魔女と一匹狼2
「……ふう、流石にここまでは追ってこないだろう」
保安隊の追跡を振り切ったグランは、グルの森へとやって来ていた。
「まったく、毎度のことだが疲れるぜ」
そう言って、彼女が近くの木に体を預けた次の瞬間、そばの茂みが音を立てて揺れた。
(嘘だろ⁉ こんなとこまで追ってきたのかよ!)
グランが茂みから離れて身構えると、茂みから一つの人影が飛び出した。
「……ぜぇ、はぁ、やっと追いついた」
飛び出したのは、息を切らしたフレイだった。
「……お前、さっきの……確かフレイとか言った奴。何の用だ?」
グランがフレイに尋ねた。
「これ。グランのだろ。さっきぶつかった拍子に落としたみたいだよ」
フレイはグランに魔導石を差し出した。
「……確かにアタシのだ。お前、わざわざこれを返すために」
グランはフレイから魔導石を受け取った。
「へへへ、気にすんなって。それに、グランに一つ聞きたいこともあったしさ」
フレイは額の汗を拭いながら言った。
「アタシに聞きたいこと? ……まあ、こいつを届けてくれた例だ。一つだけだぞ」
グランは渋々承諾した。
「あのさ、グランは本当にあの喫茶店で暴れてたのか?」
フレイの質問にグランは首を傾げた。
「何言ってんだ、お前だって見てただろう、アタシに殴られた奴が店から出ていった所を」
「それは見てたけど……なんか、グランが自分から喧嘩するような奴に思えなくってさ。保安隊から逃げる時も、魔法に巻き込まないように注意したり。さっきだって、倒れたウチに手を差し伸べてくれたし」
フレイは笑顔でそう言った。
「……そこまで見抜かれてちゃ世話ないか……まあいい本当のこと言ってやる。喧嘩を仕掛けたのはアタシじゃない。殴られた女の方だ」
グランは話しを続けた。
「その女は魔女でな。金の持ち合わせがなかったのか知らんが、喫茶店の店員を魔法で脅して食い逃げしようとしてたんだ。そしてアタシが止めに入ったら、なんとその女、店の中だっていうのに、魔法で攻撃してきてな」
「それで、グランも魔法を使ったのか?」
「使ってねーよ。そんな奴、拳一発でノックアウトさ」
グランは握り拳を掲げて言った。
「何だ、そうだったんだ。思った通り、グランは喧嘩をしかけるような奴じゃなかったな……でも、向こうが先に手を出したとは言え、人を殴るのは良くないと思うな」
フレイが苦笑いでそう言った。
「……人を殴るのはよくないか……お前もあいつと同じことを言うんだな」
グランが自分の拳を見つめて呟いた。
「あいつ? 誰だそれ?」
フレイが首を傾げた。
「……質問は一つという約束だ。分かったらもう帰れ。ここは魔物が多くて危険なんだ」
グランはそう言うと、どこかへ去ろうとした。
「あ! ちょっと待って……」
フレイがそう言いかけた次の瞬間、二人の近くの地面が轟音と共に割れ、地面から巨大なモグラの姿をした魔物が現れた。
「どわぁ⁉ 魔物!」
魔物を見たフレイが退いた。
「くそっ! 言ったそばからこれかよ!」
グランはそう吐き捨てると、背中のハンマーを手に取って構えた。
「こいつはアタシが相手する。お前はとっとと逃げろ!」
魔物と向き合ったグランが言った。
「いんや、ウチも戦う!」
フレイも剣を構えると魔物と向き合った。
「何言ってんだ! 邪魔だから失せろ!」
グランの言葉と共に、魔物は巨大な爪を有する腕を、二人に向けて振り下ろした。
「あの野郎、失せろと言っているのに」
魔物の攻撃を何とかかわしたグランに、再び魔物の強靭な爪が襲い掛かった。
「こんな、のろい攻撃……」
そう言って、魔物の攻撃を軽くかわそうとしたグランの脇腹に、突如、激痛が走った。
(しまった! さっき喫茶店で食い逃げ女の魔法に付けられた傷が!)
傷をかばい、回避を遅れたグランの目の前に、魔物の爪が迫った。しかし、間一髪、その身は何者かのに抱きかかえられて、事なきを得た。
「大丈夫か、グラン」
グランを魔物の爪から救ったフレイが言った。
「……ああ、平気だ」
グランは目をしばたかせてそう言った。
「まったく、強気に出た割に、ケガしてんじゃねぇか。そんな体でまともにやりあえるとは思えないね。やっぱりウチも混ぜてもらうよ!」
立ち上がったフレイが笑顔でそう言った。
「……ふん、好きにしな」
同じく立ち上がったグランが言った。そして、二人は魔物から一旦、距離を置いた。
「こいつで一撃で沈めてやる」
そう言うとグランは懐から魔導石を取り出すと、自らの握ったハンマーにスキャンした。
『アブソーブ』
魔導石から音声が鳴り、突如、グランの周囲から土埃が舞い上がった。そして、舞い上がった土埃はグランの握るハンマーの頭部に吸い込まれるように集合し、ハンマーの頭部は巨大な岩石の塊へと姿を変えた。
「やるなぁ。ならウチも!」
フレイもバッグから魔導石を取り出すと、握った魔法剣にスキャンした。
『ウェイブ』
魔導石から音声が鳴り、魔法剣が斬撃発射可能になった。
「お前も魔導石を……ふん、少しはやれるようだな」
グランがフレイに向けて笑みを向けた。
「よし、行くぞ!」
「おう!」
そして、グランの振り下ろした岩石のハンマーの一撃と、フレイが放った炎の斬撃が魔物を捉えた。二つの衝撃は魔物を打ち砕き、魔物は光の粒子となって消えた。
「やっと出口だぁ!」
森を抜けたフレイが叫んだ。
「静かにしろ、傷に響く」
同じく森を抜けたグランが脇腹を抑えながら言った。
「おっと、悪い悪い。ケガ大丈夫か? 肩貸そうか?」
フレイが尋ねた。
「これくらい平気だ……じゃあな」
そう言うとグランはフレイを置いて歩き出した。
「え、ああ……」
そうフレイが言いよどんだ後、グランは脚を止めた。
「……今回は、お前に助けられた……一応、礼を言っておく……あ、ありがとうな」
グランは振り返る事なくそう言い残して歩き出した。
「どういたしまして! また会おうな、グラン!」
フレイは満面の笑みで、去り行くグランに手を振った。
「……って、しまった! ウォルタ待たせたままだった! 早くい行かなきゃあ!」
フレイは広場に向けて駆け出した。
そして、翌日の朝
「聞いた、フレイ? グランがとっちめた食い逃げ犯の魔女、捕まったらしいわよ。常習犯だったっぽいわね」
朝食を取り終えたウォルタが言った。
「ホントか?! いやぁ、よかった。これでグランの努力も報われるってものだな」
朝食中のフレイが言った。
「ふふ、そうね」
ウォルタがそう言った後に、インターホンが鳴った。宅配便が届いたのだった。
「いったい何かしら」
「手紙が入ってる、読むぞ」
フレイは手紙を読み始めた。
「昨日のの借りを返させてもらう。早い内に食べてしまえ。グランより……って、えええ⁉」
フレイは驚きのあまり飛び上がった。
「中身は……クッキーの詰め合わせね……何というか、意外と律儀な奴なのね」
ウォルタは顔に冷や汗を浮かべた。
「ま、まあ。せっかくだし、ありがたく頂こう」
フレイとウォルタは送られてきたクッキーを口にした。
「ん、上手い」
「いけるわね」
二人の間でしばらくクッキーブームが続いた。




