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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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67話

「やっほー 呼ばれてきちゃった」

「この私をこのようなところに呼び出すとは不遜なやつめ」


 モラルとベラトールがやってきたのは、ほぼ同時であった。

 互いの従者たちが宿の前で鉢合わせし、微妙な緊張感を作り出す。


 ……そもそも、この両者を一般人が利用するような宿に呼び寄せる段階で色々とダメなのだが、上級レベルの神や四天王クラスの魔王といったやんごとなき方々にとっては人間ごときの価値観での格などさしたる問題では無いようだ。

 とりあえず、不潔でさえなければ良いらしい。


 なお、当然ながら宿の客はすでに逃げ出し、完全に貸切状態である。

 とても迷惑な連中だ。


「やぁ、ご足労いただいてすいませんねぇ。 なにぶん、苦手分野の事でして」

 クーデルスの緊張感の無い声が出迎えると、ベラトールが一歩前に出た。


「まぁ、いい。 裏で動き回っている連中の目と耳については私も気になっていたところだ」

「ほんと、いやらしい連中よねぇ」

 ベラトールに続いて入ってきたモラルも、眉をひそめながらその意見に同意を示す。


「私も色々と調べてはみたのですが、どうにもうまく行かないんですよね」

 ガランとした店内の真ん中の席へと彼らを案内しながら、クーデルスは一人愚痴をこぼすのだが、そもそも盗聴などの魔術は彼の得意分野ではない。


「でも、ある程度の絞込みは出来ているんでしょ?」

 店の床に目を落としつつ、モラルが呟く。

 そんな彼女の目には、通常の目では見えないように刻まれている防諜用の魔法陣が映っていた。


 もっとも、それで敵の目と耳を潰せるとはクーデルスも思っていない。

 だが、逆に通常の方法では盗聴が出来ないため、相手の手段の絞込みの役にはたつのだ。


「まぁ、多少は……ですがね。

 少なくとも、連中が四六時中、どこにいても見張っているということではないところまではわかっています」


 そういいながら、クーデルスは彼らの目の前で大きな紙を広げた。

 そして万年筆をインクに浸し、なにやら文字を書き始める。


「つまり、敵がこちらを探る方法には何らかの条件があると?」

「その通りですよ、ベラトールさん。 けれど、その条件がよくわからないのです」


 逆にそこまでわかっているならば、あとはしらみつぶしに条件を探るだけだ。

 

「おそらくだが……何かの触媒だな。

 自然に漂う魔力にまぎれるような、とてつもなく微弱な魔力しかもっていない、そしてどこにあってもおかしく無いような代物を媒介にすれば、我々の眼を欺いて探りを入れる事も可能だろう」

「そうね、逆に言うとそれぐらいしか方法は無いわ」

「ですが、その触媒が何であるかが問題ですね。

 もしかしたら、目に見えないほど小さかったりするかもしれません」


 だが、虫などであれば、生命の魔術に長けたクーデルスの目をごまかすことは出来ないだろう。

 水滴などが触媒であれば、ベラトールやモラルにわからないはずもない。


 かといって大気の魔術であれば、それこそ対となる地の魔術で防ぐ事が可能である。

 残りは火と地の魔術であるが、少なくともこの二つの魔術は諜報の魔術には向いていない。

 なかでも火の魔術はこの手の応用がほとんどきかない属性であった。


 となれば、おそらくは地の魔術に属する触媒を用いた方法。

 クーデルスがそこまで絞り込むのに、さほど時間はかからなかった。


「話はかわりますが……触媒についての調査はすぐに結果を出せないでしょう。

 なので、まずは一般人であるアモエナさんとドルチェス夫妻の安全を確保したいのです」

「なら、良い場所がある」

 提案してきたのは、意外なことにベラトールであった。


「我が聖獣フォルンヨートの背中につけている水中宮殿はどうだ?

 お前が頭を下げるなら提供してやらんでもない」


 最後の部分にわざと偉そうな声色を使うと、ベラトールは見下すような視線をクーデルスに投げる。

 だが、クーデルスの対応はアッサリとしたものであった。


「では、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「……あっさりと頭を下げおって」


 さも、つまらないといわんばかりに鼻を鳴らすと、ベラトールはクーデルスから視線をずらす。

 おそらくは、自分の作り出した気まずい空気に耐えられないのだ。

 そんな不恰好なありさまに、モラルが横でクスリと笑う。


「好きでやっているわけじゃないですよ?

 ただ、自分にとっての大事なものがはっきりとしているだけです」


 すこしふてくされたようにそんな事を呟くクーデルスへと、ベラトールは珍獣でも見るような視線を向ける。


「……昔の貴様なら、絶対に嫌だといって自分でどうにかしようとしたものなのだがな」

「私だって、いつまでも子供ではいられませんからね。

 護りたいものが出来れば、いやでも成長せざるをえないのですよ」


 だが、その言葉はベラトールのお気に召さなかったらしい。

 シロクマの眉間に深い皺が刻まれる。


「護りたいものが無い私には、心の成長は無いとでもいいたいのか?」

「それは貴方が自分で思っていることでしょ?

 勝手な解釈をして人が悪口を言ったように言わないでください」


 そう言い返されたベラトールは、なぜかむっつりと黙り込んだ。

 その目が少しだけ寂しげに見えたのが、ただの錯覚だったのかは定かでは無い。 

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