魔女と魔物の島5
「すいません……わざわざお気遣い頂いて」
ヒカリが申し訳なさそうに言った。
「別にあなたを気遣ってここに来たわけじゃないわよ。夜風を浴びにきたら、たまたまあなたがいただけ。ただそれだけよ」
ウォルタが言った。
「ウォルタさん……」
「ふふ。まあ、せっかくだし世間話でもしましょうか。そうねぇ……あなたのお姉さん、アカリさんってどういう方なの?」
「姉ですか? 姉は……とても優しい人です」
そう言うとヒカリは夜空を見上げた。
「私のギルド、バルバトスは私と姉で立ち上げたものなんです」
「へぇ、そうなの」
「ええ、姉はギルド長の名を私にゆずり、自身はその補佐についていたんです。本当は、自分が一番、ギルド長になりたかったのにも関わらず」
「……それって、アカリさんは」
「ええ、姉は魔女ではないんです。姉は私が幼いころから魔女になることを夢見ていました。けど、姉に魔力が覚醒することはありませんでした」
「でも、あなたには魔力は覚醒した」
「はい。ですから、表にこそ出しませんでしたが、姉は自分だけ魔女になった私のことを心のどこかで恨んでいたはずです。きっと、失踪して魔物の仲間になったのも、それが理由だと思います……現に今回、姉は私のことを……」
「……あのね、ヒカリ。私にも姉がいるの」
「ウォルタさん?」
「いい加減なくせに何かと器用でね。普通の人としても、魔女としても、私が姉に敵う面なんてひとつもないのよ。だから私はいつも姉の背中を追いかけてばかりなの」
「……」
「正直言って、ムカつくわね。だってそうでしょ。私にできないことを平気な顔してやってみせてくれちゃうんだもの。劣等感だって湯水のごとく溢れてくるわ」
「……」
「……それでも私は、姉を恨んだことなんて一度もないわ」
「……え?」
「だって彼女は私の目標だったから。彼女のようになりたいと強く思えば思うほど、私は人としても、魔女としても大きく成長することができたのだもの」
「……ウォルタさん」
「だから、あなたのお姉さんも本心であなたのことを恨んでなんかいないはずよ。きっと彼女の心の隙につけこんだ何者かが、あのような姿、鬼女に変えてしまったに違いないわ」
「……姉は、アカリ姉さんを元に戻すことは出来るのでしょうか?」
「もちろんよ。現に私の友人に、自身が鬼女であった過去を振り払って、新たな人生を歩みだしている子がいるもの」
「……そうですか、分かりました」
そう言うとヒカリは顔を上げた。
「私はこの数日、島を魔物から取り戻す一心で戦って来ました。島から魔物を消せば、いつも通りの日常が戻って来ると思っていました」
「……」
「でも、現実はそうじゃない。島を取り戻しても、姉さんが戻って来なければ私の日常は戻って来ない。
そのためには、ここでうつむいている場合じゃありませんでしたね」
ヒカリはウォルタに向き合った。
「ウォルタさん、私、決めました。明日、巨木のある神殿に大攻勢をしかけます。それでこの戦いに決着を着けます……ですが、私達だけで勝利を収めるのは困難です。どうかそのお力、私達にお貸し頂けませんか?」
「……いまさら何言ってんの、そんなの貸すに決まってるじゃないのよ」
「ウォルタさん……ありがとうございます!」
「ふふ……明日、絶対勝ちましょうね」
「はい!」
ウォルタとヒカリは固い握手を交わした。
一方そのころ、巨木のあるレイ神殿に四人の人影があった。
「さてと、大樹の最終調整はもうすぐ終わります。明日にはこの島の魔女共を一人残らず一掃できることでしょう」
鬼女達を率いる謎の人物が巨木を見上げながら言った。
「やっとかよ、待ちくたびれたぜ。明日は好きなだけ暴れまくってやるからな」
バジリが言った。
「油断して、足元をすくわれないよう気を付けることね。それに今回、私達はあくまでも彼女のサポートとして作戦に参加しているよ。そのことを忘れないことね」
アルラがひとり離れた場所に立ち尽くすアカリに目をやりながら言った。
「分かってるよ、いちいちうるせぇな。おい、アカリとやら。俺らより目立つからにはしっかり仕事を果たしてもらうからな」
バジリが言った。
「……はい」
アカリは無表情でそう答えた。
「……それだけかよ。あのなぁ、不完全体とはいえお前だって俺達、鬼女の仲間なんだぜ。会話のキャッチボールぐらいしたらどうだ」
「……申し訳ありません」
「……ぐぅ」
「あんたの口数が多すぎるのよ。あんたの方こそ、彼女を見習ってもう少しクールに振る舞うよう心がけたらどうかしら」
アルラが口を挟んだ。
「んだとコラ!」
バジリがアルラをにらみつけた。
「まあまあバジリさん、その元気は明日の為にとっておいてください。おしゃべりはこの作戦の祝勝会で
思う存分するとしましょう」
謎の人物がバジリをなだめながら言った。
「そう、この戦いで私達が魔女達に勝利することには大きな意味があります。明日は頼みますよ、アカリさん」
「……はい」
謎の人物の言葉にアカリが答えた。
明日の大戦を前に、島はいつも以上の静けさに包まれていた。




