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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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100話

 カッファーナの協力により、たしかに行き止まりであった状況は変化した。

 だが、アモエナにはまだ不安がある。


「でも、門前払いされないかな? なんか、あたしたち嫌われているみたいだし、そろそろティンファに巡業していた人たちが戻って来ている頃でしょ?」


 あれだけあからさまに塩対応をしてきた連中だ。

 アモエナが舞踏団の中のトラブルに首を突っ込もうとすれば、邪魔をしてこないはずがない。


 だが、カッファーナは大丈夫よ……と力強い笑みを返す。


「舞踏団の中にはまだ昔の知り合いが何人もいるわ。

 その伝手で中に入れてもらえるように手配しましょ」


 予想はしていたが、やはりカッファーナは王立舞踏団にいた事があるのかもしれない。

 だが、過去については普段からあまり多くを語らないだけに、深く追求するのはやめたほうがいいだろう。


「心配しなくても大丈夫よ。

 王立舞踏団は規模が大きいから人数も多くてね。

 所属している連中も全員がクズばかりじゃないのよ。

 そんなまともな人間にも、何人か心当たりがあるし、そうでない人間を使い潰すという手もあるわ」


 その言葉にホッと安心するアモエナだが、そんな二人をクーデルスが面白くなさそうに見つめていたことには気づかなかった。


 翌日、舞踏団の事務所にやってきた二人は、さっそくカッファーナの知り合いを呼び出す。

 やってきたのは、軽薄そうな中年男だった。


「いきなりなんだよ、カッファーナ。

 よりによってこんな時に呼び出すなんて……こっちの都合も少しは考えてくれ!」

「こんな時だからでしょ。

 ウフィッツィーが行方不明になったらしいわね。

 私たちも行方を捜したいから、事務所の中に入りたいのよ」

「くそっ、恨むぞカッファーナ!」

「ふふふ、あんたには山ほど貸しがあるもんねぇ」

 どうやらカッファーナはこの男の弱みをいくつも握っているらしい。


「ほんと、騒ぎとかやめてくれよ? 今はみんなピリピリしてんだから。

 消えたのがウフィッツィーだけならよかったんだが、団長とうちのトップスター男優まで姿が見当たらないんだ」


 彼は神経質そうになんども周囲をキョロキョロしたあと、不安げな声で念を押してくる。

 だが、カッファーナには騒ぎを躊躇する気が全くなかった。


「はいはい。 知りたいことだけ調べたらすぐに帰りますって」

 彼女の曰く、この男は劇団にとっても失って惜しくない人材だそうで、この際だから使い潰す気なのだとか。

 おそらくは相当なクズ野郎なのだろうが、ご愁傷様としか言いようがない。


 カッファーナは軽い調子で男に答えると、アモエナを振り返った。


「じゃあ、私は打ち合わせどおりあっちの控え室に……」

「ええ、また後で。 一時間後に合流しましょう」


 そして二人は別々に聞き込みを開始する。

 クーデルスがどこからか邪魔しようとしている可能性があるからだ。


 少なくとも固まっていれば、まとめて対処されてしまうのは確実である。

 まぁ、各個撃破されてしまう可能性もあるのだが、確率としてはまだこちらのほうがマシだろうという判断だ。


「あの、ウフィッツィーさんがいなくなったって話だけど……」

 アモエナは誰に話を聞こうかしばらく悩んだ後、まず目に付いた初老の男に話しかけた。


「誰だアンタ。 見かけない顔だな。

 まぁ、いい。 アンタが誰かなんて興味はない。

 あのイキリ作家ならまだ見つかってないよ。

 つーか、部屋にいたはずなのにいつのまにか居なくなってたって話だし、誰かにさらわれたんじゃないか?」


「出て行ったところを見た人はいないの?」


「さぁな、誰かいるかもしれないけど、俺は聞いてないぞ」


 そして何人もの関係者に話を聞いてみたアモエナだが、どうやらウフィッツィーの行方はさっぱりわからないらしい。

 団員と兵士が総動員で探っているというのに、手がかりすら見つからないというのはどうにもおかしな話だ。


 やがて、特にめぼしい情報もなく約束の一時間が過ぎた。


「あ、カッファーナさん。

 そっちはどうでした?」

「うーん、あんまり収穫はなかったわね」


 打ち合わせした場所にやってきたカッファーナだが、なぜかまるで困惑しているような顔をしていた。


「こっちもさっぱり。

 兵士が踏み込んでくる少し前まで部屋にいたことまではわかったんですけど、誰も外出するところを見てないんですよね。

 玄関には受付の人がいるし、窓から逃げ出したんでしょうか?」


 たとえそうだとしても、ここは住宅地の中である。

 真昼に誰の目にも止まらず通り抜けたというのはちょっと考えにくい。


「こっちはねー、なんか変な話があったのよ」

「変な話?」

 すると、カッファーナは眉間に皺を作りながら奇妙な話を口にした。


「そう。 

 この建物の中をクーデルスの倍はあるような大きな生き物が這い回っていたというの。

 魚みたいな姿で、全身真っ黒だけど、目の周りとお腹は白かったらしいわ」


「……なにそれ」

 アモエナの知る限り、クーデルスの身長は二メートルほどあったはずだ。

 それよりも大きな生き物となると、もはや恐怖しか感じない。


「その生き物は兵士に連れられていったみたいだけど、なんか突拍子もない話よね」

「なんとなくだけど、犯人はクーデルスのような気がするな」


 そんな突拍子もない事をする存在が、ほかにいるとは思えない。

 だが、その時である。


「おや、ひどい言いがかりですね」

 背後から、いつもの胡散臭い声が聞こえてきたではないか。


「クーデルス! なんでここに!?」

「いや、私がどこにいようと私の自由ですので」

 かくして、アモエナとカッファーナは合流したところをクーデルスに見事捕まえられてしまったのであった。

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