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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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75話

「さて、それでは急いでここを離れるとしましょう」


 完全に台詞が滑ったことを悟ったクーデルスは、咳払いをすると突然そんな事を言い出した。

 そして返事を待つことすらせずに、早足で出口に向かって歩き始める。


「なんで急ぐの?」

 疑問に思ったモラルが背後から尋ねると、クーデルスは振り向きもせずにこう答えた。


「私の知っているフィドゥシアさんなら、今ごろはこの場所めがけて戦略級の大魔術を唱えている頃です。

 たぶん、ここにいたら彼女が得意とする爆炎の魔術でダンジョンごと消し飛ばされますよ」

「そういう事は早く言え!!」


 そのとんでもない告白に、モラルとベラトールの叫びが重なった。

 いくら彼らが神とはいえ、四天王一柱である西の魔王が全力で唱える魔術を喰らえばただではすまない。

 流石に死にはしないだろうが、数年単位で眠りに付く必要が発生する可能性はあるだろう。


 いや、驚いている暇は無い。

 なぜなら……彼らが叫ぶよりも早く、天井からキリキリと何かを強い力で引き絞るような音がしはじめたのである。

 そしてその音の源を探ってモラルが上を見上げた瞬間であった。


「ちょっと、天井が落ちて来ている!!」

「吊り天井だ! なんて古典的なトラップを!!」

 すかさずベラトールが氷の柱を幾つも作り、落ちて来る天井の動きを止める。

 だが、よほど強い力が働いているのであろう。

 ベラトールが作った氷がピシピシと悲鳴のような音を立てはじめた。


「くっ、長くはもたんぞ。

 このダンジョン自体に妙な力場が生まれているようだ。 私の魔術が上手く働いていない」

「ははは、さすがフィドゥシアさん。 基本を押えてますねぇ」

「何の基本だ!! ふざけている場合か!」


 クーデルスとベラトールがいつものように言い争いをしていると、彼らを無視して走り出したモラルが部屋の出口にたどりつく。

 だが……。


「ちょっと、ドアが開かないんですけど!!」

 ボス部屋用の重厚な装飾が施された扉は、押しても引いてもガタガタと音がするだけで一向に開かない。

 どうやら鍵がかかっているようである。


「ははは、あのフィドゥシアさんがおとなしく逃がしてくれるはずないじゃないですか。

 どうやら、ダンジョンのトラップを復活させて配置しなおしたようですね。

 たぶん、転移魔術も封じられていますよ?」


「なんだと!? おい、おちついている場合か!!」

 声を荒げながら、ベラトールがクーデルスの胸倉を掴んで締め上げる。


「邪魔よ。 切り刻んであげるわ」

 その間にも、モラルが水の魔術を扉にぶつけようとするのだが……。


「えっ、うそ! 魔術障壁!?」

 彼女の魔術に反応して、扉の表面の模様が光り輝く。

 そしてモラルの放った水の刃が、壁の表面で跳ねて周囲に飛び散った。


「ちっ、面倒な!!」

 石でできた床や天井がバターのようにスッパリと切り刻まれる。

 おそらく直撃すれば小さな家ぐらいは真っ二つに切り裂かれるであろう切れ味だ。

 幸い、モラルに向かって跳ね返った水の刃は、ベラトールの作った氷の壁に阻まれる。


「なにこれ!? この扉……とんでもない魔力で護られているんですけど!!」

 扉は大きな傷がついたものの、一級神であるモラルの放った魔術に耐えるなど、ただ事ではない。


「どうやら、先ほど溶かした壁の瓦礫をさらに回収し、そのまま扉の強化に流用しているようだな。

 チッ、こいつを破壊するような魔術を使えば、そのままダンジョンが崩れて生き埋めになるぞ」


 ベラトールが障壁の正体とその強度を素早く計算し、舌打ちしながらそんな台詞を呟く。

 強固な扉の正体は、リサイクルの更なるリサイクルと言う、まさかの展開であった。

 同時にベラトールはその拳を扉の弱い部分に叩き込むが、金属で出来たその扉は軽くへこむぐらいで、一向に開く気配はなかった。


「ちょっとクーデルス! この事態を予想していたならば、なんか手は打ってあるんでしょ!?」


 モラルが期待をこめてクーデルスを振り返るが、こともあろうか彼はヒョイと肩を竦める。


「いやぁ、まさか彼女が直々に出てくるとは思ってませんでしたので。 ノープランです。

 せいぜいフィドゥシアさんの側近程度までしか出てこないと思っていたんですがねぇ。

 そぉい!」


 そんな台詞と共に、クーデルスはベラトールの一撃にあわせて扉を蹴り付ける。

 さすがに半竜半魔と半竜半神の二人がかりの怪力には耐え切れなかったのか、ガコンと重い音とたてて扉はひしゃげて通路の向こうに倒れた。


 だが、その瞬間である。

 扉の向こうに仕掛けられた罠が反応してヒュンと音を立てながら何かが飛んできた。


 ――毒矢だ。

 おそらく扉を開けた瞬間、光か何かに反応し、発動する仕掛けになっていたのだろう。

 ドアが開いて安心した瞬間を狙った、実に陰険な罠である。


 しかし、フンとベラトールが鼻を鳴らしながら前に出ると、その肉球のついた腕を振りかざし、その飛来物をあっけなく叩き落した。

 矢の先端に付着した粘液が、床の上でベシャッといやらしい音を立てる。


「この馬鹿弟が。 だったら、意味もなく相手を煽り立てたりせず、もう少し対応を考えろ!

 ……まったく、おかげさまで余計な手間が増えたわ!!」

「いやぁ、売り言葉に買い言葉と言う奴でしょう。 あれは仕方が無いのです」

「人事みたいに言うな! この脳みそお花畑! ……ん?」


 そういいながら廊下に出た瞬間、カチッと床から音がした。

 見れば、ベラトールの足元の床が僅かにへこんでいる。


「あ、これはたぶん不味いですね」

「ちょっと、今度は何なのよ!!」


 モラルが叫ぶと同時に、ピシリと天井から音が響き、パラパラと砂粒が落ちてきた。

 同時に、床にも亀裂が走り始める。


「これは、アレですね。 このフロアが崩落する罠と言う奴でしょう」

「悠長に解説している場合か! 走れぇぇぇぇぇぇっ!!」

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