魔女と休日2
「……いやぁ、映画って最高だな!」
上映終了後、館内を出たフレイが涙で赤くなった目をこすりながら言った。
「そ、そうね……誰かさんのおかげで、ほとんど内容が入って来なかったけど」
ウォルタが小声でつぶやいた。
「ん、何か言ったか」
フレイがきょとんとした顔で尋ねた。
「別になんでもないわ。それより、次はどこに行くつもりなの?」
「うーん、特に考えてなかったけど……腹が減ったし、昼飯にするか!」
「アバウトね……まあ、ちょうどお昼時だしいいんじゃない。店のあてはあるの?」
「そうだな、よし! あの店にしよう、最近見つけた、とっておきの場所だ。きっとウォルタも気に入るよ!」
フレイが笑顔でそう言った。
「私が気にいる場所? 面白そうじゃない、行ってみましょう」
「おう!」
こうして数分後、二人はある店のテーブルに着いていた。
「いやぁ、ここのカレーはうまいなぁ! 食堂のカレーに勝るとも劣らない味だ! ……あっ、店員さん、ライスおかわり!」
幸せそうにカレーを頬張る、フレイが言った。
「……なによこの店、カレーしかないじゃない」
メニューから顔を上げた、ウォルタが眉をひそめながら言った。
「そりゃあ、カレー屋さんだからね」
ライスのおかわりを受け取ったフレイが答えた。
「あなた、さっき私も気に入るとかなんとか言ってたじゃない。私、カレーは好きでも嫌いでもないんだけど」
「えっ、そうなのか! カレーはみんな大好きだから、ウォルタも気に入ると思ったのに」
フレイは目を丸くして驚いた。
「視野が狭すぎよ! 誰もがみんな、カレーが好きな訳じゃないわ!」
ウォルタがフレイに詰め寄った。
「うう、知らなかった、ごめん……」
フレイはがくっと肩を落とした。
「……ま、まあ、たまにはカレーもいいかも知れないわね。店員さん、チキンカレーひとつお願い」
ウォルタはため息混じりにそう言った。
「ウォルタぁ!」
フレイの顔に笑顔が戻った。
「まったく、世話が焼けるんだから」
ウォルタがフレイに笑顔を向けた。
「へへ、よし! ウチもおかわり!」
「食べすぎ、太るわよ」
ウォルタはフレイに釘を刺した。
「あのさぁ、ウォルタってどうしてギルドを作ったんだ?」
食事を終え、近くの公園のベンチに腰掛けたフレイが尋ねた。
「何よ、突然」
隣に座ったウォルタが眉をひそめた。
「いや、聞いたことなかったからさ、ウォルタがギルドを作った理由」
「……別に大した理由はないけど、多分、姉の影響だと思うわ」
「姉? 姉ちゃんがいるのか?」
「ええ、私の姉も魔女なのよ。姉は幼い頃から魔女に憧れていてね、私にもよく魔女の話をしてくれたの。魔法で人々を助けるヒーロー、それが魔女だって耳にタコができる程聞かされたわ」
ウォルタ笑顔を浮かべながら話を続けた。
「それでかしら、私が魔法を使えるようになった日に、散々聞かされた姉の言葉が蘇ってね。私が手にした魔法は誰かのための力だって、そう思ったら、じっとしていられなくて、気づいたら都市に出てギルドを作っていたわ」
ウォルタは開いた両手を見つめながら言った。
「……誰かのための力か。なんかいいなそれ! それで、その姉ちゃんは今どうしてるんだ?」
フレイが尋ねた。
「さあね、私と同じく魔女に覚醒したらすぐに家を飛び出して、それっきりよ。なんせ、私なんかよりずっと魔女に憧れていたからね。とはいえ、親からすれば姉妹そろって親不孝な娘達よね」
ウォルタはそう言って苦笑いを浮かべた。
「そうなのか……でもそんな姉ちゃんなら、きっとどこかでギルドを作って元気にやってるんじゃないか?」
「かもね。そう言えば、聞いたことないと言えば、フレイ、あなたの故郷ってどこなのかしら?」
ウォルタはふと思いついたようにフレイに尋ねた。
「あれ? 言ってなかったけ。ウチはさ、海の向こうの小さな島から来たんだ」
フレイが空を見上げながら答えた。
「海の向こう? あなたそんなところから来たの?」
「ああ、ここの都市みたいに便利な物は何にもなかったけど、自然がいっぱいでさ。だけど魔物なんかいなくて、平和な所だったよ」
「そうだったの。海の向こうね……私は生まれも育ちもこの大陸だから、海になんか出たこともないわ」
「そうなのか。ウチはよく船で隣の島なんかに行ったことがあるけど、ウチの故郷とも、この大陸とも違う雰囲気の場所がいっぱいでさ、面白かったよ!」
「そう。機会があれば行ってみたいわね、フレイの故郷や、その海の向こうの島々に」
「あ、あのさ、ウォルタ、その時はさ……」
「分かってるわ、一緒に、でしょ」
「へへ、ああ!」
「さぁ、食休みはこれぐらいにして、次に行きましょう」
そう言うと、ウォルタはベンチから立ち上がった。
「ああ……って次ってどこ行くんだ?」
同じくベンチから立ち上がったフレイが言った。
「……やっぱり考えていなかったのね」
ウォルタはため息をついた。
「あははは……ごめん」
フレイは頭をかきながら謝罪した。
「まあいいわ、どこも当てがないのなら、せっかくの機会だし、私のとっておき場所に連れてってあげるわ」
「ウォルタのとっておきの場所? どこなんだそれ?」
「それは着いてからのお楽しみよ。まあ、いいから着いて来なさい、ここからだとちょっと遠いけど」
そうして公園を離れた二人はしばらく歩いた後、とある高台へとやって来た。
「ウォルタぁ、まだなのかよ」
ウォルタの後ろを歩く、フレイが両手で膝を抑えながら言った。
「もう着いたわよ。ほら見てみなさい」
そう言うウォルタに促されて顔を上げたフレイの眼下には、夕日の光に紅く照らされた、街の姿が広がっていた。
「す、すげぇなんだこれ!」
フレイは目を丸くして驚いた。
「ね、綺麗でしょ」
ウォルタも夕日に照らされた街を見下ろしながら言った。
「ああ、知らなかったこんな場所があったなんて……」
「ふふ。ここはね、私が一人でギルドを始めたばかりの頃、よく来ていた場所なの。仕事で失敗をして、心が折れそうになった時も、ここの景色を見れば、また明日も頑張ろうって気になれたの」
「へぇ、そうなのか。この景色がいつもウォルタを支えてくれてたんだな」
「そうよ……今のあなたと一緒でね」
ウォルタはぽつりと呟いた。
「ん、なんか言ったか?」
「別に、なんでもないわ。さて、もう遅いし、帰って夕食の準備をしましょう。今日のメニューは焼きそばよ!」
「やったぁ! ウォルタの作る焼きそばは絶品だからな。楽しみだ!」
こうして二人は、夕焼けの中、帰路に就いた。
「はい、おまちどおさま。ウォルタ特製焼きそばの完成よ」
フレイの目の前のテーブルに湯気の立ち込めた焼きそばが置かれた。
「うまそおぅ! じゃ、早速、いただきまぁ……」
そう言って焼きそばに箸を伸ばしたフレイをウォルタが制した。
「待って、たまには乾杯でもしない。飲み物はオレンジジュースだけど」
そう言うと、ウォルタはフレイと自分のコップにジュースを注いだ。
「いいね! やろやろ!」
そうしてウォルタとフレイは各々コップを手に取った。
「では、ギルド、ヴィネアの益々の活躍を願って、乾杯!」
「乾杯!」
二人は手にしたコップを打ち鳴らした。




