魔女と休日1
「お休み?」
この日の朝、起床したばかりのフレイが、あくびをしながら言った。
「ええ、そうお休みよ。ここの所毎日、仕事だったでしょ。だから、今日一日は思い切って休日にすることにしたの」
朝食の準備をするウォルタが答えた、
「なるほど、お休みか……」
フレイは寝ぼけまなこをしばたかせながら、つぶやいた。
「さぁ、朝食の用意できたわよ。とっとと食べて、休みを満喫しましょう!」
ウォルタがテーブルの料理を手でさして言った。
「お、おう! いただきまぁす!」
席に着いたフレイは体の前で両手を合わせると、目玉焼きにかじりついた。
朝食後、ウォルタは居間の椅子に座り、読書をしていた。しかし、どうにも字を追うのに集中できないのは、先ほどからその近くを、フレイが行ったり来たりとウロウロしているからだ。
「……あの、フレイ、ちょっといいかしら?」
ウォルタが手元の本から目を離して、フレイに尋ねた。
「うん? なんだウォルタ?」
立ち止まったフレイがウォルタの方を振り向いて言った。
「単刀直入に聞くけど、あなた、さっきからなにやっているの?」
ウォルタが顔に冷や汗を浮かべながら言った。
「え、ああ、ちょっと考え事をしてたんだよ。今日一日何しようかなぁって」
フレイが頭をかきながら答えた。
「はぁ、そう……」
ウォルタが口をあんぐりと開けて言った。
「いやぁ、なんか仕事があるのが普通だったから、いきなり一日休みとなると、何したらいいかわかんなくなっちゃって、ハハハ」
「……そういうものかしら。別に深く考えることないわよ。自分のやりたいことをすればいいだけよ」
「やりたいこと?」
「そうよ、やりたいこと。何かないの?」
「……あるにはあるけど」
「何よ?」
「……ウチ、ウォルタと一緒にどこかに出かけたい!」
「却下」
ウォルタの即答に、フレイは膝から崩れ落ちた。
「なんでだよぉ! 一緒にどこか行こうよぉ、ウォルタぁ!」
フレイはウォルタの座る椅子に手をかけて、泣きついた。
「いやよ。私は、今日一日、買い込んだ本を読むってことに決めてるんだから。それに、休日は外に出かけず、家でゆっくり過ごすのが、私の信条だもの」
ウォルタは涼しい顔でフレイにそう告げた。
「なんだよそれぇ、つまんないの」
フレイが口を尖らせて言った。
「つまる、つまらないは人の勝手でしょ。だいたい、出かけるってどこに行くのよ」
「うーん……そうだ! 映画館なんてどうだ!」
「映画館?」
フレイの言葉にウォルタの心が揺らいだ。
「そう、映画館。最近、街にできたっていうやつだよ。ウォルタも行ってみたいって言ってたじゃん!」
「……映画館ねぇ」
「いいじゃん、ウォルタ、行こうよ!」
フレイがウォルタに詰め寄った。
「……まったく、あなたといるとゆっくり読書もできないのね。ほら、とっとと支度するわよ」
ウォルタは椅子から立ち上がると、背伸びをした。
「やったぁ! ありがとう、ウォルタ!」
フレイは笑顔で礼を言った。こうして、フレイに説得されたウォルタは、フレイと共に家を出発したのだった。
「……すごい、行列ね」
街の映画館に到着したウォルタは入口にできた長蛇の列を見て驚いた。
「へぇ、すごいな。そんなに人気なのか、映画ってのは」
同じく行列に驚いたフレイが言った。
「……フレイ、あなた、映画ってなにか知ってるの?」
ウォルタがフレイに尋ねた。
「いや、知らん」
フレイはきっぱりと答えた。
「やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。いい、映画っていうのは劇場に設置されたスクリーンに写真を連続して映し出すことで、あたかも写真の中の物や人物が動いているように見せるものなのよ」
「スクリーン? よくわからんが、写真が動くのか?」
フレイは首を傾げた。
「ま、百聞は一見に如かず。見てみれば分かるわ。実際、私も本物を見るのは初めてだし」
ウォルタがそう言った後に、二人は行列の最後尾に移動した。そして、数分後、ウォルタ達は、劇場内に入った。
「いやぁ、いよいよだなウォルタ!」
席に着いたフレイが上映を待ちきれんばかりに体を震わせた。
「そうね、長く待たされた分、しっかりと元は取らせてもらうわ」
ウォルタは長時間の行列で疲れた脚をさすりながら、席に着いた。そして、しばらくして上映が始まったのだが。
「おい! ウォルタ、見ろよ! 写真の中の人が動いてるよ!」
感動のあまり席から立ち上がったフレイがスクリーンを指さして言った。
「だからそう言ったでしょ! ていうか、座りなさい! 後、大きい声出さないの! 他の人の迷惑でしょ!」
ウォルタはフレイを制しながら、周囲の客に頭を下げた。そして、映画も終盤に差し掛かったころ。
「……うっ、ぐすっ、ううう、ぐずずず」
映画の内容に心を打たれたフレイはその顔を涙と鼻水で濡らしていた。
「……ちょっと、フレイ、汚いしうるさいから鼻水すするのやめなさい。これで、かんで」
ウォルタ小声でそう言うと、フレイにちり紙を差し出した。
「……ご、ごめん、ぐずっ、ありがとう……ぎゅるるる!」
フレイの勢いよく鼻をかむ音が劇場内に鳴り響いた。
「……ごめん。やっぱうるさいからかまないで」
ウォルタは頭を抑えながら、フレイからちり紙を取り上げた。




