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魔女と神殿1

「クリア神殿はもうすぐだな。ウチ、始めて行くからどんな場所か楽しみだよ」


フレイが言った。この日、フレイとウォルタの二人は、ある理由から、魔女にとっての聖域である場所、クリア神殿を目指し、都市の西部を歩いていた。


「そうね、実は私もこの都市にやって来たとき、少し立ち寄ったことがあるだけで、ちゃんと中に入ったことはないのよね」


隣を歩くウォルタが言った。


「へぇ、そうなんだ。でも。魔女の聖域って呼ばれるくらいの場所だ、きっとなにかわかるはずだよ」


「ええ、ぜひそう願いたいわ。鬼女達の目的を知るためにも、私達は“魔女の始祖”について知らなければならないから」





「記憶が戻ったというのは本当なのね、ニール?」


ウォルタが尋ねた。時は遡り昨日、ウォルタとフレイの二人は、ニールとの面会の為、魔女部隊の詰め所にやって来ていた。


「はい、全てを思い出しました。私が記憶を失っている間にしたことの全てを……その、お二人には何と言って謝罪とお礼を申し上げたらいいのやら」


テーブルを挟んで、ウォルタの目の前の椅子に腰かけたニールが答えた。


「いいのよ、そんなものは。それより、今日は面会に応じてくれてありがとう。身に覚えのない悪事の記憶が蘇るのはさぞ辛かったと思うわ……無理はしなくていいのよ。気分が悪くなったらいつでも言ってくれて大丈夫よ」


「お気遣い、ありがとうございます……ですが、大丈夫です。私の持っている情報でお二人のお役に立てるのであれば、喜んでお話させてもらいます」


ニールがウォルタの目を真っ直ぐ見て言った。


「……そう、分かったわ、ニール。それじゃあ早速、質問を始めさせていただくわ、いいわね?」


「はい」





「で、そのニールの話をまとめると……」


時は戻って現在、都市の西部を歩くウォルタが言った。


「彼女は元々身寄りがなくて、幼少の頃を孤児院で過ごしていた。しかし、ある時、不思議な力に覚醒し、それをきっかけに別の施設へと移ったと」


「不思議な力っていうのは、以前、ニールが言っていた、魔導具に残った、持ち主の魔力を活性化させる力ってやつだな」


隣を歩くフレイが言った。


「そう、しかし、その移った施設で彼女は記憶と人格を一時的に消去する魔法をかけられ、洗脳を受け、数年の間“あの人”と呼ばれる人物の部下として活動していたと」


「その“あの人”とかいうのは、バジルとかいう鬼女も言っていた。そいつが、鬼女達を裏で操っている親玉に違いないな」


「ええ、そして、もう一つ疑問である魔女の始祖についてだけど、ニールもそれに関しては詳しい話は聞かされていなかったと言うわ。ま、だから、今日この場所に来たわけだけど……」


クリア神殿の前で足を止めたウォルタが言った。


「うひょー! でっけえなぁ!」


目の前にそびえ立つ神殿を見上げたフレイが言った。


「大したものよね。ま、観光は後回しにして、まずはスタッフの方に話を聞きましょう」


「やはり、考える事は同じようですね」


突如、二人の背後で何者かの声が響いた。


「っ! ニール⁉ どうしてここに?」


後ろを振り返って驚いたウォルタが言った。


「こんにちは、ウォルタさん、フレイさん。私も、お二人と同じ様に魔女の始祖についてのお話をお聞きしたくて、来てしまいました」


ニールが答えた。


「来てしまいましたって……出歩いて大丈夫なのかよ?」


同じく振り返ったフレイが尋ねた。


「ええ……最も、魔女部隊の方の監視のもとでですけど」


そう言うと、ニールは隣に立った黒髪のポニーテールの女性の方に顔を向けた。


「え、ああ、その初めまして、ニール様の監視を任されている、都市直属の魔女部隊所属のソルジと言います。ウォルタ様とフレイ様ですね。お二人共、どうぞよろしくお願いします」


ソルジは軽い会釈をしながら言った。


「ええ、こちらこそよろしく」


「おう! よろしくな!」


二人は笑顔で言った。


「しかし、ニール。あなたが話を聞きたくなったというのは、どういうことかしら? 洗脳の解けたあなたはもう一般人。魔女の始祖のことなんて、あなたには関係ないことなんじゃなくて?」


ウォルタが尋ねた。


「そうですね……ですが、私、知りたくなったんです。魔女という方達の存在がどういうものなのかを。私を倒して、私を救ってくれた方達のことをもっと知りたくなったんです……駄目でしょうか?」


ニールがウォルタの目を真っ直ぐ見て尋ねた。


「そんなことないわ。それが今のあなたが一番やりたいことなんでしょう、素敵じゃない。一緒に行きましょう、ニール」


ウォルタが笑顔で答えた


「は、はい、ありがとうございます!」


ニールも笑顔を浮かべながら答えた。





「本日は、当神殿にお越しいただきありがとうございます。私、この神殿の管理を任されております、マナと申します。僭越ながら私の方から皆さんに、魔女の始祖についてのお話をさせて頂きます」


神殿内に入ったウォルタ達は、管理者の金髪のロングヘアーの女性、マナの案内のもと、とある壁画の目の前へとやって来ていた。


「ええ、よろしく頼むわ」


ウォルタが言った。


「はい、まずは魔女の誕生についてからお話いたしますね。千年前、この大陸にある、小さな村に住む、一人の少女がある日特別な力に覚醒しました。その少女こそ、後に魔女の始祖と呼ばれる人物です。少女は掲げた手のひらから、火や水などを生み出し、村人達をたいそう驚かしました」


「へぇ、それが魔法の始まりってわけか」


マナの話にフレイが相槌を打った。


「ええ、彼女はその力を使って、村人の生活の手助けを続け、ついには村人から神の子と崇められるようにまでなりました」


「無から何かを生み出せるのだもの、そう思われて当然よね」


マナの話にウォルタが相槌を打った。


「ですが、数年後、複数の違う村で同じ様に不思議な力に覚醒した少女達が次々に現れたのです。そして、その時、既に二十歳を超えていた魔女の始祖はその事実に驚愕すると共に焦りました」


「新たに現れた魔法を使える存在に、自分自身の名誉を取られると思ったんですね」


マナの話にニールが相槌を打った。


「そうです、そしてその少女の不安は的中し、彼女をそこまで特別な存在と認識しなくなった人々は徐々に彼女を神の子扱いしなくなってしまったのです。その事態を重く受け止めた魔女の始祖はある行動に出ました。それは、力に覚醒したら少女達を集めて、自らの支配下に置くというものでした」


「随分と自分勝手な……そんなことをして、人々から不安の声は上がらなかったのでしょうか?」


マナの話にソルジが相槌を打った。


「もちろん、上がりました。しかし、彼女はその声を鎮める為に人々の頼み事を聞いて回り、その頼み事を集めた少女達の力によって解決させる活動を始めたのです」


「頼み事を解決する活動……それって」


マナの話にフレイが相槌を打った。


「そう、その活動が現在のギルドの元になったと言われています。そして、人々は魔女の始祖の行いに不満を持ちながらも、自分達の生活における彼女達の力の必要性を確信し、渋々、彼女の行いに目をつぶるようになります。そして、いつしか、彼女に反発する者はいなくなり、再び彼女の天下となった訳です」


「知らなかったわ、まさかギルドの起源が一人のエゴにあったとは」


マナの話にウォルタが相槌を打った。


「そうですね、しかし、彼女の欲望はこれでは満たされませんでした。彼女は新しく力に覚醒した少女達を見つけては次々に自らの支配下に置いて言ったのです。当然、支配下に置かれた少女達の力にすがっていた人々は、自らの生活の為、彼女に従うしかありませんでした。そうして、いつしか、彼女の支配は大陸中におよぶ事となったのです」


「魔法にすがる人々の弱みに付け込んで、魔法という力による支配を成し遂げたのですね」


マナの話にニールが相槌を打った。


「ええ、成し遂げた……かのように思えたのですがある時、一つの事件が起こります。彼女の支配下にあった少女達の一人が彼女のもとから姿を消したのです。彼女は血眼になってその少女を探しました。それもそのはず、彼女が力を持つ少女達を集めた理由は、自らの支配欲を満たす為だけでなく、自分自身の身を他の力を持つ者達から守る為でもあったからです」


「驚異となりうる存在を支配下におくことで、自分がその存在に反発されることを防いでいたのね」


マナの話にウォルタが相槌を打った。


「ええ、そんな臆病な彼女にとって、今まで支配下にあった力が突如、自らの手を離れてしまったことは恐怖以外の何物でもなかったのです。結局、姿を消した少女は見つけ出すことができず、彼女はその少女の影に怯えて生きる様になります。そして数年後、彼女の不安は現実となります。なんと姿を消した少女が大勢の女性達を引き連れて、魔女の始祖のもとを訪れたのです」


「その女性達って、まさか」


マナの話にフレイが相槌を打った。


「そう、全員魔女です。少女は魔女の始祖の追跡を振り切りながら、各地を巡り、魔女の始祖の支配を逃れた魔女達に呼びかけて、共に魔女の始祖と戦う仲間を集めていたのです。そして少女は魔女の始祖に、支配下にある少女達の解放を要求しました。しかし、当然、魔女の始祖はその要求を飲み込む事はなく、支配下の魔女達や、魔法で手名付けた魔物達を使って少女達に歯向かいました。少女達もこれに対抗し、ここに何年にも渡る、魔女の始祖と少女達の戦いが始まったのです」


「しかし、その結末は……」


マナの話にニールが相槌を打った。


「お、ご存知ですか? 戦局は物量で勝る魔女の始祖側が有利でした。しかし、大陸全土まで広がった戦いは、魔女の始祖の敗北で幕を閉じます。その理由は詳しくは明かされてないのですが、少女達の持つ特別な力が、魔女の始祖の軍団を退けたとされています。そして、敗れた魔女の始祖は地下に幽閉されることとなり、彼女の支配下にあった少女達も解放されました。後に魔女の始祖を打ち破った少女達は勇魔女と呼ばれるようになります。その姿を描いたのがこちらの壁画です」


マナは目の前の壁画を手で指して言った。


「勇魔女か……なんかかっこいいですね、ヒーローって感じで」


ソルジが壁画を見ながら言った。


「ふふ、そうですね。で、魔女の始祖がいなくなった後、勇魔女や解放された少女達は魔女の始祖の行っていた活動を参考に、人々からの依頼を受けてそれを解決する、ギルドを大陸のあちこちで立ち上げ、今に至ると……これにて魔女の始祖のお話は以上になります。ありがとうございました」


マナが深いお辞儀をした後、ウォルタ達は彼女に拍手を送った。


「こちらこそ、ありがとう。とても勉強になったわ、まさか魔女の始まりにそんなエピソードがあったなんて、知らなかったわ」


ウォルタが言った。


「それは無理もないかと思います。お話を聞いてお判りいただけたと思いますが、魔女の始祖は世界征服を目論んだ悪党、そんな存在が魔女の始祖に当たるというのは、魔女の方々にとっては決してイメージの良いものではありませんからね。だからこの話事態はあまり口外されることはなくて、一部の魔女の方しか知らないようになってしまったのですから」


マナが言った。


「確かに自分達のルーツが悪党っていうのはあんま気分良くないよな、なぁ、ソルジさん?」


フレイが尋ねた。


「わ、私ですか? ……そ、そうですねやはり自分達の……」


ソルジがそう言いかけた次の瞬間、神殿内に轟音と共に地響きが響いた。


「何⁉ 今の音と揺れは⁉」


ウォルタが周囲を警戒しながら言った。


「外の方から聞こえた! 行こう!」


四人はフレイに続いて、神殿内を飛び出した。

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