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お花畑の魔王様  作者: 卯堂 成隆
捩花 : 人の子よ、その身に余る喜びよ
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11話

「まず最初に残念なお知らせを伝えなくてはなりません。

 この街は、大地の怒りをかったため、呪われてしまいました」

「何……だと!?」


 怪人の台詞に、領主は一瞬で我に返った。

 大地の怒りを買うなど、彼にはまるで心当たりが無い。

 いったいなぜそんな恐ろしいことになったのか?


 そんな領主に、怪人は優しい声で語りかける。


「貴方が悪いのではありません。 悪いのは商人たちですから。

 大地の恵みである作物を私物化し、民衆を困らせ、私腹を肥やす……という大地の徳を汚す行いが、大いなる存在の怒りに触れたのです」


 確かにそれは大地を司る者たちの怒りを買うには十分だろう。

 だが……。


「そんな! それは一部の人間の仕業であって、この街の住人の大半は関係ないじゃないか!!」


 大地から呪いを受けてしまえば、この地で作物を育てる事はまずできない。

 そんな事になれば結果的に食料は高騰し、今苦しんでいる者たちがさらに苦しむことになるはずだ。

 ……あまりにも惨い話である。


 領主が理不尽を訴えると、怪人は大きく頷いた。


「その通りです。 ですので、大地の神々はその元凶である富裕層のみを懲らしめる呪いをかけたのです」

「いったいどんな呪いが!?」


 内容によっては、その余波が自分たちにまで届いてしまうかもしれない。

 そんな不安を打ち消すように、怪人はその奇妙な呪いについて語りだす。


「欲深い者への罰として、大地の神々は富の象徴である胡椒を禁じました。

 この街を中心に、馬車で一月の範囲内にある胡椒は、全て芽吹いて売り物にならなくなります。

 今後も、この領域の中に入った胡椒は全て同じ事になるでしょう」


 そんな内容に、領主はホッと胸をなでおろす。

 罰の対象が胡椒だけなら、そんな高級なものは庶民に全く影響を与えないからだ。

 

 安堵の表情を見せる領主だが、怪人は不意にパチンと指を鳴らした。

 すると、ドカッと音を立てて大きな木箱がどこからとも無く現れる。


 そして怪人はその木箱のふたを開けると、その中身を領主たちに差し出した。


「さて。 ここに、芽吹いていない黒胡椒があります。

 妖精の取り決めで、無償で助ける事はできませんから、貴方はこれを買い取ってください。

 それを強欲な商人に売りつけることで、借金を全て帳消しにするのです」


 たしかに、これだけの胡椒を売りさばけば借金を全て支払っても半分以上が資金として残るだろう。

 だが、本当に良いのだろうか? 話が上手すぎはしないだろうか?


 しかし、考えてもキリが無い。

 この怪人が何かこちらを騙そうとしていたとしても、見抜いたり出し抜いたりする自信はなかった。

 それに、下手に断ってこの怪人を怒らせでもしたら、今度こそこの場で挽肉にされるかもしれない。

 ここは素直に言葉を受け入れるのが得策だろう。


 だが、その前に一つ問題があった。

 先立つものが……という奴である。


「い、いったいどのぐらいの価格で買えばよいのでしょう……」

 途中で声がかすれてしまったのも無理は無い。

 買い取るといっても、彼が今支払える金額では、通常の相場でも黒胡椒ひとにぎり程度が買えるかどうかもわからない。


 だが、怪人は仮面の下で微笑むと、何でもないように告げた。


「貴方の払えるだけの値段でかまいませんよ。 それでこの一箱の胡椒を全て差し上げましょう」

「とは言っても、なにぶん手持ち不如意で……私が自由に出来るのは、せいぜい自分の小遣い程度しかないのです」

「それで十分です。 踊り子の衣装ならこのぐらいで……じゃなくて、えー、おほん。

 金銭の大小ではなく、貴方の気持ちが大事なのです」

 何かおかしなことを口走りかけたが、怪人は横に一歩踏み出して領主に場所を譲り、同時に護衛たちの束縛も解く。


「さぁ、契約は成立しました。 この黒胡椒は全て貴方のものです」

「……おお!!」


 これだけの胡椒があれば、自由になれる!

 いや、他の胡椒が芽吹いて売り物にならなくなった今ならば、商人たちに売りつけた金で民にももっと良い暮らしをさせる事が出来るかもしれない!


「お金が余ったならば、公共事業に投資すると良いでしょう。

 防壁の弱った部分を修復し、冒険者ギルドに依頼して周辺の魔物を狩るのです。

 そして民に仕事を与えるのが最善である……まぁ、こんな事ぐらいは貴方もわかっているでしょうから、これ以上の細かい事はいいません。

 出来れば、福祉のほうにも目をかけてあげてくださいね」


 妖精という浮世離れした存在にしては妙に現実的なアドバイスだが、そこは誰も深く突っ込まない。

 機嫌を損ねても、おそらく何も良い事はないからだ。


「ありがたい! 妖精モンテスQよ、感謝する!!」


 改めて謝罪を口にする領主だが、怪人は小さく首を横に振った。


「いえ、その言葉を口にするにはまだ早いといっておきましょう。

 なぜならば、私にはまだなすべき事が残っているからです」

「なすべきこと?」


 その疑問に、怪人は両手を広げて告げた。


「貴方に伝え、そして見せなければならない事があります。

 胡椒を屋敷の中に運び込んだら、私の後についてきなさい」

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