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魔女と姉2

「はぁ、どうしましょう」


頭を抱えたウォルタが言った。彼女は魔物退治の依頼を受けて、デコ山の北に位置するギザの森にやって来ていた。


「大丈夫かよ、ウォルタ?」


隣を歩くフレイが尋ねた。


「大丈夫じゃないわよ、あれから三日、ずっとこのセンスのない腕輪つけっぱなしなのよ」


「そうか? ウチは可愛くていいと思うけど」


「私は嫌なのよ! 自分の趣味じゃないもの着けていると、落ち着かなくて仕方ないわ。あーもう、あの姉ったら! 久しぶりに会ったと思ったら、とんでもない置き土産残して行ってくれたわ!」


「ま、まあまあ、落ち着いてよ。その姉ちゃんの言うことが本当なら、ウォルタが強大な魔力を核に供給出来る様になれば、腕輪は外れるんだろう。今は、それにかけるしかないんじゃないか?」


「それはそうだけど、肝心のその方法が見つからないのよね。いくら特訓をしても、答えらしい物は出なかったし。ま、だからこの魔物退治の依頼を受けたのだけど」


「強い魔物との戦闘で自分を追い込む……だっけ?」


「そう。気に入らないけど姉さんが言っていた通り、成長にはある程度の追い込みが必要だわ。腕輪で魔力を制御した状態で、強力な魔物に挑む。その極限の中でなら何か答えを見つけられるかもしれないからね」


「ま、とは言ってもいざとなったらウチが手を貸すけどね」


「それはそうよ、命あっての物種だもの。頼んだわよ、フレイ」


「任せてよ、ウチも師匠との特訓で腕を上げたんだ。ウォルタは安心して、その答え探しとやらに集中してよ」


「ありがとう、助かるわ」


二人は森の中を歩き続けた。





「だいぶ深い所までやって来たな」


森の中を歩くフレイが言った。


「ええ、もういつ目的の魔物が出てきてもおかしくはないわ。気を引き締め……」


隣を歩くウォルタがそう言いかけた次の瞬間、二人の周囲の地面が大きく揺れた。


「お出ましのようね」


腰のホルスターから魔法銃を抜いたウォルタが言った。


「ああ。ウォルタ、無茶はするなよ」


ウォルタにその場を預け、後ろに引いたフレイが言った。


「分かっているわ。さぁ、来なさい、ビッグスライム!」


ウォルタの言葉共に、地面を裂いて、地中から一体の巨大なゼリー状の球体の魔物が姿を現した。


「戦闘開始!」


ウォルタは構えた銃を強く握りしめて魔力を込めようとした、しかし、その魔力は腕に装着した腕輪によって吸収され、魔導具の核には到達しなかった。


(くっ、やっぱりとんでもない吸収力だわ!)


ウォルタは額に汗を浮かべながら、銃をさらに強く握りしめ、魔力を込めたが、核に魔力を供給することは叶わなかった。


(っ! 全然だめ!)


そう銃と格闘するウォルタをよそに、魔物はその体からゼリー状の球体を無数に生み出し、それをウォルタ目掛けて高速で発射してきた。


「ああもう! こっちは一発も撃てないって言うのに!」


ウォルタは魔物の放った弾をかわしながら言った。


(不味いぞ、防戦一方だ。このままじゃウォルタの体力が持たない。やっぱりここはウチが! ……いやぁ、駄目だ! 今はウォルタを信じて見守るんだ!)


そうウォルタの後ろで葛藤するフレイを、近くの木の上から観察する者の姿があった。


(彼女がウォルタの言っていた、フレイって魔女か。仲間の成長の為を思って自分の身を制するとは、流石は私の妹が見込んだ奴ってとこか)


木の上のアクアが笑みを浮かべた。


(しかし、ウォルタの奴は中々無茶なことを考えるな。魔物との戦闘の中で、自分を成長させる方法を探すつもりなんだろうが……)


アクアは魔物の攻撃をかわし続けるウォルタに目をやった。


(残念ながら魔女、一人が一度に練り上げられる魔力の量は、そう簡単には増やすことはできない。いくら身を極限の環境の中に置いたところで、一朝一夕でどうにかなるものじゃないんだがな)


そう思うアクアの視線の先のウォルタは、相変わらず、銃と魔物、両方との格闘を続けていた。


「まだこんなもんじゃ、くたばらないわ! 絶対に、絶対に答えを見つけ出す!」


そう叫びながら、魔物の攻撃をかわすために大地を蹴ろうとしたウォルタであったが、その足は地面から突出した木の根にすくわれた。


(しまった!)


ウォルタはバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。そして、同時にその背中に魔物の繰り出した弾が直撃した。


「ぐあっ!」


ウォルタはその場から弾き飛ばされた。


「ウォルタ!」


フレイが叫びながら、ウォルタのもとに駆け寄った。


「……平気よ……これくらい。まだ、やれるわ」


ウォルタは呼吸を整えながら立ち上がった。


「駄目だ! これ以上は危険だ! ここから先はウチが……」


「いいえ、まだ答えを見つけられていないの。お願い、フレイ。まだ戦わさせてちょうだい」


魔法剣を構えたフレイの言葉を遮ってウォルタは言った。


「……ウォルタ」


フレイは構えた剣を降ろした。


(ごめんなさい、フレイ。私、強くならなければならないの。以前の鬼女との戦いで私はあなたに一緒に逃げようと言ったわ。笑えないわよね、あなたは逃げる体力もない程に消耗していたというのに)


ウォルタは銃を握りしめた。


(私、怖かったの。あの鬼女二人を目の前にしただけで、勝手に一人で戦意喪失していたわ。自信がなかった、あなたを、自分を守り切る自信が)


ウォルタの銃を握る手に力がこもる。


(だから強くなろうと決めた! 今以上に強力な力をものにして見せると! そして、この腕輪を外すことがそれに繋がる! 答えを、答えを見つけ出さないと!)


(思いつめた時、一人だけでどうにかしようとするの、お前の悪い癖だぜ)


ふと、ウォルタの脳裏にアクアの言葉がよぎった。


(……一人だけで)


ウォルタははっと目を見開いた。


「……ウォルタ、悪いけどやっぱりウチが戦わせてもらう。ウォルタは下がって……」


「いいえ、私が戦うわ」


フレイの言葉を遮ってウォルタが言った。


「……ただし、あなたの力を貸してもらうわ、フレイ!」


ウォルタはフレイに笑顔を向けて言った。


「……ああ! 任せろ!……で、具体的に何をすればいいんだ?」


フレイが尋ねた。


「言葉通りよ。あなたの魔力を貸してもらうの」


ウォルタが答えた。


「ウチの魔力を?」


「ええ、まず右手で私の左手を握ってみて」


「ん、こうか?」


「そう、そしたら魔導具に魔力を込めるみたいに私の左手に魔力を送り込んで」


「お、おい。それって大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。私を信じて!」


「……分かった……行くぞ!」


フレイはウォルタの握った左手に魔力を込めた。


「うっ⁉」


ウォルタの左手に込められたフレイの魔力がウォルタの体に移動した。


「大丈夫か、ウォルタ!」


フレイが尋ねた。


「平気よ! 続けて!」


「分かった!」


フレイはウォルタの左手に魔力を込め続けた。


「私一人の魔力では無理でも、フレイの魔力を合わせれば!」


ウォルタは体に溜まったフレイの魔力と自身が練り上げた魔力を、自身の右手に勢いよく送り込んだ。その魔力の量は腕輪の魔力吸収量を軽く超えていて、腕輪が吸収しきれなかった魔力が、ウォルタの右手が握る銃の核に送り込まれた。


「やった! 出来たわ!」


そう喜ぶウォルタの目の前では、魔物が再び弾を発射しようとしていた。


「ウォルタ!」


「分かってる!」


フレイの言葉に答えたウォルタは、魔物に向けて銃を構え、引き金を引いた。放たれた銃弾は魔物の体を貫いた。


「……腕輪を着けたまま撃ちやがった。なんて奴だ」


木の上でその光景を見ていたアクアは驚愕した。


「やった……撃てた……撃て……」


ウォルタは突如、その場に膝を着いた。そして、その隙を狙ったかのように、魔物はウォルタ目掛けて弾を発射してきた。


「危ない! ウォルタ!」


フレイはウォルタ目掛けて飛んできた弾に切りかかった。しかし、その弾は切り裂かれることはなく、逆にその凄まじい弾力で切りかかったフレイを剣ごと突き飛ばした。


「なっ⁉ しまった!」


突き飛ばされたフレイの視線の先では、膝を着いたウォルタに魔物の放った弾が迫っていた。しかし、次の瞬間、その弾は突如出現した青い閃光によって貫かれ、ウォルタの目の前で消滅した。


「……喜んで気を抜くとは、まだまだだなウォルタ」


二人の目の前に現れた魔法銃を構えたアクアが言った。


「な、何だ、あんたは?」


フレイが尋ねた。


「初めまして、ウォルタのお姉ちゃんでーす。よろしくね、フレイちゃん」


アクアが歯を見せて笑いながら言った。


「姉ちゃん⁉ あんたが……って、ウォルタは? ウォルタは大丈夫なのか?」


「平気、平気。初めて魔力の受け渡しなんてやったもんだから、体が衝撃でビビっちまっただけさ。そうだろ、ウォルタ?」


「……ええ、平気よ。なんであなたがここにいるのか疑問に思うことを除けばね……まあ、それは、魔物を片付けた後でいいわ」


アクアの言葉に答えて、立ち上がったウォルタは右腕の腕輪を外した。


「よし、外れたわ。フレイ、もう一度お願いできる?」


『チャージ』


ウォルタが銃に魔導石をスキャンしながら尋ねた。


「ああ!」


フレイはウォルタのもとに駆け寄ると、彼女の左手を握って魔力を込めた。そして、その魔力はウォルタの体を伝い、銃の核へと送り込まれた。


「これが! 真のチャージ弾よ!」


ウォルタは魔物に向けて銃を構えて、引き金を引いた。放たれた巨大な青い閃光は魔物に直撃し、その体を光の粒子へと変えた。





「何ですって⁉ 一生外れないって言うのは嘘ぉ⁉」


戦いを終えたウォルタは、アクアの放った一言に驚愕した。


「うっはは、悪い悪い、お前を追い込むためだと思って嘘言ってたんだ。本当はこの鍵を使うだけで簡単に外せるんだ」


アクアが手に持った鍵を見せながら言った。


「何よそれ! 本気で信じちゃったじゃないのよ!」


ウォルタはアクアに詰め寄った。


「ま、まあそのおかげで、ウォルタもチャージ弾をものにできたんだし、よかったんじゃないか?」


フレイが冷や汗を浮かべながら言った。


「おっ、流石フレイちゃん、分かってるねぇ。そうこれは、姉による妹への愛ゆえの試練! 私も嘘をつくのは心が痛くて痛くてしかたなかったわぁ!」


アクアが泣き真似をしながら言った。


「まったく、調子いいんだから……まあ、チャージ弾をものにできたのは事実だし……その、あ、ありがとう……」


頬を赤くしたウォルタが小声で言った。


「んー? ありが、何だって? 聞こえなかったなぁ、もう一度言ってぇ」


にやけ面のアクアが耳に手を当てながら言った。


「あーもう! 前言撤回よ、このほらふき姉がぁ!」


顔を赤くしたウォルタがアクアを指差しながら言った


「うっはは! でもまあ、お前には驚かされたよ。誰かと協力することで生まれる力の大きさって奴、しかとこの目で見させて貰ったぜ」


アクアは笑顔でそう言った。


「……そうね、このチャージ弾は私とフレイの力の結晶。この力があれば、この先どんな強敵が立ちはだかろうと、戦い抜けていけるはずよ」


ウォルタは握りしめた右こぶしを見ながら言った。


「ああ、違いない!」


フレイは笑顔で同意した。


「うんうん、とまあ、お前の腕輪も無事外れたことだし、私はもう行くわ」


アクアが背中のリュックを背負い直しながら言った。


「もう行くの? 忙しいのね、ヒーローは」


ウォルタが言った。


「ああ、まだ見ぬ海の向こうの島で、私の助けを待っている人達がたくさんいるからな。ウォルタ、お前もギルドの仕事頑張れよ。もちろん、フレイちゃんもな」


「おう! ウォルタと力を合わせて頑張るよ!」


アクアの言葉にフレイは笑顔で答えた。


「ええ、頑張るわ。またね、姉さん」


「ああ、またなウォルタ」


ウォルタとアクアは硬い握手をかわした。

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