魔女と剣1
「いやぁ、今日の魔物は強敵だったな」
フレイが言った。夕食を済ませた彼女は、自宅で自身の魔法剣の手入れをしていた。
「そうね、ま、あなた剣技の敵ではなかったけど」
同じく夕食を済ませ、自身の魔法銃の手入れをするウォルタが言った。
「へへへ、いやぁ、こいつのおかげだよ。自分で言うのもなんだけど、ウチの剣技は荒っぽいからな。それに付き合ってくれるこいつには感謝だよ」
フレイが握った剣を見ながら言った。
「そうね。ところでその剣だけど、いつごろから使っているのかしら?」
ウォルタが尋ねた。
「ん、こいつか? こいつはウチがギルドに入ろうと都市に旅立つ前日に、アッシュがくれたんだ」
フレイが答えた
「アッシュ? 初めて聞く名前ね」
「ああ、そうかウォルタにはまだ話してなかったっけ。ウチ、両親がいなくてさ、そのアッシュって言う女の人が両親の代わりに、ウチを育ててくれたんだよ。で、そのアッシュがウチの旅立ちのお祝いとして、この剣を馴染みの鍛冶屋で打ってもらってくれたんだ」
「へぇ、そうだったの……って、あなたそんな大事な物を、都市に着く前にニールに盗まれたってこと?」
「あははは……そうなるな、ホント、こいつにはアッシュと同じくらい世話を掛けちゃっているな」
「まったく。まあ、私達、魔女は魔導具がなければ、その真価を発揮できない。魔導具に世話を掛けっぱなしなのは、どの魔女も同じ様なものだけど」
「へへ、それもそうだな。んじゃまあ、明日の仕事もいっちょ世話になるとするか!」
フレイは笑顔でそう言うと、再び剣の手入れを再開した。
「待ち合わせ場所はもうすぐね」
ウォルタが言った。翌日、ウォルタとフレイの二人は依頼を受けて、ある山のふもとを歩いていた。
「しかし、あのカンカの友人って一体どんな人なんだろうな?」
隣を歩くフレイが尋ねた。
「あの偏屈職人の友人ねぇ……まともな方であることを願いたいけど」
ウォルタがため息混じりにそう答えた。
「鉱石採掘の護衛?」
フレイが尋ねた。時は遡り一昨日、フレイとウォルタの二人は魔法銃職人のカンカの店を訪れていた。
「ああ、私の友人も魔法剣職人が、今度、剣の刃に使用する、鉱石素材の採掘に行くと言うんだが、その護衛に腕の立つ魔女が欲しいらしく、私に心当たりがないかと尋ねて来たものでな」
カウンターの向こうのカンカが答えた。
「で、私達に白羽の矢が立ったと。意外ね、あなたが私達のことを、腕の立つ魔女だと思ってくれていたとは」
ウォルタが言った。
「ん? そうではない。お前さん達なら、どうせ仕事もなく暇しているだろうと思ってな。せっかくだから、仕事の一つでも紹介してやろうというお情けだよ」
カンカが言った。
「……相変わらず、口が減らないわね、この偏屈職人は」
ウォルタがカンカに詰め寄ってそう言った。
「何か文句でもあるのか、この暇人魔女が」
カンカも詰め寄って来たウォルタの顔を睨み付けて言った。
「ま、まあ二人共、落ち着いて……で、カンカ、その採掘場所っていうのはどこなんだ?」
二人の間に入ったフレイが尋ねた。
「ん? デコ山の西に位置するゴロ山だよ。強力な魔物もはびこっているという噂だ、ま、せいぜいがんばれや」
「……って、カンカは言っていたけど。魔法剣職人っていうのは、そんな危ない所にまで素材採掘に行くものなのか?」
時は戻って、ふもとを歩くフレイが尋ねた。
「というか、そもそも職人自ら素材採掘に出向くっていうのが珍しいわ。ましてやそんな危険な場所に……早くも、その友人がまともな方だという期待が消えてきたわね」
隣を歩くウォルタが答えた。
「ふーん、そうなのか……ん? あれは」
フレイは視線の先に一つの人影を捉えた。
「ひょっとして、あの人じゃないか? おーい!」
そう叫びながら、フレイはその人影へと駆け寄った。
「ん? 何だ、貴様は?」
人影の主である、小柄な茶髪のショートヘアーの女性が尋ねた。
「もしかして、キンキさんですか?」
フレイは女性に駆け寄るや否や、尋ねた。
「……尋ねているのは私の方だが」
女性はいぶかしげな表情で言った。
「ちょっと、フレイ! 突然、すいません。私達、ギルド、ヴィネアと申します。キンキさんでいらっしゃいますか」
フレイに追いついたウォルタが尋ねた。
「そうだが……ああ、貴様らがカンカのよこした魔女か」
キンキが二人を見ながら言った。
「はい。本日、貴方様の護衛を務めさせて頂きます。ウォルタ……と、こちらがフレイになります。よろしくお願い致します」
ウォルタが言った。
「……あっそう、ま、足だけは引っ張らないようにな」
そう言うと、キンキは荷物を背負うと二人を置いて、歩き出した。
「え、あっはい……」
ウォルタはその背中を呆然と見つめた。
(あれ? 怒ってる? ウォルタ、ウチらなんか失礼なことしたかな?)
フレイが目でウォルタに尋ねた。
(……流石はあの職人の友人ってところね)
ウォルタは目でフレイに答えた。
「何をしているか、さっさと行くぞ」
二人を振り返ったキンキが言った。
「は、はい!」
二人はキンキに駆け寄った。そして、三人はゴロ山へと向かった。
「なぁ、キンキ……さん。こんな危険な場所に来てまで手に入れたい、その目的の鉱石っていうのはどういうやつなんだ?」
ゴロ山内の山道を歩くフレイが尋ねた。
「そんなこと、貴様らが知ってどうする?」
キンキが言った。
「いやぁ、別にどうしもしないけど、ちょっと気になってさ」
「……ギラ石という赤色の鉱石だ。そいつを打つことで生まれる刃は、鉄の刃を遥かに凌ぐ鋭さを有する物になる」
「へぇ、赤色の鉱石からできた刃か、なんか、見た目からして強そうでかっこいいな! 他にも、色んな色の鉱石からできた刃ってあるのか?」
「……貴様、随分と馴れ馴れしい奴だな」
「そうか?」
「ちょ、ちょっとフレイ、おしゃべりは程々にして、周囲の警戒を……」
ウォルタがそう言いかけた次の瞬間、岩陰からアリの姿をした魔物の大群が飛び出してきた。
「魔物か⁉ よぉし、ウチが相手だ! ウォルタはキンキを頼む!」
そう言うと、フレイは魔法剣を構え、それに魔力を込め、刀身に炎を灯すと、魔物の大群目掛けて、突っ込んだ。そして、構えた炎の剣で、襲い来る魔物達を次々と切り伏せた。
「へへぇん! どんなもんだ!」
そう余裕な表情を見せるフレイであったが、突如、魔物の一匹がフレイの攻撃の波をかわし、その脇を抜けた。
「なっ⁉ しまった!」
油断していたフレイの対処は間に合わず、魔物の一匹は、彼女の後方のキンキへと襲い掛かった。
「キンキ!」
フレイは勢いよく後ろを振り返って、後方を確認した。すると、フレイの脇を抜けた魔物の一匹は、一筋の青い閃光によって貫かれ、光の粒子となって消えた。その閃光はウォルタの放った銃弾によるものだった。
「……ふぅ、助かったよ、ウォルタ」
残りの魔物を倒し終えたフレイが、ウォルタのもとに駆け寄って言った。
「まったく、油断大敵っていつも言っているでしょう」
ウォルタが言った。
「ご、ごめん。キンキも、ケガなかったか?」
フレイが尋ねた。
「……泣いておる」
キンキが呟いた。
「え?」
「泣いておるよ、その剣は、貴様みたいな未熟者の剣士を主人に持ってな」
「未熟者……ウチが?」
「そうだ、こんな雑魚の魔物共一つ満足に蹴散らせない様な奴を、未熟者と言わずして何と呼ぶ」
「ちょっと、あなた! フレイはあなたを守ろうと……」
「よせ、ウォルタ」
キンキに突っかかろうとしたウォルタを制したフレイが言った。
「……その、ウチが油断したせいで危険な目に合わせて、ごめんなさい。けど、こいつは、この剣はウチに使われているせいで、泣いたりなんかはしてないよ」
フレイがキンキの目を真っ直ぐ見て言った。
「何故、そう言い切れる?」
キンキが尋ねた。
「それは……これから先のウチの、ウチとこいつの戦い様を見てもらえば分かるよ」
「……ふん、偉そうに、だったら見せてもらおうじゃないか、その、貴様らの戦い様とやらを」
そう言い残すと、キンキは二人を置いて歩き出した。
「フレイ?」
ウォルタが心配そうな表情でフレイに呼び掛けた。
「平気だよ……絶対に見せつけてやる、こいつとウチの戦い様を」
フレイは右手で握りしめた剣を見つめながら呟いた。




