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魔女と決戦3

「ニール!」


広場にたどり着きそう叫んだウォルタの目の前には、ベンチに腰を掛けたニールの姿があった。


「……やっとですか、待ちくたびれましたよ」


そう言うとニールはベンチから腰を上げた。


「……ニール、これがあなたの言っていた大いなる計画なの?」


ボロボロに倒壊した辺りの建物を指さしてウォルタが言った。


「……まあ、これもその一部と言っていいでしょう」


ニールは涼しい顔でそう答えた。


「……一部だと? まだこんな事続けるつもりかよ! ふざけんな!」


フレイは奥歯を噛み締めた。


「話しなさい、ニール。あなたの目的はなに?」


ウォルタがニールに一歩近寄った。


「……何ってそりゃあ、世界の支配ですよ」


ニールは口元に笑みを浮かべた。


「……お二人はご存知ですか、魔女の始祖がかつて、この世界の支配を目論んでいたことを」


ニールは二人に尋ねた。


「魔女の始祖? 世界の支配ですって?」


ウォルタは眉をひそめた。


「……やはり、ご存知ないですか。あなた方魔女の始祖、この世で初めて魔力を手にした女性はその力を使って全人類の支配を企てていたのです」


「魔女が人類の支配だと? 嘘言ってんじゃねえ!」


眉間にしわを寄せたフレイが言った。


「……本当ですよ。まあ、信じる信じないは個人の自由ですが。話を戻しましょう。しかしながらその魔女の始祖の企てた世界の支配の計画は実行されずに終わりました。その理由は、至ってシンプル、彼女の持つ力が世界を支配するに至らない矮小な物だったからです」


ニールは話しを続けた。


「……ならば、その計画を実現する為の改善策とは何か、その答えも至ってシンプル、魔女の持つ魔力より強大な力を手に入れることです。そう、私と言う名のね」


そう言うと、ニールはどこからともなく一本の剣を取り出した。


「……お見せしましょう、幾度もの実験の上、遂に完成したあのお方の新たな力、“鬼女”の力を!」


その言葉と共にニールは手に握った剣を自身の胸に突き刺した。


「嘘?! 自分に剣を⁉」


「何してんだお前⁉」


ウォルタとフレイは目を丸くして驚いた。すると、ニールの胸に刺さった剣は突如光の粒子となって消えた。そして、ニールは自身の体を震わせると、背中から対の漆黒の翼を、両腕からは獣の様な体毛と爪を、両脚からは巨大な鳥のかぎ爪を出現させ、人間とはかけ離れた姿へと変貌した。


「……これこそが魔女を上回る新たな力を持つ存在、その姿です!」


ニールは血管の浮き出た顔面に笑みを浮かべた


「……なるほど、今まで魔物に魔女からの盗った剣を突き刺して、新たな力を付与させていたのは、その力を得る為だったて訳」


「どういう意味だ?」


ウォルタの言葉にフレイが疑問を呈した。


「彼女は今まで、魔物に魔女の力与える実験、つまり異なる者に異なる力を与える実験をしていた。そして、今、彼女が行ったのはおそらくそれらの応用、人間に魔物の力を与えたのよ」


ウォルタが答えた。


「……流石、ウォルタさん、正解です。私が先程、手にしていたのは魔物のエネルギーをため込んだ特殊な剣。それを体に突き刺すことで私は魔物の力を取り込み、人とは異なる存在、鬼女となったのです」


ニールは背中の翼をはためかせ、空へと浮き上がった。

「私の実験体を何匹と葬ったあなた方二人の力は確かなものです。だからこそ、その力を私の実験の集大成であるこの力でねじ伏せることで、この力の証明とさせて頂きましょう!」


そう言うとニールは空から急降下し、ウォルタ目掛けて突進を繰り出した。ウォルタは間一髪、その突進を回避した。


「くっ、やるしかないってこと!」


ウォルタは手に持った銃を再び空中に戻ったニールに向けて構えた。しかし、ウォルタは引き金を引くことはできず、再び繰り出されたニールの突進をかわした。


「ウォルタ! 大丈夫か!」


フレイがウォルタのそばに駆け寄った。


「大丈夫じゃないでしょう、魔導具を構えても私に反撃することができないのですから」


空中に戻ったニールが言った。


「どういう意味だ!」


フレイが尋ねた。


「いくら私が魔物の力を取り込んだ存在になったとは言え、元々は人間。魔導具で人間を傷つけることができないあなたは、私に対して攻撃する事ができない。甘いですね、そんなこと言ってたら死んじゃいますよ」


ニールは二人に笑顔を向けた。


「野郎、ならウチが!」


そう言うとフレイはバッグから魔導石を取り出し、自らの握る魔法剣にスキャンした。


『ウェイブ』


魔導石から音声が鳴り、剣が斬撃発射可能になった。そして、フレイは空中のニールに向けて斬撃を放とうと剣を構えたのだが、フレイは剣を構えた腕を動かすことが出来なかった。


「フレイ?」


ウォルタが尋ねた。


「悪い、ウォルタ、ウチもダメだ。あいつは街を無茶苦茶にした許せない悪党だ……だけど、あいつは人間なんだ、人間は斬れねぇ」


そう言うとフレイは力なく剣を下した。


「……フフッ……フハハハハハ! 二人そろって情けないですねぇ、物足りないけどもういいです、仲良くお死になさい!」


そう言うとニールは再び急降下し、フレイに向けて突進を仕掛けた。


「フレイ!」


ウォルタはそう言うとフレイの腕を掴み、自らの方に引き寄せ、ニールの突進をかわさせた。


「……ちっ、ちょこまかと」


再び空中に戻ったニールがつぶやいた。


「す、すまない、ウォルタ」


体を起こしながら謝罪するフレイの肩をウォルタが掴んだ。


「何て顔してんのよ、あなた、まさかもう諦めた訳じゃないでしょうね!」


ウォルタはフレイの目をまっすぐ見て言った。


「私達はどんな困難な状況も二人の力で乗り越えてきたじゃない! 今回だってそれは同じはずよ!」


「分かってるけど、あいつには攻撃ができないんだ。どうすればいいんだ、ウォルタ」


「攻撃できないのは人間である彼女でしょ。だったら魔物である彼女なら攻撃できるはずよ」


「それって、まさか……」


「そう、翼よ。彼女の体から出現したあの翼、あそこには目に見えるほどの邪悪なオーラが確認できる、おそらくあの翼が彼女の力の塊そのもの。あれを破壊すれば彼女を無力化できるはずよ」


「……なるほど、分かった!」


そう言うと二人は各々の魔導具を構えて立ち上がった。


「作戦会議は終了? じゃあ、続きと行きましょうか!」


ウォルタはニールが繰り出した突進をかわすと、二つの魔導石をバッグから取り出し、魔法銃にスキャンした。


『ラピッド』


『デュアル』


魔導石から音声が鳴り、二丁のガトリング型の銃が出現した。ウォルタはそれらをニールに向けて構えると、彼女の翼目掛けて引き金を引いた。しかし、放たれた銃弾は彼女の華麗な身のこなしによって、かわされた。


「ほう、やる気になりましたか。そうこなければ!」


そう言って、笑みを浮かべたニールに、別角度から炎の斬撃が襲い掛かかった。フレイが放った斬撃だ。斬撃は左の翼をかすめた。


「狙いは、翼か……面白い!」


ニールは急降下による突進を、ウォルタとフレイは翼を狙う攻防が幾度となく繰り返された。


「……動きが早すぎる、一瞬でも彼女の動きを止める必要があるわね」


ニールの攻撃をかわしながらウォルタが言った。


「どうするんだ?」


同じく攻撃をかわすフレイが尋ねた。


「私に考えがあるわ。こいつの出番よ!」


そう言うとウォルタは背中に背負っていた、カンカからの餞別である魔法砲を構えた。


「何だ、あの馬鹿でかい魔法銃は?」


空中に戻ったニールが呟いた。


「ウォルタ、そいつって確か、弾速が……」


「分かってるわ! フレイ耳を貸して!」


ウォルタはフレイの言葉を遮り、耳打ちをした。


「……分かった、あそこに誘い込めばいいんだな」


「頼むわよ!」


フレイはウォルタの言葉に頷くと、剣を構え空のニールに対して炎の斬撃を連続して放った。


「ふん、そんな攻撃、何度やっても当たりませんよ」


ニールはフレイの放った斬撃をことごとくかわした。


「これならどうだ!」


フレイは再び斬撃を放った。


「……だから、当たらないと……」


「ウォルタ! 今だ!」


ニールの言葉を遮るようにフレイはウォルタに合図をした。そして、ウォルタは魔法砲をニールに向けて構え、その引き金に指を掛けた。


「食らいなさい!」


引き金が引かれた魔法砲からニールに向かって、巨大な魔法弾が放たれた。しかし、ニールはこれも軽々とかわした。


「そんな遅い弾、私がよけられないとでも?」


ニールが口元に笑みを浮かべた。


「いいえ、よけてくれてありがとう」


ウォルタが対抗するように口元に笑みを浮かべた。


「何を…」


ニールがそう言いかけた、次の瞬間、彼女の背後にあった時計塔に、よけた魔法砲の弾が当たり、その時計塔は木端微塵にはじけ飛んだ。


「なっ⁉」


ニールは何とかその飛来して来た時計塔の破片を左の翼でガードした。しかし、そのせいで、彼女の動きは空中で一瞬止まることになった。


「今よ! フレイ!」


「ああ!」


ウォルタの言葉に答えたフレイは、ニールに向けて炎の斬撃を放った。そして、放たれた斬撃はニールの注意がそがれ、フリーになった右の翼に命中し、これを切り裂いた。


「しまった!」


片翼を失ったニールはバランスを崩し、地上へと落下した。


「……やっと、下りてきたわね。こうなれば私達の勝ちも同然よ」


そう言うとウォルタは銃の照準をニールの翼に合わせた。


「くっ! まだまだ!」


ウォルタが引き金を引こうとした次の瞬間、ニールは両手から巨大な漆黒の火の玉をウォルタ目掛けて繰り出した。


「そいつで焼き消えろ!」


しかし、ニールの叫びもむなしく、放った火の玉は一閃の斬撃によって、切り裂かれ消滅した。それはフレイの振り下ろした剣によるものだった。


「そんな攻撃効かないよ」


ウォルタの隣に立ったフレイが言った。


「……くそ、何なんだ……何なんだお前らは……何なんだその力は!」


地面から立ち上がったニールが眼前の二人に言った。


「これが魔女の力よ。一人では小さな物かも知れないけど、他の誰かと手を取り合うことで、その力を何倍もの大きさにできる。この力で私達は幾度も魔物を退けて来た。今更、あなたがその魔物の力を手にした所で、たかが知れているわ」


そう言うとウォルタは再びニールに向けて銃を構えた。


「認めるか、そんな力……」


「ええ、認めさせてあげるわ、この一撃で!」


ニールの言葉を遮り、ウォルタは魔法銃の引き金を引いた。放たれた銃弾はニールの残りの片翼を打ち抜いた。


「馬鹿な、私が……最高の実験成果である私が……負ける?」


そう言い残すとニールはその場に倒れ込んだ、そして、その翼は、まとっていた邪悪なオーラと共に消滅し、彼女の体は元の人間の状態へと戻った。


「……やった……勝ったんだなウチら」


決戦を終え、肩の力を抜いたフレイが言った。


「ええ、でもまだ仕事は終わってないわ、街と神殿前の魔物がまだ残っているもの……でもまあ、取り敢えず……」


そう言うとウォルタはフレイに向けて右拳を突き出した。


「……ああ」


フレイもウォルタに向けて同じく右拳を突き出した。


「お疲れ様、フレイ」


「お疲れ、ウォルタ」


二人は互いの拳を打ち付けた。





そして、二人と魔女達の活躍により、戦いは終結した。結果としてクリア神殿は無事守り切ることができ、都市も建物のへの被害は出たものの、奇跡的に死者はゼロに抑えることができた。そして、ニールの身柄は都市と連携を取る、魔女部隊に引き渡された。


こうして、激しい戦いは幕を閉じたように思えたのだが。


「ありゃりゃ、ニールの奴、負けちまったよ。やっぱダメだね、“入れ物”じゃ」


「……そうね、でも、いいデータ収集にはなったわ」


そう言って、都市を見下ろす、二人の少女の姿が高台にあった。

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