木に吊るされた鉄製の網と、その中でもがく何かが飛び込んできた。


「ちょっと待って、フレイ。あそこにあるの何かしら?」


ウォルタが鉄製の網を指さして尋ねた。


「ん? 何だあれ? 網の中に何かいるな。あれって……人間?」


目を細めたフレイが言った。


「大変! 早くたすけなくちゃ! 行くわよ、フレイ!」


「あ、ああ!」


二人は駆け足で樹木に近付くと、吊るされていた網を取り外し、中に捕らえられていた者を助け出した。


「うう、ありがとうございまス。もう駄目かと思いましタ」


網から解放された少女が、半泣きになりながら二人に礼を言った。


「無事で何よりだ。しかし、どうしてこんな森の中で網に捕まっていたんだ?」


フレイが尋ねた。


「それが、拙者にもよく分からなくテ。この木のそばを歩いていたら、突然、足元で音が鳴ったかと思うと、網に捕らえられてしまったものですかラ」


少女は申し訳なさそうに答えた。


「あなたが捕まったのは魔物捕獲用の罠ね。木の根元にスイッチらしきものも確認できたし」


ウォルタが取り外した網を見ながら言った。


「そ、そうだったんですカ? うう、魔物用の罠に引っ掛かるなんて、魔女として恥ずかしいでス」


少女は肩をすぼめながら言った。


「魔女? お前、魔女なのか?」


フレイが尋ねた。


「は、はイ。 拙者、ハナというもので、ヒノデ島よりこの大陸に参らせて頂いた魔女でス」


ハナは笑顔で答えた。


「へぇ、そうなんだ……って、ヒノデ島ってカレー発祥の地じゃん! なあ、そっちのカレーも美味いのか?」


「え、ええと」


「コラ、フレイ落ち着きなさい。ごめんなさいね、私の名はウォルタ、こっちのカレー好きがフレイ。私達も魔女なの、よろしくね、ハナ」


フレイの肩を押さえたウォルタが言った。


「わぁ、お二人も魔女なんですネ。こちらこそよろしくでス」


そう言ってハナが二人にお辞儀をした次の瞬間、彼女の腹の虫が勢いよく鳴いた。


「あ、あははは、すみません、今朝からまだ何も食べていなかったものですかラ……」


腹を押さえ、頬を赤くしたハナが言った。


「そうだったのか……なら丁度いい! ウチらもこれからメシなんだ。よかったら一緒にどうだ。 なあ、ウォルタ」


フレイが尋ねた。


「ええ、こんなところで立ち話も何だし、よかったらどう?」


ウォルタが言った。


「ほ、ホントですカ! ぜひ、ご一緒したいでス!」


ハナが笑顔で言った。


「よし、決まり! 待ってろよハナ、絶品のカレー、紹介してやるからな!」


「は、はイ! お願いしまス!」


「結局、それなのね」


三人は森を抜け、都市へと向かった。





「おほォ! これがこの大陸のカレーの味! とっても美味でス!」


ハナが両手で頬を抑えながら言った。森を抜けた三人は、都市内の食堂にやって来ていた。


「はっはっは! そうだろそうだろ!」


ハナの正面に座るフレイが満面の笑みでそう言った。


「……まるで自分で作ったみたいなリアクションね」


フレイの隣に座り、コーヒーを口にしたウォルタが言った。


「いいじゃん、外の島から来た人に、自分達の住む大陸の料理を上手いって言ってもらえたんだ。嬉しくだってなるさ」


フレイが口をとがらせながら言った。


「ええ、とても美味しいですヨ。拙者の故郷のものと見た目は似ていますが、具や味付けはまったく違っていて、この土地ならではの特色がよく表れていまス……しかし、助けて貰った上に、こんな美味しい料理までおごって頂いて、何か申し訳ないですネ」


「気にすんなって! こっちが勝手にやったことなんだから。それより、ハナはどうして、ヒノデ島から、この大陸に渡ってきたんだ?」


「それハ……この都市でギルドに加入し、魔女として、働くためでス!」


「あら、奇遇ね。フレイも大陸の外からギルドに入るためにやって来たのよ。ねぇ、フレイ?」

ウォルタがそう言って隣のフレイに視線を向けると、彼女の肩は小刻みに震えていた。


「ちょっ! どうしたのよ?」


ウォルタが尋ねた。


「……いや、何か、同じ境遇の人と会うなんて初めてだから、感動して、泣けてきちゃって……ぐすん!」


「……なんで、そんな情緒不安定なのよ……まあ、いいわ。それで、ハナ、加入するギルドの宛とかはもうあるの?」


「それが、こっちに着いてから決めようと思っていたので、まだ何も考えていなくテ……」


「へぇ、そうなのか……ならさ! ウチらのギルドに入らないか?」


「ええ⁉ お二人のギルドにですカ? ……いいんでしょうカ?」


「ああ、大歓迎だ! なあ、ウォルタ?」


「ええ、あなたさえ良ければ、私達のギルドに仮加入させてあげられるけど」


「ホ、ホントですカ! ぜひ、お願いしまス!」


「よし、決まり! ……ん? ちょっと待てよ、ウォルタ。仮加入って何だよ?」


「ん? ああ、あなたは知らなかったわね。普通、ギルドに新しくメンバーを迎える場合は、正式加入の前にまず、仮加入という形をとって、数日間、新メンバー側とギルド側で互いのフィーリングを確認するものなのよ。フレイ、あなたがいきなり正式加入できたのは異例よ」


「何、そうなのか! ハナも知っているのか?」


「え、ええ、通常はそういうものだとお聞きしていますガ……」


「し、知らなかった……じゃあ、その数日間で互いの気が合えば、正式加入できるってことか」


「そうだけど、あんまり無理強いしちゃダメよ。ハナにはハナの意思があるんだから」


「分かってるよ。てことで、よろしくなハナ!」


「はい、よろしくお願いしまス。フレイ先輩! ウォルタ先輩!」


「せ、先輩?」


「はイ! ……何かおかしかったですカ?」


「ウチはそう言う上下関係はないのだけど……まあ、あなたの呼びやすいようでいいわ」


「そうなんですカ。では、改めてよろしくお願いしまス。フレイ先輩、ウォルタ先輩」


「お、おう! ……ウチが先輩かぁ、何かくすぐったい気もするが。後輩が出来たからには、午後の仕事、より気合を入れて臨まなくっちゃな!」


「張り切るのは勝手だけど、気合いの入れ過ぎで空回ったりしないでよ」


「わ、分かってるよ!」


その後も三人は楽しい昼食の時間を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ