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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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114話

 その頃、王都ドゥロペアでは大きな騒ぎが発生していた。


 原因は、北東の寒村地帯が音信普通になっているからである。

 いくら重要度の低い地域とはいえ、そこには定期的に物資を運ぶ商人もいるし、兵士や役人たちが指示書などを持って行き交うものだ。


 人の営みを生き物にたとえるならば、それらの人の流れは社会の血液といえよう。

 だが、その人の流れが一斉に消えたのだ。

 まるで心臓発作でも起こして急死したかのように。


 当然ながら、何かが起きたと感じた自治体が兵士を派遣するものの、今度は様子を確かめにいった兵士が帰ってこない。

 仕方なくさらに兵士を派遣したところ、彼らは恐るべき報告を持って帰ってきた。


 なんと、巨大な鷲型の魔獣がいたというのだ。

 しかも、推定される大きさは少なくとも翼長1キロ。

 ほぼ空を飛ぶ島である。


 こんなものは、もはや人の手ではどうにもならない。

 必然的に神に縋るという流れになるのだが、こんどはその神を祭る神殿が沈黙した。

 なんでも、ことが重大であるためすぐに方針を決める事ができないとのことである。


 人々は戦慄した。

 神殿ですらすぐには方針が決められない……それは今起きている事件が神々の手にも余るということだからだ。


 そしてその頃。

 これと比べれば実に小さな話題が街の一部の人間の間を駆け抜けていた。

 次世代のスターと目されていた踊り子、アモエナ嬢が失踪したという話である。


 彼女が泊まっていた宿が突然破壊され、おおくの宿泊客が救助されたり避難する中、彼女の姿だけがどこにも無かったのだ。

 だが、その荷物のほとんどが現場に残されていたことから、どさくさにまぎれて拉致されたのではないかという話が、どこからともなく飛び出したのである。


 だが、目撃者は一人もいなかった。

 なにぶん当時は激しい雨のために人通りがなく、宿にいた人間からわずかな証言を得られたのみにすぎない。


 とはいえ、人々の関心は別の事件にあり、この失踪事件に関心を寄せる者はほとんどいなかった。

 ましてや、この二つの事件を結びつける者など誰もいなかったことだろう。


 しかし、数日後この二つの事件について神殿が言及したことで、事態は一変した。


「この事件は、踊り子であるアモエナ嬢を拉致した南の魔王クーデルスが、さらにアモエナ嬢を追放した彼女の故郷へ立てこもったものである」

 この発言は、さらなる驚愕をもって人々に迎えられた。

 いままで人類にわりと友好的であった南の魔王が、人類に対して明確に牙を向いた事件だったからである。


 かくして、国や神殿が主体となり、南の魔王クーデルスの討伐クエストが発令された。

 ……だが。


「うわぁ、なんじゃこりゃあ!?」

 現場を目にした冒険者たちが、呆然と立ち尽くす。


「これ、木だよな?」

「それ以外の何物にも見えないけど……インパクトが強いというか、緊張感がないというか」


 彼らの目の前にあるのは、樹木の壁であった。

 それも、幾つもの木が並んで生えているのではなく、その術との樹木が溶け合って一本の樹木になったかのような状態である。

 さらにはその樹木が色とりどりの花を咲かせており、まるで頭上にお花畑が広がっているかのようだ。


「とりあえず、これ……どうやって先に進むの?」

「さぁ? 道は完全に木で埋まっちゃってるし。 少なくとも俺達じゃ進むのは無理だよな」

「迂回路を探すしかないか」


 そうやって彼らはこの奇妙な森の周囲を探ることになったのである。

 だが、その結果として道は一本も残らず潰されている事がわかった。

 結局、道がなくては探索も出来ない。

 諦めた冒険者たちは、近くで野宿をし、対策を考えることとなった。


 その日の夜。


「ちょっと貴方たち何をてこずっているの! それでも国一番の冒険者なの!?」


 野営地で叫んでいるのは、脚本家のウフィッツィーである。

 役に立ちもしないのに、アモエナが心配だからと言って強引についてきたお邪魔虫だ。


「こんなことをしている間に、わたくしのアモエナさんが……あ゛ーっ、あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁっ!!」

 妄想が膨らんでとんでもないことになっているらしい。

 野営地のテントの中でジタバタと転がる彼女を、冒険者たちは白い目で見ていた。


「なぁ、アレどうする?」

「とりあえず、言っても聞かないだろうから、置いてゆこう。

 誰か睡眠薬とかもってないか?」

 冒険者たちがそんな物騒なことを相談していたその時である。


「なんだ? 霧か?」

「白い煙が……まずい、これ石化ブレスの……!」

 夜襲を仕掛けられたことに気づいたものの、すでに時遅し。

 助けを呼ぶ暇もなく、ピキピキと音を立てて彼らの手足は動かなくなっていった。


 そして完全に冒険者たちが動かなくなったのを確認してから、今度は森が動き出す。

 地面の奥深くに忍ばせておいた根から一斉に芽を伸ばし、冒険者たちが野営に使っていた場所を一気に森へと変えた。


 ――かくして、冒険者たちの先発隊は何の情報ももたらすことなく全滅してしまったのである。


 コカトリスの石化ブレスをフレスベルグの気象操作能力で誘導し、遠距離から広範囲な夜襲。

 しかも情報を隠蔽することで対策を練ることを許さない。

 クーデルスのこの陰険な戦術によって、冒険者側は何度も大きな損害を強いられることとなる。

 やがてこの依頼によって大きく数を減らした冒険者側が手を引き始めた頃、ようやく神々が動いた。


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