魔女と風神祭1
「フレイ、ちょっとそこの木材取ってくれる?」
「おう、これか」
「ありがと」
この日ウォルタとフレイは仕事を休み、以前の魔物の襲撃によって、被害を負った自宅の修復作業を行っていた。
「しかし、よくやるよな、ウォルタも。家直すのなんて業者に頼めばいいのにさ」
共に作業を手伝うフレイが言った。
「しょうがないでしょ、全部直すとなると、費用が馬鹿にならないんだから。自分で治せる範囲は直しとかないと。それに、あの襲撃以来、どこもの建物もボロボロで業者だって引っ張りだこなんだから」
金槌を握ったウォルタが言った。
「襲撃ねぇ。そうだ、襲撃と言えばさ、今朝言ってた、ニールのこと本当なのかよ?」
ふと思いついたようにフレイが尋ねた。
「ええ、間違いないでしょうね。私も始め聞いた時は驚いたけど……」
それは、昨日の事だった。
「記憶がない?」
都市と連携を取る魔女部隊から、ニールのその後を聞いたウォルタは目を丸くして驚いた。
「ええ、検査の結果、彼女は今回の襲撃の事はおろか、ここ数年のこともまったく覚えていないとのことでした。おそらくですが、何者かの魔法によって数年の間、洗脳を施されていたと考えられます」
魔女部隊の一人が答えた。
「そんな……それじゃあ彼女も被害者だったてこと? ……彼女と、ニールと話はさせてもらえないかしら?」
「申し訳ございません。記憶がないとはいえ、彼女は今回の事件の重要参考人に違いはありません。しばらくはこちらで身柄を預からせてもらうため、面会はもうしばらくお待ちいただけますでしょうか」
「……そう、分かったわ」
ウォルタはそう言って魔女部隊と別れた。
「知らなかったよ、まさか人間を洗脳する魔法があったなんて」
フレイが言った。
「私も初めて聞いたわ、そんな恐ろしい魔法があるとは」
金槌を打つ手を止めたウォルタが言った。
「……そうとは知らずに、ウチ、ニールにひどいことしちゃったかな」
フレイは顔を俯かせた。
「そんなことはないわ。洗脳されていたとはいえ、彼女がしてきた事は止めなければならなかったことだもの。私たちのやったことは間違いじゃなかったはずよ」
ウォルタは俯くフレイの方を見て言った。
「……そ、そうだよな。へへっ、そう言ってもらえると気が楽だよ」
フレイは再び笑顔を取り戻した。
「それより、許せないのはニールを洗脳し、操って悪事を行わせていた、彼女の裏にいるであろう存在の方よ。ニールの言葉通りなら、その存在は世界の支配が目的なのだろうけど」
ウォルタは自らの顎に手をやりながら思考を巡らせた。
「それと、彼女の行っていた、魔女の始祖が世界の支配を企てていたって話も気になるし……」
「な、なあウォルタ!」
一人考え込むウォルタにフレイが声を掛けた。
「なんか自分でもよく分からないんだけどさ、なんて言うかどうも話の規模がおおきすぎて……ウチらの手には負えないような気がするんだけど」
苦笑いを浮かべたフレイが言った。
「もちろん、ニールを洗脳していた奴のことは許せないと思うけどさ、なんかこの問題、ウチらで、どうこうできるものなのかなって」
「……そうね、あなたの言う通り、この問題は、私たち一魔女ではなく、魔女部隊の受け持ちだわ。私が深く考えたってどうしようもないわね」
そう言うとウォルタは肩の力を抜いた。
「まあ、色々と気になることはあるけれど、それはニールとの面会まではお預けね」
そう納得したウォルタが再び金槌を握る手を動かそうとした時、目の前に一つの人影が現れた。
「マリーじゃない。何か用かしら」
「ごきげんよう、ウォルタ、フレイ。用って程じゃないんだけど、これ」
そう言うとマリーはウォルタに一枚の紙を差し出した。
「……ああ、風神祭の出店の宣伝ね、わざわざご苦労様」
そう言ってウォルタが受け取った紙をフレイが覗き込んだ。
「風神祭? なんだそれは?」
「この都市では、古くからこの時期になると風の神様、風神が訪れるとされていてね。その神様の来訪をお祝いして、お祭りを催すことになっているのよ」
フレイの疑問にマリーが答えた。
「へぇ、お祭りか! 楽しそうじゃん!」
フレイが目を輝かせた。
「でも、まさか街がこんな状態なのに風神祭を行うなんて、ちょっと驚きね」
ウォルタがマリーから受け取った紙に目をやりながら言った。
「こんな時だからこそってのもあるかもしれないわ。魔物の襲撃で建物だけでなく、人々も心に傷を負ってしまった。だからこの風神祭で暗くなってしまった街の雰囲気を少しでも明るくできたらいいんじゃないかしら」
マリーが笑顔でそう言った。
「それもそうね、マリー、当日、出店によらせてもらうわ。ご馳走用意して待っていなさい」
「ウチも、楽しみにしてるよ!」
二人はマリーに言った。
「ふふ、ありがとう二人共。それじゃあ、当日よろしくお願いね」
そう言うとマリーは去って行った。
「お祭りなんて久しぶりだ、いやぁ楽しみだなぁ」
「楽しみにするのはいいけど、家の修復も忘れないでよね」
「はいはい、分かってるって」
二人は再び作業に取り掛かった。




