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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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76話

「いやぁ、フィドゥシアさんってば、大盤振る舞いですね!

 もっとチマチマした罠で時間を稼ぐと思ってましたが、まさかこんな最下層でのっけからダンジョン崩壊とは!」


 ――何気に彼女らしくない。

 クーデルスがそんな感想を胸の中で呟く横で、ベラトールが叫び声をあげる。


「くそっ、この有様では上の階に上っても足場が全滅しているかもしれんぞ!」

「どうすんのよ、それ! 生き埋めのまま封印状態になるのはいやよ!!」


 封印にはトラウマがあるのか、モラルが心底いやそうな顔をする。


「いざとなったら、私が氷で保護空間を作る。

 そして、そこから穴を掘って出口を目指すしかないだろうな」


「でも、その間に西の魔王の魔術が完成してしまわない?」


「なら、その保護空間自体を強化して、魔術に耐えればいいだけですよ。

 三人かがりなら全く問題ありませんし、ダンジョン自体がフィドゥシアさんの魔術でクレーターに変わるでしょうから、穴を掘る手間も省けます」


 そんな雑談をしながらダンジョンの中をひた走る三人だが、その途中でクーデルスがふと呟いた。


「おっと、そこに落とし穴が……」

「きゃぁ!?」

 その瞬間、前を走るモラルとベラトールの足元がパックリと割れる。

 だが、クーデルスは後ろからモラルを捕まえると、彼女を抱えてヒョイと落とし穴の上を飛び越えた。


「うぐおぉぉぉぉぉぉ!?」

 その隣では、ベラトールが悲鳴を上げながら穴のそこに落ちてゆく。

 手足を必死にばたつかせても、シロクマに翼は無い。


 そしてベラトールが穴のそこに消えると同時に、フロアの崩壊がピタリとやんだ。

 いや、よく見れば崩落すると見せかけて、ただ全体が揺れていただけのようである。


「いやぁ、相手を強制的に走らせた先に落とし穴とは、さすがフィドゥシアさん。

 この派手なフロアの崩落が、この落とし穴へと追い込むためのハッタリだったとは……実に深い」


 べラトールが落ちた穴を見下ろし、一人呟くクーデルスだが、その彼の鼻先にひょっこりとシロクマが顔を出した。

 どうやら、途中で氷の足場を作り、そのまま氷の階段を作ってあがってきたらしい。


「貴様……今、わざと私の事を見捨てただろ」


 確かにクーデルスの身体能力があれば、空いたほうの腕でベラトールを抱えるぐらいの事はできたに違いない。

 それを指摘すると、クーデルスはいつもの胡散臭い笑顔を浮かべたまま肩を竦めた。


「だって、あなたこのぐらいじゃ死なないし、ちょっと痛かったぐらいで済みますから」

「事実ではあるが、気分的にはくびり殺してやりたいぞ」


 おそらく本音だろうが、生憎とそんな事をしている暇は無い。

 今も西の魔王は着実に呪文を唱えて危険な魔術を構築しているはずだ。


「全く短気なクマですねぇ。 そんなんだから上級神になれないんですよ。

 実力だけは最高神に近いはずなのにねぇ。

 上級神への昇進条件である『国家レベルの社会的影響力』がいつまでたっても得られないのはなぜか……少しは考えたほうがよろしいかと」


「ほっとけ!!」


 神々の世界において、階級とはその力だけを示すものではない。

 その階級にふさわしい社会的影響力を伴っていなければ、いつまでたっても下級の階位にとどまるしかないのだ。


 この点において、あらゆる感情を自在に操るモラルはきわめて社会的影響力が大きく、上級神にふさわしいといえよう。

 ちなみに世間知らずで性格が緩いダーテンが上級神としての社会的影響力を持っているのは、ひとえに親の七光りという奴である。


「で、でも、よくあの罠を回避できたわねクーデルス」

 ベラトールの不機嫌を感じたモラルが話題を変えようと口を挟むと、クーデルスはなぜか一瞬遠い目をしてからその問いに答えた。


「よくあるパターンですので。 この程度の事にはなれてます。

 伊達にあの凶暴なクーリャと凶悪なフーシャさんの幼馴染をつとめてません」


 自信満々の表情でそんな台詞を語りながら、クーデルスは通路の先にあった扉を開ける。

 すると、そこは上へと続く階段があった。

 そして、その階段を埋めるように巨大な鉄球が……。


「自信満々に語っておいていきなり罠に引っかかるか、このお馬鹿!!」

「いやぁ、探知は苦手なので」


 ハハハと爽やかな声で笑うクーデルスの頭上から、ゴロリと音を立てて鉄球が転がり落ちてくる。

 だが、クーデルスは何事も無いように前に出ると、その鉄球を蹴り上げた。


「ぬるいっ!!」


 ガコォォォォォンと、大きな音を立てて鉄球はあっけなく上のフロアにけりだされる。

 その鉄球の後姿がすこし寂しそうだったのは気のせいだろうか?

 だが……。


「おい、まだ終わってないぞクーデルス。

 なんともしつこい鉄球だ。 製作者の性格がにじみ出ている」


 ベラトールの言葉に前を確認すると、蹴り飛ばされた鉄球がガコガコと音を立てながら変形し、人型のゴーレムへとかわり始めていた。

 無駄に細かい装飾性が、作り手のこだわりを感じさせる。


「甘いですねぇ。 秘儀、キノコ封じ!」

 だが、クーデルスがパチンと指を鳴らすと、ゴーレムの全身から無数のキノコが湧き出てその動きを封じ込めた。

 力任せにキノコを引きちぎっても、次から次へと再生するキノコの前には全く意味がなく、水槽の中で水をかき回しているような状態になる。


「何と言う酷い技だ」

「ほんと、性格がにじみ出るわね」


 そして気が付くと、ゴーレムはキノコの固まった球体の中に完全に閉じ込められていた。

 茶色の傘の下から、クォーン、クォーンと悲しげな声が漏れている。


「ふふふ、球体におかえりなさい。 お似合いですよ?」

「ほんと、クーデルスにお似合いのエグイ技だわよ」

 ボソリと呟かれたモラルの声は、涼しい顔でスルーされた。


「さ、こんなところはさっさと切り抜けましょう。

 長い付き合いですので、フィドゥシアさんの仕掛けてくる罠は大体どうにかできます」

「あんたいったいどういう子供時代おくってきたのよ」


 その瞬間、クーデルスの動きが凍りつく。

 さにな目元に手をやってしばらく沈黙していたかと思うと、彼は疲れたような声でこう呟いた。


「……あまり思い出したくないので、黙秘します」

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