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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
揚羽蝶 : 乙女よ、我と来たりてその衣を脱ぎ捨てよ
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73話

 その頃……クーデルスの屋敷は跡形もなくなっていた。

 文字通り、原型をとどめていないレベルで。


 メイド型や執事型のスイカ人間がせっせと復旧作業に勤しむ敷地の中心部には、半径50mはありそうなクレーターがぽっかりと穿たれており、そこで行われた戦いの激しさを否応もなく見る者に訴えている。

 屋敷を復旧するにはこの穴をまず埋めなくてはならないのだが、そんなスイカ人間達の邪魔をする存在がいた。


 ズズン。

 大きな音と共に、大地が揺れる。

 そのたびに、クレーターの外輪が崩れて彼らの仕事の量を増やした。


 振動の源は、クレーターのちょうど中心部。

 先ほどから、何度も何度も振動を繰り返し、その揺れは徐々に大きくなっている。

 そして何度目の振動だろうか? ひときわ大きく大地が揺れた。


「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 大きな叫び声と共に、クレーターの中心部にある瓦礫が文字通りけし飛ぶ。

 そして崩れた瓦礫を掻き分けるようにして、一人の男の姿が現れた。

 ダーテンである。


 端整な顔立ちは血と土にまみれ、目は血走ってまさに鬼神のようであった。

 そして彼は口元を捻じ曲げてにやりと笑うと、楽しげな声で叫んだのである。


「……はぁっ、はぁっ、は、はははははは! ま、待たせたなぁ!

 さぁ、決着をつけよう……ぜ……って」

 ダーテンの声は徐々に小さくなり、戸惑うような響きを残して途絶えた。

 なぜなら、そこにはスイカ人間のほか誰もいなかったからである。


「おい、兄貴! なんでいないんだよっ! 俺との勝負は!?」

 やりきれない想いをこめて叫んでみるものの、いないものはどうしようもない。

 彼の口から、ギリギリと悔しげな歯軋りの音が響き渡った。


「なんだよっ! ここからが面白くなるところだろっ!!」

 腹立ち紛れに地面を足蹴にすると、そのたびにドスンと大きな音を立てて地面が揺れる。

 さすが神だけあって、凄まじい力だ。

 周囲で作業をしているスイカ人間たちからするとこのこの上もなく迷惑だろうが、幸い彼らはスイカであり、そのような感情は備わっていない。


 なお、屋敷で療養していたサナトリアは、ミロンちゃんの背に乗せられて別のエリアの宿泊施設に移動した後であり、すでにここにはいなかった。


「……ひでぇよ。 これじゃ生殺しじゃねぇか。 あんまりだ!!」

 握りこぶしを地面にたたきつけながら不満を訴えるダーテンだが、ふとクーデルスが殴りあいに誘った理由を思い出す。


「そっか。 どちらが強いかを決めるためではなく、気持ちの整理をするために殴り合いをしたんだっけ」

 思い出した戦いの理由を呟くなり、ダーテンは力が抜けてその場にへたり込んだ。

 そしてなにげなく空を見上げる。

 どこまでも続くような、青い青い空を。


「まぁ、いっか。 喧嘩としちゃ不完全燃焼だけど、おかげで気持ちはスッキリしたし。

 つーかさ。 やっぱり俺、アデリアに惚れてたんだな」

 かすかに頬を染めながら、ダーテンは立ち上がった。


 そしておもむろに魔力を集めると、クーデルスに殴られた顔や脇腹に押し当てる。

 何箇所も骨が折れており、けっこうなダメージではあったのだが、彼にかかれば数秒で直る程度の代物に過ぎない。


 なお、戦いの最中に傷を治さなかったのは、闘神としての流儀だ。

 魔術が主体のクーデルスが魔術を使ってこないのだから、自分が治癒魔術を使うのは興ざめというものである。


 そしてあらかたの治療が終わるとダーテンは地の魔術を使って土から鏡を作り出した。

 だが、その鏡に映った自分の姿を見るなり、ダーテンは深いため息をつく。


「……さすがにこの格好はないよな」

 鏡に映る彼の姿は、服はボロボロ。

 顔は血と土で真っ黒。

 それでも見た目としては悪く無いと思えてしまうのは、上級神としての威厳なのか、それとも単に元の形が良すぎただけか。

 むしろ、この傷ついた姿がいいという変わった趣味の御婦人方もそれなりにいるに違いない。


 だが、少なくともダーテンの美意識にはそぐわないようで、彼は鏡に映る自分に渋面をつくって見せた。


「あぁ、くそっ、時間がないってのに!!」

 忌々しげに呟くと、彼はボロボロになった服を脱ぎすてる。

 そして、魔術を使って地面からお湯の噴水を呼び出すと、汚れた体を綺麗サッパリと洗い流した。


「時間がないからこんなものか」

 鏡の前で裸のまま仁王立ちになると、ダーテンはどこからともなく取り出したタオルで水気をふき取り、虚空から衣服を取り出して身につけはじめる。


 やがて着替え終わったその姿は……見事な白いスーツ姿。

 その手には花束まで用意してある。

 この空回り気味の妙な気合の入り方を見たならば、10人中9人までもが同じ言葉を頭の中に思い浮かべるに違いない。


 そして彼は、顎に手を当ててながら、色んな角度で自分の姿を鏡に映して満足そうな笑みを浮かべる。

「よぉし、どっから見ても男前だな。

 さてと。 ちょっくら告白に行ってきますか」

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