魔女と秘密の特訓1
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
ウォルタの自宅の玄関の、ドアノブに手を掛けたフレイが言った。
「ええ、行ってらっしゃい……ってフレイ。あんた、ここんところ、この時間になると、出掛けるけど、どこ行ってんの?」
椅子に腰かけながら、読書をしていたウォルタが、手元の本から目を離して尋ねた。
「ふふふ、そりゃあ、秘密の特訓さ。ウォルタも来るか?」
「……私が行ったら秘密じゃなくなるじゃない」
「あ、そうか。じゃあ普通の特訓だ。ウォルタも来るか?」
「……まあ、時間もあるし、ご一緒しようかしら」
ウォルタは椅子から立ち上がって背伸びをした。
「よし、決まり! 早速、師匠に会いに行こう!」
「ええ! ……って師匠?」
ウォルタはフレイの案内のもと、サラ川南部へとやって来た。
「あなたの言う、師匠ってこんなところにいるの? 魔物の少ないサラ川近辺とはいえ、都市から随分と離れているけど」
ウォルタがフレイに尋ねた。
「ああ、なんたって師匠だからな。平穏な都市よりも、魔物が潜む自然の中で暮らす主義なんだって」
フレイが笑顔でそう答えた。
「……その情報だけで、だいぶワイルドな方だとご察しするわ」
ウォルタは顔に冷や汗を浮かべた。
「会えば分かるけど、かなりワイルドだぞ。驚くなよ」
そう話しながら歩く二人の前に、とある小さな小屋が見えてきた。
「あっ、あれが師匠の家だよ。おーい! 師匠ぉー!」
フレイは駆け足でその小屋へと駆け寄った。しかし、小屋の周囲には人影が見当たらなかった。
「……誰もいないみたいね」
ウォルタがそう言いながら、周囲を見回していると、突如、近くの大樹の上から大声が聞こえた。
「ハハハ! よく来たな!」
「木の上⁉」
ウォルタがその声のした場所を見上げると、そには木の枝の上に立つ、一人の朱色のポニーテールの髪をした女性の姿があった。
「師匠!」
フレイがその女性に向かって、叫んだ。
「とぉっ!」
女性はそう叫ぶと木の枝から飛び降り、空中で一回転した後、地面に着地した。
「……ワイルドなんて言葉じゃ収まらないわね」
ウォルタがぽつりとつぶやいた。
「こんにちは! フレイ! ……と、そちらさんは初めましてだな! 私の名はサナ! よろしく!」
サナはサムズアップした右手を二人の前に突き出した。
「おう、師匠! 今日は友達を連れてきたんだ。同じギルドのメンバーのウォルタだ」
「ウォ、ウォルタよ……よ、よろしくサナさん」
この時点でウォルタはサナのテンションの押され、辟易していた。
「ほう、君がウォルタか! 君のことはフレイから聞いているよ! よろしく! だが、私にさん付けは無用! 呼び捨てで構わん!」
サナは自分の胸をドンと叩いてそう言った。
「……そ、そう、よろしくサナ」
ウォルタは苦笑いでそう言った。
「どうだ、ウォルタ、驚いたか?」
フレイが笑顔でウォルタに尋ねた。
「……ええ、驚いたわ。腰が抜けるくらい」
ウォルタが疲れ切った表情でそう答えた。
「よし! なら早速、修行場に移動しよう! 着いて来い!」
三人はその修行場といわれる、近くの森の中へと入って行った。
「……ここが、修行場」
修行場と言われる場所に来たウォルタは、そこら中に置かれている木製の、トレーニング設備と思わしき物たちを見回しながら言った。
「さて、特訓開始と行きたいところだが……どうだフレイ! これまでのお前の特訓の成果、ウォルタに見せてあげてはどうだろうか?」
サナがフレイにある一本の剣を渡して言った。
「分かった! ウォルタ、見てろよ。今からあそこにある鉄の塊をこいつで切るからな」
フレイが少し離れた場所に置かれた鉄塊を指さして言った。
「切るって……あの鉄を⁉ それにその剣いつものじゃないじゃない」
ウォルタが首を傾げながら尋ねた。
「ああ、この剣は特訓用の特製なんだ。まあ、見ててよ!」
そう言うと、フレイは鉄塊の目の前に立ち、握った剣に魔力を込めた。
「はぁっ!」
フレイはそう叫ぶとともに、鉄塊に斬撃を浴びせた。鉄塊には大きな切り後が残った。
「……あぁ、やっぱりまだ真っ二つとはいかないかぁ」
フレイは鉄塊に残った切り後を見て、肩を落とした。
「嘘……剣で鉄を切ったの」
ウォルタは信じられないと言った表情をした。
「ハハハ! これが特訓の成果よ! じゃあ、特訓を始めよう! フレイはいつも通りのメニューをこなしていてくれ! 私はウォルタの指導にあたるからな!」
「おう! 師匠! ウォルタ、頑張れよ!」
「え、ええ……しかし、鉄を切れるようになるなんてどんな特訓よ」
ウォルタはそうこぼしながら、サナの後へと着いて行った。
「特訓の内容はいたって簡単、魔法銃であそこにある的を射抜くだけだ!」
場所を移動したサナが、遠くの木に張り付けられた円形の的を指さして言った。
「そ、それだけ?」
ウォルタは拍子抜けした表情を見せながらも、腰のホルスターから魔法銃を取り出そうとした。
「おっと、ストップ! 使っていいのは私が用意した、この特製の魔法銃だけだ!」
サナはそう言うと、ウォルタにその特製の魔法銃を渡した。
「……特製、フレイもそう言ってたわね。まあ、別に構わないけど」
ウォルタはその魔法銃を受け取り、的に向けて構えた。
(こんなの初歩中の初歩じゃない、やる意味があるとは思えないけど)
ウォルタはそう思いながら、いつも通り銃に魔力を込めた。すると、手元の銃が大きな音を立てて爆発した。
「あっつ! ちょっと、どうなってるのよ⁉」
ウォルタがサナの方を振り向いて怒鳴った。
「ハハハ! 驚いたか! 言っただろ、その銃は特製だと!」
「特製ってなによ! 爆発するってこと?」
ウォルタはサナに詰め寄った。
「半分正解だ! その魔法銃は私が作った、魔力のコントロールを鍛えるためのものでな! 必要以上の魔力を銃に込めると爆発する仕組みになっている!」
サナは笑顔答えた。
「爆発はともかく、魔力のコントロール?」
ウォルタが尋ねた。
「そうだ! 強い魔女になるための秘訣、それは魔力のコントロールにある! ほとんどの魔女は魔導具に魔力を込めるとき、その魔導具を使用するのに必要な魔力よりも、多くの魔力を無駄に込めてしまっている! しかし、それではすぐに自身の魔力の枯渇を招いてしまう! 強い魔女は魔導具に必要な魔力を見極め、必要最低限の魔力を込めることができるのだ!」
サナが腰に両手を当てて答えた。
「なるほど、要するに魔力の節約が大事ってことね」
ウォルタは納得した。
「そうだ! それに、フレイから聞いたが、君は魔導石を使うのだろう! なら、なおのこと、魔力のコントロールは重要だ! 魔導石は魔導具に強い力を授けるが、その力を操るには、より多くの魔力が必要になるからな!」
見た目と行動とは裏腹に丁寧なサナの説明に、いつの間にかウォルタは耳を傾けていた。
「ちなみにフレイは既にその段階をクリアし、今は魔導具に込めた魔力を収束させ、威力を向上させる特訓をしている! ウォルタも負けてはいられんぞ!」
サナはサムズアップした右手をウォルタに向けて突き出した。
(……この特訓、思ってたより価値のあるものになりそうね!)
ウォルタは手元の粉々になった魔法銃を見つめてそう思った。
「分かったわ。サナ、次の銃を頂ける? 魔力のコントロール、ものにして見せるわ!」
「おう、その意気だ! 銃はいくらでもある、遠慮なく爆発させてもらっていいぞ!」
サナが近くの、かごいっぱいの特製の魔法銃を指さして言った。
「……なるべく、それは遠慮したいけど」
ウォルタは再び的に向けて銃を構えた。




