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魔女と姉1

「すいませーん 誰かいませんかー?」


ウォルタの自宅の前で、一人の女性がドアを叩きながら言った。


「……留守か。やれやれ間が悪いな、やっとこさ家を突き止めたっていうのにさ」


女性は呟いた。


「まったく、どこに行っているんだか、私の妹は」


女性はそう言い残し、ウォルタの自宅前を後にした。





(集中よ、集中)


ウォルタが心の中で呟いた。彼女の姿は魔女専用の射撃訓練所の中にあった。


(体内の魔力を一気に、チャージの魔導石で容量を上げた魔法銃の核へと送り込む……一気に、一気に!)


ウォルタは握った魔法銃に勢いよく魔力を込めた。


(…………駄目ね、全然だわ。やっぱり時間がかかり過ぎる)


ウォルタは構えた銃を降ろした。


(先日の鬼女の襲撃で、私とフレイは自分達の非力さを思い知った。お互いにもっと強くなろうと誓ったわ。フレイもサナの修行場に赴いて特訓をしている。私も今以上に力をつけなくてはならない)


ウォルタは銃を強く握りしめた。


(このチャージ弾を完全にものする。それには核への魔力供給の時間短縮が必要不可欠。何とかしてこの課題をクリアしなくては)


「……でも、どうすれば」


「あのー!」


そう俯きながら考え込むウォルタの背中に声が響いた。


(誰かしら?)


ウォルタは後ろを振り返った。そこには一人の青髪のショートヘアーの女性が立っていた。


「……もしかして、ウォルタか?」


女性が尋ねた。


「……まさか、姉さん?」


ウォルタは目を見開いた。


「うっはは! やっぱりウォルタだ! そうだよ、お前の姉のアクアだよ!」


女性はそう言いながらウォルタに近付いた。


「家に居なかったから、探したぜ。こんな所で何してんだ?」


アクアが尋ねた。


「何って……特訓よ、魔法銃の」


ウォルタが答えた。


「魔法銃……」


アクアはキョトンとした。


「な、何よ?」


ウォルタが尋ねた。


「……お前、魔女になったのか! うっはぁ! こいつはすげぇや! 魔法の属性は? ギルドはどこだ?」


アクアはウォルタの両肩につかみかかり、目を輝かせて尋ねた。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ! もう、魔女のことになると昔っからこうなんだから!」


ウォルタはアクアの腕を振り払いながら言った。


「だいたい姉さんの方こそ今まで何してたのよ? 魔力が覚醒したら突然、家を飛び出して居なくなったじゃない」


「私? 私は普通に旅してるだけだけど」


「旅ぃ⁉ 魔女はどうしたのよ? あんなに憧れていたじゃない!」


「もちろん魔女もやっているよ。今は旅をしながら各地の島を巡って、人助けをしているんだ」


「島? 海の向こうってこと?」


「そうさ、海の向こうはすげぇぞ。この前立ち寄った島なんて……って私の話はどうでもいい! お前の話を聞かせろぉ!」


アクアは再びウォルタの両肩につかみかかった。


「ああ、もう! 分かったわ、話すわ! 話すわよ! 特訓は中断、近くの喫茶店に入りましょう!」


「えー、私は飲み屋がいいんだが」


「却下。姉さん、酒癖悪そうだもの。というかまだ昼間よ!」


「ちぇー、分かったよ」


二人は喫茶店へと移動した。





「何ぃ⁉ ギルドを作っただぁ!」


突然、椅子から立ち上がったアクアが叫んだ。


「しーっ! 静かにしてよ!」


頬を赤くしたウォルタが言った。


「お前が……ギルドを……う、うっはははははは!」


「ちょ、何がおかしいのよ!」


「いやぁ、悪い悪い、びっくりしすぎて笑っちまった。まさか、あのお前がギルドを作っていたとはな、夢にも思わなかったぜ」


「何かカンに障るわね。というか、驚いて爆笑するって意味不明なんだけど」


ウォルタは眉間にしわを寄せたまま、コーヒーを口にした。


「で、メンバーは?」


「炎魔法使いのフレイっていう魔女が一人よ」


「へぇ、意外だな。お前の事だから一人でギルドやっていると思ったのに」


ウォルタは口に含んだコーヒーを吹き出しかけた。


「う……確かに一人でもやっていた時期もあったわよ。でも、今は違うわ、彼女のおかげで、私は誰かと協力することで生まれる力の大きさを知ったのだもの」


ウォルタはアクアの目を真っ直ぐ見つめてそう言った。


「……ふーん、そっか。変わったなお前」


アクアは笑みを浮かべながら言った。


「あ、当たり前でしょ! いつまでも昔のままの私だと思わないでちょうだい!」


「うっはは、そうだな……で、そんなお前があの訓練場で俯いていたのはなぜなんだ?」


「うっ、気づいていたの?」


「それこそ、当たり前だ。この世の終わりみたいな顔してたぜ」


「そ、そこまではひどくないでしょ……姉さんには関係ないわ、これは私の問題だもの」


「そう硬いこと言わずに、話してみろって。思いつめた時、一人だけでどうにかしようとするの、お前の悪い癖だぜ」


「……仕方ないわね、実は」


ウォルタはアクアに行っていた特訓について説明した。


「……なるほど、容量を底上げした核に、魔力を供給するのにかかる時間を短縮したいと」


ウォルタの話を聞いたアクアが言った。


「そうなの、何かいい方法はないかしら?」


ウォルタが尋ねた。


「簡単さ、お前が一度に練り上げられる魔力の量を大きくすればいいんだ」


「どうやって?」


「それは知らん」


ウォルタは椅子から転げ落ちそうになった。


「うっはは、冗談冗談。うーん、そうだな……ウォルタ、ちょっと腕を出してみろ」


「腕? ……こう?」


ウォルタはテーブルの上に右腕を置いた。するとアクアは、自らのカバンから何かを取り出して、ウォルタの腕にそれを着けた。


「……ちょっと何よ、このセンスのない花柄の腕輪は?」


ウォルタが冷や汗を浮かべながら尋ねた。


「私が昔使っていた魔力制御装置だ。そいつには装備者が発した魔力を吸収する機能が備わっている。故に、装備者が魔導具の核に魔力を供給する妨げになるんだ」


アクアが答えた。


「それって、つまり」


「そう、そいつを着けたまま魔導具を使えるようになった時、お前の魔力は自然と以前の何倍もの大きさになっているって訳だ。どうだ、すごいだろ?」


「ええ、確かに効果的ね。助かるわ……でも、このナンセンスな柄の腕輪をずっとつけているには抵抗があるから、特訓の時だけ着けるようにして、今は外させてもら……あれ?」


そう言いながら腕輪を外そうとしたウォルタであったが、それは外すことは叶わなかった。


「うっはは! 無駄無駄その腕輪は一度付けたら、お前がそいつを装着状態で魔導具を使えるようになるまで、外れない仕組みになっているからな!」


アクアが笑顔で言った。


「はぁ⁉ なんてもの着けてくれてんのよ!」


ウォルタはアクアに詰め寄った。


「何だよ、強くなりたいんだろう? 成長にはある程度の追い込みって奴が必要だ。そいつをすぐにでも外したければ、一刻も早く強大な魔力を核に供給出来る様になることだ。でないとお前、そのナンセンスな腕輪を墓場まで持って行くことになるぜ」


アクアは歯を見せて笑った。


「冗談じゃないわ! 説明もなしにこんなもの勝手に着けて! 外しなさいよ!」


「嫌だよーん……っと、もうこんな時間か。悪い私、用事あるからこれで。後、コーヒー代払っといて、私、金ねーから」


そう言い残すとアクアは目にも止まらぬ速さで、店から出て姿を消した。


「あっ、ちょっと! ……に、逃げられた」


ウォルタは右腕の花柄の腕輪に目をやって、深いため息をついた。

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