魔女と風神祭2
そして、風神祭当日、様々な出店で賑わう街の通りをウォルタとフレイは歩いていた。
「うーん、マリーの店で買ったこのクレープって奴は中々いけるな」
手に持ったクレープを口にしながらフレイが言った。
「それにしても凄い人の数ね。ちょっと前に魔物の襲撃を受けたとは到底思えないわ」
辺りに目をやったウォルタが言った。
「そりゃあお祭りだもん。マリーが言っていたように、みんなちょっとでも明るさを取り戻したいんだよ、きっと」
フレイが笑顔でそう言った。
「ええ、そうね……ん? あれは……」
そう言ったウォルタは視線の先に一人の人影を捉えた。
「フウ、あなたも店を出していたのね」
「これはこれはお二方、ようこそウチの店へ」
ウォルタの声に出店の中のフウが笑顔で答えた。
「よう、フウ。ここは何の店なんだ? やけにいいにおいがするけど」
周囲のにおいに鼻を動かしたフレイが尋ねた。
「イカ焼きですよ。今日、水揚げされたばかりの新鮮ぴちぴちのイカを扱っています。おいしいですよ。おひとついかがでしょうか?」
フウは二人の前に出来立てのイカ焼きをかざした。
「うおっ、うまそう! よし、一つ頂戴!」
「フレイ、あんたさっきから食べてばかりじゃない。太っても知らないわよ」
ウォルタがフレイに釘を刺した。
「ハハハ、まあまあウォルタさん。祭と言ったら食べ物が付き物です。今日ぐらい多めに見てあげてはいかがです?」
二人の姿を見て笑顔を浮かべたフウが言った。
「そうそう、それにウチは祭に限らずいつも食べてばっかだからね」
そう言ってフレイはウォルタに笑顔を向けた。
「いや、それなんの説得にもなってないから……まあ、いいわ、フウの言葉に免じて今日だけは多めに見てあげる。フウ、私にも一つ頂けるかしら?」
「はい、毎度あり」
そう言って、フウは二人に出来立てのイカ焼きを二つ差し出した。
「何だ、ウォルタも食べたかったんじゃん」
フレイがにやついた顔をウォルタに向けた。
「べ、別にいいじゃない。今日はお祭りなんだから」
ウォルタは頬を赤らめた。
フウの出店のを後にした二人は、再び多くの出店が立ちならぶ通りを歩いていた。
「お、見ろよウォルタ、射的屋があるぞ」
フレイは出店の一つの射的屋を指差した。
「あら、ホントね……ってあそこにいるのは……」
「すごいです、お姉様。意外な才能発見ですね」
「ふふん、どんなもんよ! ……って意外は余計よ!」
ウォルタの視線の先には射的屋で遊ぶ、ウラとサラの姿があった。
「ウラ、サラ、お前たちも来てたのか」
二人に近づいたフレイが言った。
「あら、ウォルタとフレイじゃない、奇遇ね」
「どうも、お二人共」
ウラとサラが言った。
「射的やってるのか?」
フレイが尋ねた。
「ええ、そうよ……そうだ、ここで会ったのも何かの縁。私と射的で勝負していかない? いつかの猫探しの決着もついてないことだし、ここらで白黒はっきりつけるってことで」
ウラが得意げに言った。
「いいよ! ……っと、けど射的をやるのはウチじゃなくウォルタだ。いいか?」
フレイが何か思いついたように言った。
「いいわよ。誰が来ようと私の敵じゃないわ!」
「よし、決まり! ウォルタ、頼んだ!」
「……何で私が、まあいいけど」
ウォルタは渋々了承した。
「ちょっと、姉さん。ホントにウォルタさんと勝負するつもりですか? やめといたほうが……」
サラがウラに言った。
「何よ、今の私は誰にも負ける気がしないわ。誰が相手だろうと、軽くひねってやるわよ」
ウラは自信満々にそう言った。
「勝負はそうね……あの一番奥にある、小さいぬいぐるみを先に撃ち倒した方の勝ちってことでどう?」
ウラがウォルタに言った。
「いいわよ」
ウォルタは承諾した。
「先行はそちらに譲るわ。精々頑張ることね」
「……分かったわ」
ウラの言葉に返事をしたウォルタは早速、銃を構えると、ぬいぐるみに狙いをつけて引き金を引いた。そして、ぬいぐるみは一発で撃ち倒された。
「えっ……」
ウラはその光景に口をあんぐりと開けた。
「だからやめといた方がいいと言いましたのに。銃使いであるウォルタさんに射的で勝負を挑んでも、結果は見えてますよ」
サラがウラの肩に手を置いて言った。
「……すっかり忘れてたわ」
ウラはその場に崩れ落ちた。
「……ま、あっけないけど、これで白黒着いたわね。景品のぬいぐるみは……フレイにあげるわ」
ウォルタは店主から受け取ったぬいぐるみをフレイに差し出した。
「お、サンキュー、ウォルタ」
「……うぅ、次こそは負けないわ。今度会ったら覚えておきなさい! ……行くわよサラ」
「あっ、ちょっと姉様! ……まったくもう。お二人共お気を悪くしないで下さいね。それじゃあ」
そう言い残し、ウラとサラの二人は去って行った。
それから数分後、ウォルタとフレイの二人は、街の広場にやって来ていた。広場に設置された巨大なステージの上では踊り子達が、音楽隊の演奏と共にショーを行っていた。。
「いやぁ、気分の上がる音楽だなぁ。ウチも踊りたくなってきたよ」
ステージを見上げるフレイが言った。
「ちょっと、ステージに乱入したりしないでよね」
ウォルタが顔をしかめて言った。
「流石のウチもそんなことしないよ。ステージの邪魔しちゃ悪いしね」
フレイは笑顔でそう言った。
「ならいいけ……」
ウォルタがそう言いかけた時、突如、広場全体の地面が大きく揺れた。
「うわっ! 何だ!」
フレイが倒れかけた身を起こして言った。
「何よこの揺れ……ってあれ!」
そう言ったウォルタの視線の先には、ステージもろとも地面を壊して現れた、巨大なクモの姿をした魔物の姿があった。突如、現れた魔物に驚いた人々は逃げ惑い、あるいはその場で腰を抜かし座り込み、辺りは混乱に陥った。
「魔物だと⁉ こんな街中になんで」
フレイが魔物を見て言った。
「……おそらく、以前の襲撃でニールが街に入れた魔物が残っていたのね。とにかく、みんなを避難させな きゃ。フレイ! 魔物を引き付けておいてくれる?」
「ああ、分かった!」
そう言うとフレイはステージ近くの魔物へと近寄り、身構えた。
「随分とでかい図体してるけど、ウチの魔法剣の敵じゃないね」
そう言ってフレイは腰の魔法剣を手に取ろうとしたが、そこに魔法剣は存在しなかった。
「……しまったぁ! 今日は仕事じゃないから魔法剣持って来てなかったんだ!」
そう嘆くフレイに、魔物は口から吐き出した岩石の塊を放った。
「うわっと、危ない! ……くそぅ、こうなったらこれしかない」
そう言うとフレイは右手のひらに魔力を集中させ、火の玉を生み出すと、それを魔物目掛けて放った。しかし、火の玉は魔物に命中したものの、大した傷を負わせることは叶わなかった。
「ちくしょう、くらえ! くらえ!」
フレイは火の玉を放ち続けたが、魔物はそれを物ともせず、再び岩石の塊を放ってきた。
そして、フレイはそれを何とかかわした。
「ありがとう、フレイ。おかげで皆の避難は済んだ……って大丈夫?!」
ウォルタは魔力を消耗し、肩で息をするフレイに近寄った。
「ぜぇ、はぁ。……やっぱり魔導具じゃなきゃ効かないのか」
「魔導具? ……そう言えば持って来てなかったわね。どうしましょう……」
「……とにかく今は魔法をぶつけるしかない。こいつで押し切ってやる!」
そう言ってフレイが再び右手のひらに火の玉を生み出した次の瞬間、突然、広場にとてつもない強風が吹き荒れた。
「うわっ! 今度は何だよ!」
フレイは体に当たる強風を左腕で防いだ。
「何よ、この風……ってフレイ! あなたの手のひら!」
ウォルタはフレイの手のひらを指差して叫んだ。
「え? ……わっ! なんだこれ⁉」
フレイが自らの手のひらを見ると、生み出した火の玉の周りを風が包み込み、その風は火の玉をより巨大な炎へと変えた。
「この炎……この風のせいなのか?」
手のひらの炎を見つめてフレイは言った。
「……よくわからないけど、それだけ巨大な炎なら魔物を倒せるんじゃないかしら?」
「ああ、そうだね。よし!」
フレイは再び魔物が放った岩石の塊をかわすと、魔物目掛けて手のひらから巨大な炎を放った。そして、その炎は魔物へと命中し、その体に燃え広がると、魔物は光の粒子となって消えた。
「……やった……やったぞ!」
魔物の消滅を確認してフレイはガッツポーズをした。
「よくやったわね、フレイ」
「ああ……でも何だったんだろうさっきの風は?」
フレイは右手のひらを見つめながら首を傾げた。
「風ねぇ……もしかしたら、風神のおかげかも」
ウォルタが空を見上げながら言った。
「風神? 風神祭の風神のことか?」
「そうよ、祭に訪れた風神があなたに魔物を倒す力を与えてくれた……なんてね」
「……いや、きっとそうだよ。おーい! ありがとうなぁ!」
フレイは空に向けてそう叫んだ。そして、二人が魔物を倒したのを確認して、先程、ステージ上でショーを行っていた音楽隊と踊り子たちが広場に戻って来た。
「あ、ありがとうごうございます。その、もう魔物はいないんですよね?」
踊り子の一人が二人に尋ねた。
「ええ、もう大丈夫よ」
ウォルタが答えた。
「それなら……」
踊り子は音楽隊と他の踊り子にアイコンタクトを取って頷きあうと、広場の中心に移動し、再びショーを始めた。そしてしばらくすると、広場には再び人々が集まりだし、先程の盛り上がりを取り戻したのだった。
「やっぱり、気分の上がる音楽だ! よし! ウチも踊って来る!」
「それはやめて」
「あうぅ……」
ウォルタに腕をつかまれ制されたフレイは肩を落とした。
広場には心地よい風が吹いた。




