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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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94話

「ちょっと、私達を脅す気?」

「真面目にやってくれるならそんな気は無いです。

 それに、私の願いを直接叶えてくれるのはロザリーさんですし」


 物騒な笑みを浮かべたモラルに、アモエナはニコリともせずそう言い返した。


「アモエナちゃん……」

 予想外の援護に、思わずアモエナへと抱きつこうとするロザリスだが、アモエナは踊り子ゆえの華麗なステップですり抜ける。


「あ、抱きつくのは無しです」

「……冷たい」


 アモエナの態度に身をよじって指をくわえるロザリス。

 この短い間にどんな努力があるのかはわからないが、今の男らしい強面でそれをやられるとかなり違和感があった。


 どうにかしろとばかりに、元凶であるモラルへと視線があつまるも、とうの本人は楽しそうにニヤついているばかりである。

 きっとこの混沌とした状況が楽しいのだ。

 実に悪趣味である。


 そしてこの状況に嫌気がさしたのだろか、ずいぶんと間が空いてしまってからベラトールが口を開いた。


「まぁ、確かに我々の態度は褒められたことでは無いだろう。

 だが、小娘も使う気の無い手札をちらつかせるのはやめておけ。

 変なところでクーデルスに感化されおって……割と不愉快だ」

「たしかにちょっとやり口が似てますわね」


 ベラトールのぼやきにも似言葉に、幻像のフィドゥシアも同意をしめす。


「なんとでも仰ってください。 私にとって大事なのは、自分の夢だけですから」

「なんという利己主義であるか……」

「いっそ清々しいですわね。 この子、考え方が魔族よりでしてよ」


 そう言われると、なぜか妙に納得できた。

 どう考えても、クーデルスの教育の成果である。


「さて、こんなことを論じていても意味は無い。

 ロザリスよ、さっさと推薦状を用意するのだ」


 微妙な空気を払拭するように、ベラトールはロザリスに話しをふった。

 すると、ロザリスは口を尖らせながらこう答えたのである。


「パトルオンネの領主夫人だけどぉ……アタシが紹介しても、たぶん自分の目で見てアンタの踊りに納得しないと推薦状は書いてくれないと思うわよぉ?

 でも、そのセッティングまでならばしてあげてもいいわ」


 神であるロザリスがここまで言うのだから、パトルオンネの領主夫人は力ずくで命令するのが難しいタイプのようだ。


「つまり、その先はアモエナちゃんの努力次第ってこと?

 いいわね。 それで試練を与えるという名目も立つわ」

 アモエナの踊りの師匠であるモラルは、自信たっぷりに頷く。


「わかりました。 その方向でお願いします!」

 アモエナが頭を下げ、その場はいったんお開きとなった。


 だが、最後になって、フィドゥシアの幻影がこう告げたのである。


「そこの小娘。 一つだけ忠告してあげますわ。

 推薦状を貰う話は、ここにいる者たち以外には言わないほうがよろしくてよ。

 特にクーデルスには」

「それってどういうこと?」


 聞き捨てなら無い言葉に、アモエナは思わず問い返す。

 クーデルスは味方ではないのか?


 すると、フィドゥシアは口元を扇で隠し、楽しそうに笑いながら告げた。


「……クーデルスはお前が試練に失敗して泣きついてくるのを待っているはずですわ。

 どうしようもなくてうろたえる貴女に縋りつかれ、慈悲深い自分という役柄に酔いたいがために。

 アレはそういう男なの。

 せいぜいクーデルスの動きと目と耳には気をつける事ね」


 翌日。

 アモエナたちは祝勝会が終わってゴミだらけになった街を後にする事にした。

 とうぜん全員から反対されたが、駄目ならばアモエナが一人で旅立つと言い出したため、仕方なくである。


 あまりにも急な話であったため、ドルチェスとカッファーナはまだ事後処理に追われており、同行するのはクーデルス一人だけだ。


「そんな急いで旅に出なくてもよかったと思うんですけどねぇ。

 おかげさまで、お土産を選ぶ時間もありませんでしたよ」


 船の搭乗券を指で弄りながら、拗ねたように呟くクーデルスだが、アモエナは振り向きもせずにこう言い放った。


「……あげる相手もいないくせに」

「ぐはっ!? べ、別に自分用のお土産ぐらい買ってもいいじゃないですか!

 それにしても、今日はなんか一段と辛らつですね、アモエナさん」


 すると、アモエナはようやく振り返り、冷ややかな声で吐き捨てる。


「急いでいるときに余計な事を言うからよ」


 どうやら、何も喋らないほうがいいと判断したクーデルスは、そのまま少し距離をとってブツブツと独り言を呟き始めた。

 実に鬱陶しい限りである。


 そして、アモエナはこの街に入ってきた時と反対側にある船着場(はとば)に足を踏みいれると、ベラトールに手配してもらったチケットを船員に見せ、そのまま特等室へと入っていった。


「アモエナさん、そんなに急いで何をしようとしているのですか?

 そろそろ教えてくださいよ」

「駄目。 言っちゃ駄目だって言われているから。 特にクーデルスには」


 アモエナが冷たく突き放すと、クーデルスは見ているだけで悲しくなるようなしょんぼりした顔でボソリと呟く。


「そんな……ひどい……」


 次の瞬間、船が大きく揺れた。

 どうやら、出向の準備が整ったらしい。


 そして船は、捨てられた子犬のようにしょぼくれるクーデルスと、野望に燃えるアモエナを乗せて動き出した。

 この物語の最終地点、王都ドゥロペラへと。

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