魔女と図書館1
「なぁ、ウォルタ」
フレイが言った。彼女は今、自宅で夕食後の皿洗い最中だった。
「……」
そして、リビングで椅子に腰掛けたウォルタは、読書の最中だった。
「おーい! ウォルタ!」
フレイがリビングに向かって叫んだ。
「ん? ああ、ごめん、つい、本の内容に夢中になってしまったわ。何かしら?」
フレイの呼び掛けに気付いた、ウォルタがキッチンの方を振り返った。
「この新しく買ったでかい皿、どこにしまえばいいんだ?」
フレイが尋ねた。
「ああ、それね。足元の棚が空いているはずだから、そこにしまっといて」
ウォルタが答えた。
「オーケー!」
そう言うとフレイは皿を足元の棚にしまった。
「……」
ウォルタは読書を再開した。
「…………なぁ、ウォルタ」
「ん? 何?」
「ウォルタって、毎日のように本読んでいるけど、それってそんなに楽しいのか?」
「……まぁ、楽しいわね。丁度、今読んでいる推理小説なんて、面白くて先が気になってしょうがないから、なおさらよ」
「へぇ、ウチはあんまり小説とか読まないから、いまいち共感できないなぁ……あっ、でもあれなら全巻読んだよ、“マックス姫の漂流記”ってやつ」
「ああ、大国のお姫様が流れ着いた無人島で、動物相手に暴れ回る小説でしょう。私も全巻読んだけど、あんまり趣味じゃなかったわね」
「ええ、そうなのか。ウチ、あの作品、結構好きなんだけどなぁ」
「作品の好き好きなんて人それぞれだもの、しょうがないわ。ま、それだけに、同じ作品を好きな人と出会えた時の感動もひとしおなのよね」
「へぇ、そうなんだ。ウォルタは知り合いにそういう人っているのか?」
「そうねぇ、ルリがその人に当たるわね……」
ウォルタがそう言いかけた次の瞬間、家の中に、インターホンの音が鳴り響いた。
「誰かしら? はーい!」
ウォルタは玄関まで駆け寄って、そこのドアを開いた。
「こ、こんばんは。ウォルタさん、フレイさん」
ドアの開かれた先にはルリの姿があった。
「噂をすれば何とやら……こんばんは、何か用かしら」
ウォルタが尋ねた。
「はい、この前お借りした小説、読み終えたのでお返ししようと思いまして」
そう言うとルリはカバンから一冊の本を取り出して、ウォルタに差し出した。
「あら、わざわざ、届けに来てくれたの? 食堂で会った時でもよかったのに」
ルリから差し出された本を受け取ったウォルタが言った。
「いえ、偶然、ウォルタさんの自宅の前を通りがかったものですから、お返しするなら早い方が良いかと思いまして」
「そうだったの、ありがとう。良かったら上がっていく? 小説についても語り合いたいし!」
「いえ、そうしたいのは山々ですが、今日はもう遅いので、私はこれで。小説については、後日、喫茶店かどこかでゆっくりじっくりと語り合いましょう!」
「そう、分かった。それじゃあ、その日を楽しみにしておくわ、気を付けて帰ってね」
「はい、ではまた後日、さようなら」
そう言うとルリはお辞儀をして去って行った。
「意外だな。ウォルタってルリと仲良かったんだ」
フレイが言った。
「ええ、つい最近、仲良くなったの。彼女も読書が趣味らしくてね、それで、話している内に好きな作品の趣味まで一緒って事に気づいて、一気に意気投合しちゃったの。それからは定期的に互いの本を貸し借りする仲よ」
ウォルタが笑顔で答えた。
「へぇ、なんかいいなそういう好きな物を語り合える仲って。ウチも一緒の趣味を持つ人と会いたいなぁ」
「趣味って……あなたに趣味なんてあったかしら?」
「……カレーを食べる事?」
「それって……趣味なのかしら? ま、まあ簡単には巡り合えないものだし、こればっかりは、運に身を委ねるしかないわね」
「ふーん、そっか。それで、ルリから返して貰った小説ってどんな作品なんだ?」
「ん? “超絶爆闘ブラックアイアン” 巨大な鋼鉄の人形を操る少女が、悪と闘う物語よ」
ウォルタが誇らしげに手に持った本を掲げながら言った。
「……なんか、ウォルタの作品の趣味が分からない」
フレイは冷や汗を浮かべながらそう言った。
「う、うるさいわね! 私は多趣味なだけよ!」
ウォルタは頬を赤らめながら言った。
「……ルリ、遅いわね」
ウォルタが呟いた。数日後、彼女はルリと小説の内容について語り合うためにと、待ち合わせ場所に指定した喫茶店の席に着いていた。
(何か、あったのかしら?)
ウォルタがそう思った次の瞬間、ウォルタの着いたテーブル目掛けて、ルリが息を切らしながら大急ぎで駆け寄って来た。
「ウォ、ウォルタさん!」
ルリが肩で息をしながら言った。
「あら、遅かったじゃない。どうしたの?」
ウォルタが尋ねた。
「大変ですよウォルタさん! この依頼書を見て下さい!」
そう言うとルリはウォルタに一枚の依頼書を突き出した。
「何々? デッカ図書館に正体不明の魔物発生。速やかなる退治求む……これって!」
依頼書を眺めたウォルタは驚愕した。
「はい、私も今朝、掲示板前でこの依頼書を見つけて驚きました。ご覧の通り、あの都市一の規模を誇るデッカ図書館に魔物が発生し、建物一帯を占拠してしまっているそうです」
「都市内で、しかも建物内に魔物が発生するなんて、どうなっているのかしら?」
「分かりませんが、これは一大事ですよ! 私達も行きつけの図書館が魔物の住処になってしまっているなんて。ウォルタさん、今から一緒にその魔物の退治に向かいましょう!」
「これは魔女として、いや、本好きの魔女として見過ごせないわね。分かったわ、すぐに向かいましょう! ギルド、ヴィネアとシトリーの共同戦線よ。ルリ、すぐにあなたのギルドのメンバーを集めて頂戴」
「それが、皆さんは今、仕事に出向けない状態にありまして……」
「どういうこと?」
「昨日、メンバーの一人の誕生日会がありまして、次の日が休日である事をいいことに、それで飲み過ぎたメンバーの皆さんは体調を崩してしまったのです。私だけは、お酒飲めないんで大丈夫だったんですけど」
「そ、そう、まあ、次の日が休日だというんじゃ、それもしょうがないはね。じゃあ、私と二人で向かいましょう」
「二人? フレイさんはどうしたんですか?」
「ああ、フレイなら特訓中に足をくじいて、現在、自宅療養中よ。新しい剣を手に入れて張り切り過ぎたようね」
「そ、そうだったんですか、まあ、ウォルタさんと一緒なだけでも百人力です。頑張りましょう!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、行きましょう、図書館を取り戻すために」
二人は早々に都市内に存在する、図書館に向かった。




