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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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51話

「貴方がクーデルスか」


 そんな台詞共にやってきたのは、一人の女騎士であった。

 後ろには申しわけなさそうな顔をしたドルチェスがいて、クーデルスが責めるような視線を飛ばすとガックリと肩を落とす。


 ――女騎士とは意外でしたが、とりあえず目の保養ではありますね。

 すくなくとも、むさくるしい男性の騎士と交渉するよりは気分的にマシである。


 すかさず女騎士のスリーサイズを鑑定して満足すると、話し合いをするためにクーデルスは向かいの席を勧めた。

 だが、その女騎士は返事もせずに立ったままこう言い放ったのである。


「単刀直入に言おう。 貴方の配下にある兵士を貸していただく」

「お断りします。 言葉遣いから勉強しなおして、出直してらっしゃい」


 ある意味これも阿吽の呼吸と言うべきか。

 互いの言い分を伝えた瞬間、お互いの額に青筋が浮かび上がる。


 無理も無い。

 クーデルスからすれば論外な要求であるし、女騎士からすれば信じられない無礼な態度だ。


「なんだと!? 貴様、この未曾有の危機に出し惜しみをするというのか!?」


 すかさず大義名分を振りかざしてきた女騎士だが、クーデルスは肩を竦めて鼻で笑う。


「危機に瀕しているのはあなた方でしょ? 私達はすぐにこの街を出て行きますので、どうぞお構いなく」


 基本的に女性に対しては気持ちが悪いぐらい優しいクーデルスだが、初対面の相手にここまで傍若無人な態度を取られると塩対応を取らざるを得ない。

 ドルチェスに視線を送ると、彼もまた頷いて同意を示した。


 すると、目の前の女騎士の顔色が目に見えて青褪める。

 どうやら、この手の交渉にはあまりなれていないらしい。


「そ、それは困る!!」

「私達は全く困りません」


 動揺して言ってはならない言葉を口にしてしまった女騎士を、すかさず言葉で切り捨てたクーデルス。

 だが、女騎士の様子がなにやらおかしい。

 どうやら追い詰めすぎたようである。

 彼女は、光の消えた目でボソリと呟いた。


「こうなったら、力づくでも……」


 おそらく誰かを人質にでも取るつもりなのかもしれないが、クーデルスの目の前でそんな事ができるはずも無い。

 女騎士を取り押さえるのはたやすいことだろう。

 だが、暴力を好まないクーデルスは別の方法で彼女を無力化する事にした。


「そもそも気になっているのですが、この街には水神の加護があるのになぜスタンピードを恐れるのです?」

「そ、それは……」


 クーデルスがずっと気になっていたことを口にしたその瞬間、女騎士の目が言い訳を探すようにゆれた。

 ――あぁ、これは何かあるな。

 クーデルスが確信したその瞬間、ドルチェスが身を乗り出す。


「それについては私が」


 すると、女騎士がものすごい形相でドルチェスをにらみつけた。

 よほど知られたく無い事があるらしい。


「おぉ、そんな怖い顔で睨まないでください。

 どうせ調べればすぐわかる話じゃないですか」

 今にも掴みかかってきそうな女騎士を、ドルチェスはクーデルス並みに胡散臭い笑みで牽制する。

 

「遊んでないで早く聞かせてくださいよ、ドルチェスさん」

「あぁ、すいませんクーデルスさん。

 先ほど酒場で聞いてきた話をまとめるとですね。

 どうも、この街の新しい領主と神官たちが、仲たがいをしているようです」


 クーデルスに促され、ドルチェスはその内容を短的にまとめて口にする。


「この状況で権力争いですか? 暢気な方々ですねぇ」


 クーデルスが呆れたような声を上げると、女騎士が再び(まなじり)を吊り上げた。


「暢気だと!? お前に何がわかる!!

 あれは、この街の神官が分をわきまえない振る舞いをしたからだ!

 今まで、私達がどれだけ不当にあの神官共に搾取されてきたか!!」


 それこそ、旅人であるクーデルスにとっては知ったことではないのだが、自分の不幸に酔った連中というのは往々にして自分に正義があると信じて疑わないものである。

 そして、それを聞かされる無関係な人間がうんざりとするのもお約束だ。


「あぁ、ベラトールさん……じゃなくてベラトール神は、政治的なことにまったく興味の無い方ですからねぇ。

 おおかた、教団の運営を丸投げしたあげくに腐敗したといった感じでしょうか。

 つい先日もよく似た案件に振り回されたばかりだというのに……神々の怠慢にも困ったものです」


 こうも頻繁に宗教関係の問題が発生するとは神々も落ちたものだと思ったが、すぐに昔も似たようなものであったことを思い出した。

 たぶん、神々の管理に問題があるというよりは、人間と言う生き物が神の代理が勤まるような器では無いということだろう。


「知ったようなことを……いいか、我々にはベラトールよりも高位の女神がついている。

 おとなしく従うなら今のうちだぞ!」

「だったら、人の処の兵士などに色気を出さないで、その女神様に頼めばいいじゃないですか」


 ついに他の神の存在まで持ち出してきた女騎士だが、語るに落ちたとはまさにこのことだ。

 なぜなら、この現状が頼みの綱である女神にも見捨てられたことを如実に物語っているからである。


「う、うぐぐぐぐ……あぁいえば、こう言いおって……騎士である私を愚弄するとは、それなりの覚悟はあるのだろうな!」

「はぁ……愚弄するつもりじゃなくて、貴女が頭の悪いことばかり言うから悪いのです」


 やるかたなしといわんばかりにクーデルスがため息をつくと、女騎士は言葉を失ってワナワナと震えだした。


「憶えているがいい! このままではすまさんからなっ!!」

 そしてビシッとクーデルスに指を突きつけると、コレでもかといわんばかりに定まりきった負け犬の遠吠えを吐き捨て、乱暴な足取りでその場を立ち去ったのである。


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