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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
揚羽蝶 : 乙女よ、我と来たりてその衣を脱ぎ捨てよ
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57話

 頭はピンクのお花畑、お腹は真っ黒コールタール。

 これ、なぁに?


「それはうちの団長ですわね……」

 その箱に書かれた張り紙を読み、アデリアは両手で顔を覆いながら呟いた。

 同時に、その足がゲシゲシと箱を蹴り上げる。

 最近の彼女の足は、放し飼いの鶏並みに凶暴だ。


 なお、主な被害者はダーテンとクーデルス。

 蹴られる理由については、たいてい弁護の余地が無い。


 ちなみに、箱には他にも『悪の末路』『馬鹿の見本』『餌を与えないでください』などといった張り紙が張り付いている。

 言うまでもなく、これはジャイアントリザードを野に放った罰であり、発案者はサナトリアだ。


「で、今日はどんな悪さしたんだ、兄貴」

 腕組みをしたままため息をつくダーテンに、箱の中からくぐもった声が答える。


「人聞きの悪い事を言わないでください、ダーテンさん。

 私は悪さなんてしてませんよ。 これはきっと、なにかの勘違いです。

 あと、狭いのは嫌なので、そろそろここから出してくださいませんか?」

 随分としおらしいセリフだが、その場にいる全員の眉間に深い皺が生まれた。

 彼らの表情を翻訳するなら、お前の善悪の基準なんか信用できるか……である。


「そうだな、養殖した大量のジャイアントリザードを脱走させて、近所の村の農作物に多大な被害を与えた程度だよな。 この、悪党め」

「ひどい言い方しないでください、サナトさん。

 ちょっとした不可抗力じゃないですか」

 当然ながら、村娘をナンパして仕事をサボったせいでモンスターを逃すのは不可抗力では無いし、そもそも不可抗力ならば何をしても良いわけではない。


「だいたい百匹以上のジャイアントリザードを養殖する段階で、絶対にちょっとじゃないだろ……この短期間でどうやったらそんな恐ろしい真似ができるのやら」

「あ、聞きたいですか? エルデルさん」

 嬉しそうな声を上げるクーデルスに、エルデルがしまったという顔をするが、すんでのところで割って入る声があった。


「お前の講釈を聞いていたら、朝になっても終わらないか、全員が知恵熱で倒れるわ!」

「なんですかガンナードさん。 人を歩く災いみたいに言わないでくださいよ。 失礼で……」

 だが、返答がわりにアデリアの蹴りがガコンと箱を揺らし、クーデルスの妄言を遮る。

 皆がクーデルスの扱いに慣れてきたせいか、かなり息があったコンビネーションだ。


「まぁ、自覚がおありで無いのね、歩く災害200倍濃縮液! 毎回、毎回、大地を人外魔境に変えないと気が済まないのかしら、この……スカポンタン!スカポンタン!」

 淑女にあるまじき罵声を上げながら、アデリアが目の前の箱を連続で蹴り上げる。

 周囲の誰もが止めようともせず、むしろうんうんと頷く有様だ。


「なかなか良い音を立てるじゃないか。

 だが、まだ甘いな!」

 そう告げると、サナトリアが思いっきり箱を蹴り上げる。

 バキッと木箱が凹み、中から野太い悲鳴が上がった。


「その靴は……」

「先端に鉄が入ってる。 特注品だ。

 名付けてクーデルスバスター・プロトタイプ。

 ツッコミのたびに生身でクーデルスのケツなんぞ蹴ったら足を痛めるからな。

 少し無理を言って、知り合いに開発してもらったものだ」

「ツッコミのためにそこまで……なんて、無駄な努力。

 因みにおいくらですの?」

 無駄な努力と言いつつも購入を検討するあたり、アデリアも色々と毒されてきたようである。


 そんな彼女に答えたのは、ガンナードであった。

「残念だが、こいつはまだ非売品だ。 作業員なんかの足を守るのにも便利なんで、いまは量産に向けて開発を急いでいる。

 一月ほど待ってくれ。 足のサイズを教えてくれたら、次の試作品を回そう」

「まぁ、助かりますわ」


 もう、お分かりであろう。

 ――なんという不幸だろうか。

 よりにもよって、この世界の安全靴はクーデルスのケツを蹴り上げるために誕生してしまったのである。

 先人たちが草葉の陰から石を投げそうな暴挙だ。


「ところで……今のうちに聞いておくが、他にも何かやばい事してないだろうな」

「して無いですよ? 私は」

 ――こいつ、絶対何か隠している。

 その時、全員がそう確信した。


「では、いいかたを変えよう。

 なにか問題点はないか?」

 ガンナードがそう質問すると、クーデルスは言葉を濁しながら不可解な台詞を口にした。


「そうですね、農作業用に開発したスイカ農民がちょっと……」

「スイカ農民?」

「はい。 今後、農地を広げる事になるとおもいますので、農奴の代わりに働くスイカを開発したんです。

 植物と意思の疎通が出来るので、病や害虫、水捌けの具合などを細かく管理できる理想の管理ツールですよ」

 なるほど。

 そんなものがいれば畑の問題が速やかに判明するだろうし、処置も的確であるに違いない。


「ほう? 何が問題なんだ?」

「作物の育成までは問題無かったんですよ。

 ただ、アイデンティティが植物側なので……」

 そこでなぜか不自然な間が空く。


「収獲を命じると、我が子のごとく愛情を注いで育てた作物を守るために命がけで反抗してきます。

 いやぁ、ジャイアントリザードを脱走させたのも、実はそいつらが農業試験場を武力占拠するための陽動でして……」

 その瞬間、クーデルス以外の心は一つとなった。


「大問題じゃねぇかよ!!」

 全員の足が同時に箱を蹴り上げ、バラバラに破壊された箱からクーデルスの巨体が蹴り出される。

 かくして、この村に新たな問題が発覚したのであった。

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