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魔女と謎の二人組2

「ふう、意外と早く集まったわね。もっと時間がかかるかと思っていたけど」


腰に両手を当てて、軽く伸びをしたウォルタが言った。


「フレイがどれだけ採ってくるかは分からないけど、これだけあれば十分ね。余りの実で、今夜はフレイに美味しいレンの実ジュースを振る舞ってあげれそう」


そうこぼしたウォルタの髪を突然、強風が煽った。


「うっ! 何、この風?」


そう言ったウォルタの周りの木々は、強風によって騒がしく揺れ始めた。


(何この感じ、すごい胸騒ぎがするわ……フレイ、一人で大丈夫かしら)


ウォルタがいぶかしげな表情で見上げた空の下、そこに広がる森の中では鋼鉄の剣と爪とが激しくぶつかり合う音が響き渡っていた。


「オラオラ! どうした! ちっとはやり返して来いよ!」


「くっ、くそ!」


バジリが放つ爪による高速の連撃をフレイは握りしめた剣で防ぎ続けていた。


「オラよぉ!」


バジリが勢いよく繰り出した爪による一撃が、フレイを構えた剣ごと突き飛ばした。


「何だよ、つまんねぇな。さっきのツルを引きちぎったみたいによ、面白いことやってくれよ。これじゃあ仕留め甲斐がねぇぜ」


バジリは地面に膝を着いたフレイを見下しながら言った。


(つ、強い。ニールと同じ、いやそれ以上だ)


そう思いながらフレイは剣を構えて立ち上がった。


(けど、こいつらも鬼女なら、ニールの時みたいに奴らの体の魔物の部分を破壊すれば、人間の奴らを傷つけることなく無力化できる)


フレイは剣に魔力を込め、その刀身に炎を灯した。


「……目の色が変わったな、ちっとはやる気になったかよぉ!」


バジリは両手の爪を構えたまま、フレイに突進を繰り出して来た。


「オラぁ!」


「そこだぁ!」


バジリが右手の爪で放った一撃に合わせる様にフレイは剣を降った。そして、その斬撃はバジリ持つ強靭な爪の一方を打ち砕いた。


「何⁉」


目の前で砕け散った自らの爪にバジリは驚愕した。


「あれだけ食らえば、嫌でもお前の攻撃のタイミングは覚えられる! 後はその攻撃に合わせてカウンターを決めるだけだ!」


フレイは振り切った剣を、素早く構え直して言った。


「こ、こいつ!」


「もう片方ももらったぁ!」


フレイの振り下ろした剣がバジリの左手の爪を捉えた。しかし、次の瞬間、フレイの腹部に激痛が走り、その体は後方へと突き飛ばされた。


「っ⁉ な、何だ?」


そう言って地面に倒れた体を起こしたフレイの目の前には、トカゲの様な巨大な尻尾を背中から生やしたバジリの姿があった。


「なんてな。俺の武器が爪だけだって誰か言ったかよ」


バジリは尻尾を動かしながら、不敵な笑みを浮かべた。


「お前の考えは分かってる。俺の体の魔物の部分を破壊して、無力化しようって魂胆なんだろう。いいぜ、それに乗ってやる。俺のこの自慢の尻尾、破壊できるもんならしてみろよ!」


そう言うとバジリは再びフレイに向けて突進を繰り出した。


「くっ、こうなったら!」


『ウェイブ』


フレイは剣に魔導石をスキャンし、バジリに向けて炎の斬撃を放った。しかし、その斬撃はバジリの振り払った尻尾によってかき消された。


「そんなカスみたいな攻撃効くかよ!」


そう言いながら、フレイとの距離を詰めたバジリは尻尾をフレイに向けて振り下ろした。フレイは間一髪、その攻撃をかわすと、素早くバジルと距離を取った。


「ならこいつで!」


『マキシマム』


フレイは再び剣に魔導石をスキャンし、フレイの握る剣はフレイの背丈以上に巨大化した。そして、フレイはその巨大な剣を両手で構えたまま、バジルとの距離を詰めた。


「アホが! そんな重そうな剣、振り下ろす前にてめぇを尻尾で吹っ飛ばしてやる!」


そう言うとバジリは尻尾をフレイ目掛けて振りはらった。


(捉えた!)


バジリがそう思った次の瞬間だった。


「解除ぉ!」


フレイの叫び声と共に、フレイの握った剣の刀身は本来の大きさに瞬時に戻った。そして、剣が軽くなった事で、突如、速度を上げた剣の刃は、バジリの尻尾を、フレイの体に到達するよりも早く、切り裂いた。


「何ぃ⁉」


バジリは切り裂かれた自身の尻尾を目の当たりにして驚愕した。


「ウチががむしゃらに魔導石を使って攻撃していると思って油断したね! 今度こそ終わりだ!」


そう言って、フレイは剣をバジリの尻尾の残り目掛けて振り下ろした。しかし、その一撃がバジリを捉えることはなかった。バジリは突如、フレイの目の前から姿を消したのだった。


「なっ! 消えた⁉」


フレイは驚愕し、即座に周囲を見回したが、その目にバジリの姿を捉える事は叶わなかった。


「……やるじゃねぇか、俺の尻尾を切り落とすとはよ」


フレイの耳にどこからともなくバジリの声が響いた。


「くそっ! どこに消えた!」


フレイは剣を構え直して周囲を警戒した。


「けどよ、さっきも言ったはずだぜ。俺の武器が爪だけだって誰か言ったかよってなぁ!」


森にバジリの怒号が響いた。


「この声、まさか!」


フレイは足元の地面を勢いよく蹴って、その場からその身を移動させた。その次の瞬間、フレイが蹴った地面の下からバジリの爪が勢いよく飛び出した。


「こいつ! 地面の中に!」


バジリの一撃をかわしたフレイは息を切らしながら驚愕した。


「……ちっ、よくかわしたな」


そう言いながらバジリは地面から飛び出した。


「びびったかよ。地面を水のように変化させ、地中を水中のように自由自在に移動する事ができる。これが俺の完全体鬼女としての真の武器である能力だ」


バジリは不敵な笑みを浮かべながら言った。


「褒めてやるぜ、俺にこの能力を使わせたことを。その褒美として、お前はこの能力で始末してやる。お前をこの手で地中に引きずり込んで、そのまま土葬してやらぁ!」


そう言うとバジリは目にも止まらぬ速度でフレイとの距離を詰めた。フレイの反応は一瞬遅れた。


「終わりだ」


そう言ってバジリの手がフレイの首を掴もうとしたその時だった。突如、両者の間を巨大な青の閃光が切り裂いた。


「っ⁉ 何だ⁉」


驚いたバジリは即座に後退した。


「この光は!」


フレイは口元に笑みを浮かべて閃光の飛来してきた地点を振り向いた。


「ケガはない! フレイ!」


フレイの後方から疾走して来たウォルタが尋ねた。


「大丈夫。助かったよウォルタ」


フレイが笑顔で答えた。


「あの姿、もしかしなくても鬼女ね」


「ああ、それもニールよりも遥かに強い。地面に潜る能力に気を付けて」


「わかったわ」


ウォルタとフレイの二人はバジリに向き合って、各々、魔導具を構えた。


「……邪魔が入ったか……ん? ウォルタ、どっかで聞いた名前だな」


「もう一人のターゲットの名前でしょ、忘れてんじゃないわよ」


首を傾げたバジリの背後から姿を現したアルラが言った。


「そうそう、そうだった。てことはこの状況は好都合だな。二人まとめて始末できるじゃねぇか」


バジリは舌なめずりをした。


「やる気になってるとこ悪いけど、流石に時間をかけすぎよ。ここからは私も混ぜてもらうわ」


バジリの隣に移動したアルラが言った。


「ちっ、分かったよ」


爪を構えたバジリが言った。


(まずいわね、おそらくもう一人の方も鬼女、それもニール以上の。フレイは既に戦闘で疲弊しているし、二対二とは言えこちらが圧倒的に不利だわ)


ウォルタの銃を握る手に大量の汗が浮かび上がった。


(フレイが苦戦する程の相手、生半可な攻撃じゃ意味が無い。かと言ってこの状況でチャージを行う隙はまずない。そんな条件下で能力が未知数なこの二人を相手にしなきゃいけないっていうの)


ウォルタは唾を飲み込んだ。そして、フレイのそばに近づいた。


「逃げるわよ」


ウォルタはフレイに耳打ちした。


「私が銃で奴らの足元を撃って牽制するわ。その隙に逃げ……」


「逃げる算段をしているなら無駄だからやめといたほうがいいわ」


ウォルタの言葉を遮ってアルラが言った。


「この森一帯の地面の下には、私の使役する魔物を潜ませてあるの。あなた達に逃げ場なんてないわ」


アルラが笑みを浮かべながら言った。


「……そんな」


アルラの言葉にウォルタは絶望した。


「そういう事だ。それじゃ、二人仲良く消えな!」


バジリが爪を構えたまま、二人に勢いよく迫った。しかし、次の瞬間、バジリの動きは、爪と刃の交わる音と共に止まった。


「お二人共、加勢させて頂きますよ」


「フウ!」


突如、目の前に現れたフウにウォルタは驚きと安堵の表情を浮かべた。


「何だ、てめぇは」


爪を槍で受け止められたバジリが尋ねた。


「通りすがりの、魔女ですよ!」


フウは力強く槍を振り、バジリを爪ごと突き飛ばした。


「ありがとうフウ。でも何でここに?」


フレイが尋ねた。


「仕事の帰りにこの森のそばを通ったところ、大量の魔物の気配を感じ取ったので中に入って調べていたんですよ」


フウが答えた。


「おい、大量の魔物ってお前が地中に放った奴らの事だろ」


バジリがアウラに向かって言った。


「……とんだ誤算。念入りに準備しすぎたようね」


アルラがため息混じりにそう言った。


「ったく……まあ、一人増えた所でどうってことない……」


「引くわよ、バジリ」


バジリの言葉を遮ってアウラが言った。


「ああ⁉ 何でだよ?」


バジリが尋ねた。


「そこのフウとかいう魔女、ターゲットの二人とは比べ物にならないほどの実力者よ。私達二人でも分が悪すぎるわ。それと、あんたがちんたら戦っている間に、新たな指令が下ったの。そっちを優先するわよ」


「……ちっ、仕方ねぇな。おいお前ら! 命拾いしたな。次会う時は容赦しねぇから、覚えときな!」


そう言い残し、バジリとアルラの二人は突如、その場から姿を消した。


「……消えた、引いたのか?」


フレイが言った。


「どうやらそのようね……取り敢えず一安心だわ。助かったわ、フウ」


ウォルタが言った。


「何、礼には及びません……それより、今の方達が以前、街を襲撃したニールさんと同じ、鬼女なのですね」


フウが尋ねた。


「ええ、そうよ」


ウォルタが答えた。


「正直、引いて頂いて幸いでした。向かい合ってるだけで、彼女達から底知れぬ邪悪な力を感じ取れたものですから。あのまま戦闘になっていたら危なかった」


そう言ったフウの額には冷や汗が浮かび上がっていた。


「くそぅ、あいつら一体、何が目的なん……とっとと」


そう言いかけて倒れ掛かった、フレイの身をウォルタが支えた。


「ちょっと大丈夫、フレイ」


「平気、平気、少し疲れただけだよ……って、そうだ、まだ仕事の途中だった!」


「いいのよ、フレイ。よく一人で戦ってくれたわ。仕事は私に任せて、あなたは休んでいて」


「ウォルタ……へへ、そうさせてもらうよ」


フレイは笑顔でそう言った。


(魔女部隊の話から、ニールの裏に何者かがいるのは分かっていた。でも、まさかニールの他にも鬼女がいるなんて。フレイはかつて私にこれは自分達の手には負えない問題だと言っていたけど、それはもう違う、彼女達は確実に私とフレイの命を狙って来ていたのだもの)


「……力が必要ね」


ウォルタが呟いた。


「自分を……互いを守れる力が」


ウォルタは自分の右こぶしを力強く握りしめた。


「……ああ、そうだな。もっと、もっと強くならなきゃ」


フレイもウォルタの言葉に答え、自らの右こぶしに力を込めた。

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