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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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72話

 その頃、ダンジョンの最深部ではかなり切羽詰った状況が展開されていた。


「何をしている! さっさと扉を開けろ!!」

「無理です! 扉が強い魔力を帯びていて……」

「それは何度も聞いた!

 えぇい、無能め! 私がほしいのは泣き言じゃなくて扉を開ける方法だ!!」

そんな激しい罵声を振りまいているのは、このダンジョンのダンジョンマスターであろう。


「わかっているのか!? このバカみたいな魔力のせいでダンジョンの機能の一部がおかしくなって、空調設備の魔術が働いていないんだぞ?

 早く解決しろ! でなきゃ、私もお前も窒息するぞ!!」


「うるせぇ! もぉ、テメェにはうんざりだ!!

 こんな次元の違う魔力を帯びた代物、どうしろっていうんだよ!!」


「人に押し付けてないで自分でやりやがれ! 責任者だろうが!!」


 瓦礫の向こうで繰り広げられている修羅場のやり取りに、クーデルスは懐からハンカチを取り出して目元をぬぐった。


「悲しいですねぇ、無能を上司に持った部下は」


 とても修羅場を作り出した張本人とは思えない台詞だが、これで紛れも無く本心なのだからいろいろとおかしい。

 そしてそんなクーデルスの言葉に、ベラトールもまた腕を組んだまま頷く。


「全くだ。 この程度の問題すら打開できなくてダンジョンマスターとはな」

 ……といった感じで、こちらも容赦は無い。


「ふぅん、ちなみに君たちだったらどうするの?」

 好奇心が疼いたのか、そんな風にモラルが尋ねると、奇しくも二人は同時に同じ言葉を口にした。


「反対側のダンジョンの壁に穴を開けて、新しい通路を作る」


 そう、ダンジョンの機能の一部はおかしくなっているが、その全てが使えないわけでは無い。

 クーデルスが見た限りでは、おかしくなっているのはダンジョンコアから制御機能が独立している空調と情報伝達機能ぐらいか?


 おそらくダンジョンコアが破壊されたり機能に異常が発生したときのためにこのような構造になっているのだろうが、今回はそれが裏目にでた感じだ。

 つまり、ダンジョンの構造を変化させるダンジョンコアの機能は全くの無傷なのである。


 だが、その台詞を口にした次の瞬間、クーデルスとベラトールは視線を合わせ、不機嫌そうに鼻息を鳴らしながらそっぽを向いた。


「あらあら、仲がよろしいのね」

「……偶然です」

「ただの錯覚だ」


 からかうようなモラルの台詞に、男二人はかなりいやそうな顔をする。

 お互いに顔色がわかりにくいのではっきりしないが、おそらく半分ぐらいは照れが入っているに違いない。

 三人の間に、なんともいえない奇妙な空気が流れた。


 そんな空気を払拭するように、クーデルスが口を開く。


「まぁ、少なくともここにいるのはただの下っ端だという事はわかりました」

「そうだな。 この程度のヤツに我々を出し抜くような盗聴網は構築できない」


 続いてベラトールが私見を呟くと、その言葉にモラルもまた頷いた。


「それに関しては同感ね。 じゃあ、そろそろ部屋に入りましょうか」


 そう告げると、モラルがパチンと指を鳴らす。

 すると、あれほどダンジョンマスターたちを嘆かせていた瓦礫が、全て水となって溶け落ちた。

 そして、間髪を要れずモラルは大きくドアを開け放つ。


「はぁい、みなさん。 お・ま・た・せ! モラルちゃんですよー!」

 わざと大きな声を上げて中に入ると、そこには三人の魔族が取っ組み合いの喧嘩を行っていた。

 突然の進入者に、三人は大きく目を見開いてしばし固まる。


「な、なんだお前はぁぁぁぁっ!!」

「ひぃぃぃっ、どうやって入ってきたぁっ!?」


 驚いて叫び声をあげる魔族たちの声を聞きながら、クーデルスとベラトールもまたその巨体を部屋の中に滑り込ませた。


「別に名乗るほどの者ではありません。 ただの神々と魔王です。

 ちょっと貴方たちのやっている事が邪魔なのでお話をさせてもらいに来ました」


 にこやかな声と笑顔だが、おそらく目は笑っていない。

 全身から黒いオーラが漂っていそうな胡散臭さに、三人の魔族は思わずのけぞった。

 だが、そのさらに後ろにいる人物に気づいた瞬間、彼らの命運がすでに尽きていることに気づく。


「き、貴様はベラトール!? なぜお前がここにいる!!」

「誰が我が名を呼ぶことを許した? 無礼者め」

 ベラトールが不機嫌そうにそう言い放った瞬間、魔族三人は氷の柱に閉じ込められた。

 止める暇も無い早業だ。


「おやまぁ、アッサリ片付けてしまいましたね。 もう少し遊んで差し上げてもよろしかったのでは?

 私も彼らと少しお話をしたかったですし」

「シロクマってば、短気すぎ」


 肩を竦めるクーデルスに、モラルもまた同意を示す。

 おそらくは半ば反射的に氷漬けにしたのに違いない。

 この気の短さは、明らかにベラトールの欠点であった。


「そんな無駄なことをする趣味は無い。 とっとと連れ帰って尋問するぞ」

「相変わらず面白みの無い方ですねぇ。

 あと、尋問すら無駄ですよ。 もっとスマートな手段があります」


 そう告げながら、クーデルスは部屋の奥にあった魔法陣に手を伸ばす。


「あー モラルさん、ベラトールさん、少し魔力を抑えてください。

 魔法陣がショートして使い物にならないようです」

「何なの、それ?」


 クーデルスがいじくっている魔法陣を覗き込み、モラルが首をかしげる。

 

「ふむ、見たところ通信用の魔法陣だな」

 さすがにベラトールはおおよその機能を見抜いたようだが、その彼をもってしても使い方まではよくわからなかった。


「魔族の国の一部で発達した通信用の魔法陣ですよ。

 ふむ、ちゃんと機能しているようですね。

 さてと……せっかくですから黒幕の方ともお話をさせていただきましょうか」


 その台詞と同時に、ブゥンと音を立てて魔法陣が青い光を放つ。

 ほどなくして、魔法陣の上に一人の女性の姿が映りこんだ。


「あら……定期連絡はまだ先の予定だったはずよ。

 何か問題でも起きたのかしら?」


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