魔女と神殿2
「こいつは⁉」
神殿の外に出たフレイは驚愕した。そこには、巨大なアルマジロの姿をした魔物の姿があった。
「魔物⁉ なぜこんなところに、ここは都市内よ!」
「きゃああああ!」
ウォルタの声にマナの悲鳴が重なった。
「マナさん⁉」
ウォルタが背後を振り返った。
「壁が……神殿の壁が……」
そう呟いたマナの視線の先では神殿の壁が、何かにえぐられたように、ボロボロに倒壊していた。
「……これがさっきの音と揺れの原因ね。おそらくあいつの攻撃で」
ウォルタは魔物を睨みつけた。
「そ、そんな……神殿が、神殿が……あぁ……」
「ちょ、大丈夫ですかマナさん⁉」
目の前の光景にショックを受け、卒倒したマナの体をソルジが受け止めた。そして次の瞬間、魔物は自分の身をボールの様に丸めると、そのまま、目の前のウォルタ達に向かって、勢いよく転がり始めた。
「来るわよ!」
ウォルタの叫びと共にフレイと、マナを抱えたソルジは魔物の攻撃の射線上から素早く移動した。しかし、ニールだけがその場から動けず、射線上に取り残された。
「しまった! ニール!」
フレイが叫んだ。しかし、時すでに遅し。魔物はその巨体の影でニールを覆うと、そのまま転がり、神殿の壁に激突した。辺りには大量の瓦礫と砂埃が舞った。
「……うう……はっ!」
「ケガはないニール?」
目を開いたニールの目の前にはウォルタの姿があった。魔物の攻撃が当たる直前、ウォルタがニールの身を抱えて、間一髪、射線上から移動させたのであった。
「は、はい大丈夫です……その、すみません、恐怖のあまり動くことができませんでした……」
ニールが唇を震わせながら言った。
「無理もないわ、誰だって魔物は怖いもの」
ウォルタがニールの肩を両手で抑えながら言った。
「魔物が怖い……ですか……はは、情けないですよね、以前は魔物を従えていた身だというのに」
ニールがウォルタから視線をそらしながら言った。
「そんなことはないわよ、以前のあなたは魔物の背中しか見ていなかったのだから、初めて正面から見る魔物の姿、そこから感じる恐怖は計り知れないもののはずよ」
「……ウォルタさん」
ウォルタがニールの目を真っ直ぐ見て言った。
「ウォルタ! ニール! 大丈夫か?」
「お二人共! おケガは?」
フレイと、マナを抱えたソルジが二人のもとへ駆け寄った。
「平気よ。それより、この魔物を何とかしないと、これ以上、神殿を破壊させるわけにはいかないわ。ソルジさん、ニールとマナさんをお願いできる?」
ウォルタが尋ねた。
「は、はい構いませんが、その、お二人だけで大丈夫ですか?」
ソルジが尋ねた。
「ああ、こんな奴、ウチら二人で十分だ!」
フレイが答えた。
「そういう事、頼むわ!」
「りょ、了解しました!」
ウォルタの言葉にソルジが答えた。
「行くわよ、フレイ」
「ああ!」
ウォルタとフレイの二人は魔物に向き合うと、各々の魔導具を構えた。そしてニールはその二人の姿を背後から見つめていた。
(お二人の背中、なんて大きくて頼もしいの。敵として正面から向かい合っていた時は気づけなかった。これが人々を助ける力を持つ者の背中)
「これが、魔女……」
ニールは呟いた。
「ニール様! 危険ですから、早くこちらへ!」
ソルジがニールの腕を引きながら言った。
「は、はい! ウォルタさん! ニールさん! 頑張って下さい!」
ニールの声援に二人は笑顔で答えた。
「どわっ! 危ねぇ!」
魔物の攻撃をかわしたフレイが言った。ウォルタとフレイの二人は、魔物の攻撃に苦戦を強いられていた。
「大丈夫、フレイ?」
ウォルタが尋ねた。
「あ、ああ、けど厄介だ、あんな勢いよく転がってちゃ、剣で斬れないよ」
フレイが言った。
「そうね、おまけにあの硬い体表、私の銃弾をまったく受け付けないわ。まさに攻防一体、大したものね」
「敵を褒めてどうすんだよ! 何か手を考えないと」
「手ならあるわ、チャージ弾よ。あれなら、あの硬い体表を打ち抜けるはずだわ……もっとも、その為にはあの攻撃を何とかして止めないとだけど」
「止めるって、どうやって? あいつ、ずっと高速で転がり続けているんだぞ?」
「そうね…………どうやら、あなたの魔導石の出番のようだわ」
「ウチの?」
「……を……するのよ」
「……なるほどぉ! よぉし!」
話を終えた二人のもとに、魔物が勢いよく転がりながら突進して来た。しかし、フレイはその魔物の攻撃をかわすことなく、射線上で剣を構えた。
『マキシマム』
フレイが魔法剣に魔導石をスキャンし、フレイの握る剣はフレイの背丈以上に巨大化した。そして、フレイはその巨大化した剣の腹を、転がって来る魔物に向けて斜めに構えた。
「高速だろうがなんだろうが、転がれるのは地上だけだ、なら!」
突進して来た魔物の体は、フレイが斜めに構えた剣の腹の上に乗り上げ、そのまま、上方へとコースを変えて、空に向かって飛んで行った。
「空中に放り出してしまえばいいだけね」
『チャージ』
ウォルタが魔法銃に魔導石をスキャンしながら言った。
「フレイ!」
「おう!」
ウォルタの呼びかけに答えたフレイは、ウォルタが差し出した右手を握りしめ、魔力を込めた。そしてその魔力はウォルタの体を伝い、空から落下する魔物に向けられた銃の核へと送り込まれた。
「チャージ弾!」
ウォルタの叫びと共に、銃から放たれた巨大な閃光は、魔物の体を打ち抜き、それを光の粒子へと変えた。
「面目ないです、本来ならば管理者である私が率先して、皆さんの安全を確保しなければならないというのに、真っ先に気を失ってしまって」
目を覚ましたマナがウォルタ達に、何度もお辞儀をしながら言った。
「いいって、いいって、みんな無事だったんだから……まあ、神殿はそうもいかなかったけど……」
フレイが倒壊した神殿の壁に目をやりながら行った。
「ま、まあ、神殿の方は大丈夫……じゃないですけど。い、いやしゅ、修復すれば大丈夫ですよ、きっと! あははは!…………はぁ……」
マナは倒壊した、神殿を見て、涙目で肩を落とした。フレイはその肩に無言で手を添えた。
「ウォルタさん、フレイさん」
ニールが言った。
「何よ?」
ウォルタが尋ねた。
「今日はその、色々とお世話になりました。私、魔物相手に立ち向かうお二人の姿を見て思ったんです、例え、魔女の始祖に当たる存在が悪人だったとしても、今の魔女の方々の心の中に宿っているのは魔女の始祖を倒した、勇敢なる勇魔女の方々の心なんじゃないかって」
ニールが笑顔でそう言った。
「ふふ、そうかもね」
「へへ、だな!」
ウォルタとフレイも笑顔で答えた。
「あ、もちろん、ソルジさんもですよ」
「わ、私もですか? それは、何というか、て、照れくさいですね」
ニールの言葉にソルジは頬を赤くした。その姿に、四人は笑顔を浮かべたのであった。




