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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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80話

 思い立ったが吉日。

 クーデルスたちはアモエナに急かされるようにしてベラトールの別邸へと訪れていた。


 王立舞踏団とは文字通りこの国の王が運営している劇団である。

 国中の優れた踊り手のみならず、脚本家、演出家、舞台監督といった連中が集められた、いわゆる演劇のエリートたちだ。

 その一員となる事は、この国の演劇関係者にとって最高のステータスであり、そこに憧れない踊り子はいないという。


「まぁ、私やカッファーナはそこに魅力を感じない例外ですけどね」

 台詞の中にたっぷりの皮肉をこめて、ドルチェスが笑う。


「なんというか、権威主義で窮屈なのよ。 どんなにいい作品を出しても、最高幹部の趣味に合わなければ駄作扱いにするのよね。

 今の連中の中に、本当の芸術を理解しているようなヤツは半分もいないわ」


 そう、国に属してしまえば、そこには義務や責任と言うものが生まれる。

 王や貴族を批判するような作品は作れないし、政治や駆け引きの道具にされることですら珍しくは無い。


 だが、それが不愉快なのは誰しも同じであるらしく、カッファーナの発言を耳にした団員たちからはやっかみとも侮蔑とも似た冷たい視線が突き刺さる。

 もっとも、そんなもので傷つく面の皮の持ち主ならば、最初からそんな発言を表立った場所ではしないものだが。


「……半分もいればいいじゃないですか。

 魔帝王の宮廷なんて、本当に政治を理解している方は誰もいませんでしたよ」

 そう語るクーデルスの目は、ボウフラが泳いでいそうなほど濁っていた。


「みんな自分の利益しか見えないんです。

 それはただの支配者であって、政治家でもなければ経営者ですらありません」


 ブツブツと呟くその台詞に、周りのものは苦笑いしか出ない。

 自分の利益を優先させない政治家や経営者などいないと思っているからだ。

 さらにアモエナにいたっては完全に無視して、周囲の練習風景に釘付けである。


「いいんです。 どうせ私なんか孤独がお似合いなんですよ。

 アモエナさんなんか全く人の話聞いてないし、しばらくスイカでも愛でながら暮らしたい気分です」

「そ、そんな事よりも見てください、クーデルスさん。 向こうでラインダンスの練習が始まりますよ」


 周囲に無視されて拗ね始めたクーデルスを扱いかねて、ドルチェスが必死にその興味を別のものに移そうとした。


「ラインダンス?」

「最近流行の踊り方です。

 大勢のダンサーが肩を組んで一列に並んで踊る方式でしてね……口で説明するより見たほうが早いでしょう」


 すると、立ち止まったクーデルスたちの横をアモエナが駆け足で追い越してゆく。

 どうやらかなりのご執心らしく、他の練習風景には目もくれない。


 そんなアモエナの後を、すっかり拗ねた顔でゆっくりと歩いて追いかけ、クーデルスは踊り子たちが肩を並べるその場所へとたどり着いた。

 そして目を見開く。


「ほう、これは見事ですね。 まるで風にそよぐ花々のような艶やかさがあります」

 クーデルスの目の前では、練習用のタイツ姿に身をつつんだ女性がその見事な技を披露していた。

 踊っているのは、およそ二十人ぐらいだろうか。

 くるりと回るタイミング、足を高く上げる角度、その全てがピタリと揃っていて全く乱れが無い。


「すごい……やっぱり、綺麗……私もあんな風に踊ってみたい」

 そのラインダンスの練習風景を見たアモエナの口から、そんな台詞が零れ落ちる。

 どうやら、彼女がおかしくなった原因こそ、このラインダンスであったらしい。


「なるほど、そういうことですか」

「まぁ、インパクトはありますからね。

 心奪われるのも無理は無いでしょう」


 だが、ふとクーデルスが怪訝な顔になる。


「ふむ。 よく見ればダンサーの背丈をそろえているようですね」

「ええ。 背丈に違いがあると、踊り子で作ったラインに凹凸が出来て見苦しくなってしまいますからね」

 たしかに、この中で一人だけ背が高かったり低かったりすれば悪い意味で目立ってしまうだろう。

 ラインダンスは協調の美であるからだ。


 そこでふと、クーデルスはアモエナを見る。

 彼女の背丈は、ちょうど今踊っている踊り子たちと同じぐらい。

 いや、僅かに彼女のほうが高いかもしれなかった。


 クーデルスはその視線を彼女の体を頭から順に下げてゆく。

 そして、その足元で留まった。


「アモエナさん、靴が少し小さいようですね」

「……え? あ、うん。 クーデルスにもらった時はちょうど良かったんだけどね。

 この街に来る途中ぐらいから、なんかキツいなーって」

 クーデルスが思わず声をかけると、アモエナは夢から覚めたような顔でそう答えた。


 言われてみれば、その頃からアモエナは馬車の中にいる間に限り靴を脱いでいたような気がする。


「もしかして、まだ成長期が続いているのでしょうか?

 それにしても、足の大きさなんて早々変わらないと思うのですが」


 クーデルスが不安げにそう呟いたときであった。

 ふと、向こうから歩いてきたベラトールの神官が声をかけてきたのである。


「すいません、クーデルス様ご一行ですね?

 実はベラトール様より言伝をいただいてまいりましたので、お時間をいただけないでしょうか?」

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