魔女と魔物の島10
「ウォルタさん!」
ヒカリはそう叫ぶと、突き飛ばされたウォルタのもとへ駆け寄った。
「ウォルタさん! 大丈夫ですか!」
「……ええ。と、言いたい所だけど、今のは結構効いたわ……ぐっ!」
ウォルタは脇腹を押さえながら身を起こした。
「動いちゃダメですよ! なんであんな無茶を……」
「どうしても……確かめたいことがあってね。まあ何とかそれは叶ったわ。ヒカリ、耳を」
そう言うとウォルタはヒカリに耳打ちした。
「……そういうことですか。なら私達二人で!」
ヒカリが言った。
「ええ、そう……うっ!」
ウォルタは言葉を最後まで言えないまま、気を失ってしまった。
「っ! ウォルタさん? ウォルタさん!」
ヒカリの呼びかけも空しく、ウォルタの返事は帰って来なかった。
「そ、そんな……」
ヒカリは肩を落とした。
「ふんっ、無様なものだな」
ヒカリの背中にアカリの声が響いた。
「……姉さん」
ヒカリはアカリの方を振り向いた。
「お前に何を伝えたかったのかは知らないが、赤の他人の為にここまでするとは、やはり魔女とは馬鹿げた存在だな」
「……」
アカリの言葉にヒカリは右拳を強く握りしめた。
「これで分かったんじゃないか、ヒカリ。魔女の力なんてものは所詮はこの程度のとるに足らないもの……」
「違う!」
ヒカリの力強い声がアカリの言葉を遮った。
「ウォルタさんは私に託してくれんだ、こんなにボロボロになりながらも、私に託してくれたんだ。勝利へと繋がる光の筋道を!」
ヒカリは立ち上がりながら、声を振り絞りながら言った。
「ウォルタさんだけじゃない、フレイさん、フウさん、グランさん、そして、ギルド・バルバトスの皆が託してくれたんだ! だから私はここまで……姉さん、あなたの前まで来ることが出来たんだ!」
ヒカリは右手で魔法銃を握りしめた。
「確かに魔女の力は一人では小さな物かも知れない。だけど、他の誰かと手を取り合うことで、その力を何倍もの大きさにできる! それが魔女だ!」
神殿内は一時の静寂に包まれた。
「……言いたいことは、それだけか」
アカリが口を開いた。
「……ええ。ここから先は……実際に見せてあげるわ、その力を!」
そう言うとヒカリはアカリに向けて銃を構え、その引き金を引いた。
「ふっ、そんな攻撃……」
アカリは攻撃が来ると身構えた。しかし、ヒカリの銃から放たれたのは銃弾ではなく、広範囲に及ぶ強い光だった。
「っ!? 目眩ましか! こしゃくな!」
アカリの動きはその光によって一瞬止まった。その一瞬にヒカリは再び銃の引き金を引いた。今度こそ銃口から光の銃弾が放たれた。
「こんな小細工ぅ!」
アカリは即座に体勢を立て直すと、襲い来る銃弾を両手で受け止めた。そして、その銃弾は彼女の手によって消滅、否、吸収された。
「ふんっ! くだらな……」
アカリの口はその言葉の途中で止まった。なぜなら、吸収したはずの銃弾の影から、もうひとつの銃弾が姿を表したからである。
「な……に……」
ヒカリの体は銃弾の光に包まれた。
「ぜぇ、はぁ……」
「……くっ、てめぇ……中々やるじゃねぇか」
島の西側ではフレイとバジリが息を切らしながら対峙していた。
「ぜぇ、ぜぇ……ぐっ!」
突如、フレイはその場に膝を着いた。
「ふはっ! ……どうやらここまでみたいだな、それじゃあ止めと……」
「時間よ、バジリ」
右手を振り上げたバジリの背中に声が響いた。
「……アルラぁ。今、いいところなんだ、水を指すなよ」
バジリが背後のアルラに言った。
「そんなボロボロの体でそんな台詞言っても、強がりにしか聞こえないわよ」
「うっせぇ! ……ま、しゃーねぇか。今回ばかりは洒落になんねぇからな」
そう言うとバジリは右手を下ろした。
「命拾いしたな、赤髪。また会う時まで、せいぜい無様に生き恥さらしてな」
「っ! 待て! ウチはまだ!」
そう言って立ち上がろとしたフレイだったが、彼女の足はそれを許さなかった。
「……何で、何でだよ。ウチはまだ!」
「……」
そのフレイの姿をバジリは冷めた視線で見つめていた。
「ウチは強くなったんだ……まだ、まだこんなもんじゃ!」
「……行くぞ、アルラ」
そう言い残すとバジリはアルラと共にその場から姿を消した。
「くそぅ……くそぅ!」
「フレイさん? 大丈夫ですか?」
地面に向かって吠えるフレイの背中に声が響いた。
「……フウ」
「……なんとか、無事のようですね」
フウが安堵の表情を浮かべながら言った。
「あっ、ああ! この通りさ! なんてことないよ!」
フレイは作り笑顔を浮かべながら答えた。
「そ、そうですか。それはよかったです」
「ああ! それより、フウ。あいつら時間がどうとか言ってたけど」
「ええ、恐らく彼女達は時間稼ぎにすぎない。本命はこれから、といったところでしょう」
「こうしちゃいられないな。神殿に急ぐぞ……ととと」
「おっと。やれやれ、肩をお貸ししますよ」
倒れかけたフレイの体をフウが支えた。
「フウ……いや、これぐらい平気だよ」
そう言うとフレイはフウの肩から手を放し、足を引きずりながら歩き出した。
「フレイさん? ……ちょっ、待って下さい!」
フウもフレイの後に続いて神殿へと向かった。




