魔女と一匹狼1
「いやぁ、楽しみだなぁフウの紹介してくれるメシ屋」
街の通りを歩くフレイが言った。
「そうね。あの釣り好きのフウが絶賛する店だもの、きっと絶品の海鮮料理かなにかだわ」
フレイの隣を歩くウォルタが言った。
「違いないな。で、待ち合わせ場所は真っ直ぐ行った先でいいんだよな?」
「ええ、そうよ。この商店街を抜けた先に……」
そう言いかけ時、ウォルタは視線の先に大勢の人だかりを捉えた。
「なんの騒ぎかしら?」
人だかりを見たウォルタは首を傾げた。
「取り敢えず行ってみよう!」
二人は人だかりの近くに移動した。そこは喫茶店の前だった。
「何があったんだ?」
フレイが近くの女性に尋ねた。
「店の中で喧嘩ですって。しかも魔法の様な物が飛び交っているらしくて」
女性は顔をしかめてそう答えた。
「魔法? 魔女が喧嘩をしているのかしら?」
ウォルタがそう言った次の瞬間、店のドアが勢いよく開かれ、店から一人の女性が飛び出した。
「も、もう何なのよアイツ!」
女性は頬を抑えながら逃げ去るようにその場から姿を消した。そしてその後を追うようにして、一つの人影が店から飛び出した。
「この野郎! 待ちやがれ!」
店から姿を現したのは、背中にハンマーを背負った、小柄な金髪のショートヘアーの少女だった。
「……逃げ足の速い奴だ」
辺りを見まわして少女が言った。そして通報を受けて来た魔女の保安隊が、人だかりをかき分けて、その少女の周りを取り囲んだ。
「貴様か、店で暴れている魔女というのは。確保する!」
保安隊の一人が言った。
「……やっぱり魔女同士の喧嘩だったようね」
その様子を見ていたウォルタ言った。
「そう、あの少女はわたくし達と同じ魔女です」
突然ウォルタの背後から声がした。
「フウじゃない、脅かさないでよ」
振り返ったウォルタが言った。
「あはは、すみません」
「フウ、あいつのこと知っているのか?」
フレイが尋ねた。
「ええ、彼女の名はグラン。たった一人でギルド、アガレスとして活動する一匹狼の魔女。一部の界隈じゃトラブルメーカーとして有名なんです」
フウが呆れ顔で答えた。
「……一人でギルドを」
そうつぶやくウォルタの視線の先では、グランが保安隊と取っ組み合いになっていた。
「くそぅ! おい! 放しやがれ!」
保安隊に羽交い締めにされたグランが叫んだ。
「大人しくしろ!」
そう言った、保安隊をグランがにらみつけた。
「……離さなねぇと、ケガするぜ」
グランがそう言った次の瞬間、突如、グランの足元が光を放ち、光の中から土でできた長方体の足場が出現した。
「ま、魔法か⁉」
保安隊はグランから手を放し、退いた。
「よし、今だ!」
グランの言葉と共に、足場はグランを乗せたまま塔のように真上に伸びた、そして、グランはその伸びた足場から、喫茶店の屋根へと飛び移ると、近くの店の屋根を伝って逃げ去った。保安隊はグランを追ってその場から姿を消した。それに伴って喫茶店前の人だかりも徐々に消え始めた。
「見たかよ、ウォルタ。地面がギュイーンって伸びってたぞ」
目を輝かせたフレイが言った。
「土属性の魔法と言ったところかしら。それにしてもこんな街中で魔法を使うなんてどうかしているわ」
眉間にしわを寄せたウォルタが言った。
「魔法の腕は確かなんですけどね、彼女」
苦笑いを浮かべたフウが言った。
「ふーん、そうなんだ……って、それよりメシだ、メシ! フウ道案内頼んだ!」
フレイがフウに笑顔で言った。
「おっと、そうでした。早速、向かいましょう。二人共、ついてきて下さい!」
そう言ったフウを先頭に三人は歩き出した。
「いやぁ、うまかったなぁ、あのステーキ」
フウに紹介された店で食事を終え、通りを歩くフレイが、頬を両手で抑えながら言った。
「そう言っていただくと、紹介したかいがあるというものです」
フウが笑顔でそう返した。
「でも意外だったわね、フウの紹介する店だから、てっきり海鮮料理店かと。まさかステーキ店とは思わなかったわ」
ウォルタが言った。
「ああ、わたくし、普段自分で釣り上げた物を料理していのるので、基本的に自炊は海鮮系ばかりでして、外食はそれ以外のものにしているのですよ」
「なるほど。いくら釣り好きでも、毎日、海鮮系じゃ飽きるものね」
「ええ、お恥ずかしながらそんな所です」
ウォルタの言葉にフウは照れくさそうに答えた。
「なあ、フウ。また美味しい店見つけたら紹介してくれよ」
フレイが言った。
「ええ、よろしければ次は海鮮系の店を探しておきますよ。最も、釣り好きのわたくしの舌を唸らせる店があればの話ですが」
「フウが気に入る店だなんて、かなり基準が高そうだけど。それだけ期待できるわね」
「だな、楽しみにして……」
フレイがそう言いかけたとき、突如、目の前の十字路から一つの人影が飛び出して来て、フレイとぶつかった。
「……いてて、何だ一体?」
フレイは突き飛ばされて、その場に尻餅をついた。
「……悪かったな」
そう言って、フレイに手を差し伸べたのはグランだった。
「ああ、ありがとう……って、お前! さっき喫茶店で暴れていた奴!」
起き上がったフレイが言った。
「……お前、さっきの野次馬にいたのか」
グランが顔をしかめて言った。
「お久しぶりですね、グラン」
フウがグランに向けて手を降った。
「……フウか。で、何だそいつらは。見ない顔だが、ギルドの新入りか?」
グランが言った。
「違いますよ。こちらはギルド、ヴィネアのウォルタさんとフレイさんです」
フウがグランに二人を紹介した。
「ヴィネア? 聞いたことねぇな……まあいい。今忙しいんだ。じゃあな」
グランがそう言った次の瞬間、十字路に保安隊の怒号が響いた。
「くっそ、仕事熱心な奴らだ」
グランは保安隊に追われるように、その場から走り去った。
「忙しい人ね……ってフレイ、あなたの足元にあるもの」
ウォルタがフレイの足元を指差して言った。
「ん? ……これ、魔導石か?」
フレイは足元に落ちていた魔導石を拾い上げた。
「まさか、グランが落としたんじゃないのかしら。さっき衝突した拍子に」
「何だと? そりゃあ大変だ! 急いで追いかけて返さないと!」
フレイはそう言うと、魔導石を持って、グランの去った方向に駆け出した。
「ちょっとフレイ! この後の仕事どうすんのよ!」
ウォルタがフレイに向けて叫んだ。
「悪い! すぐ戻るから掲示板前で待っててくれ!」
そう言い残し、フレイは姿を消した。
「まったくもう。返すって、彼女の逃げた方向分かってるのかしら」
ウォルタがため息をついた。
「どうでしょう。でも案外、忙しい者同士、引き合うかもしれませんね」
フウが苦笑いでそう言った。




