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キメラさんは穏やかに暮らしたい  作者: くろごけぐも
9/11

腹が減っては何とやら

 「だぁーっ!つっかれたぁー!」


 周りから人がいなくなったのを確認すると同時に、全身を伸ばし凝り固まった体をほぐす。自己紹介開始から2時間は経っただろうか。途中からの質問攻めで喉がかなり熱を持っている。


 「お疲れ様です」


 苦笑いをしながら薄紫髪のメイドが声をかけてきた。たしか、名前はカチュアだったか。先ほどの自己紹介ではネロの助手と言い張っていた。


 「皆さん新しい仲間が増えて嬉しいんですよ」


 そういいながら、緑の液体が注がれたコップを差し出す。ミニスカメイドなので屈むと下着が見えそうになっている。後ろに立つ奴はドキドキだろう。

 ひとまず受け取った液体を喉に流し込む。軽い苦みにほんのりとした甘み。緑茶だ。この世界にもあるのか。


 「確かに、基本的に少年少女だからな。多感な時期だし閉鎖環境もある。好奇心も人一倍なんだろう」


 驚いたことに、生徒たちの中で最年長がセレスとローゼリアの二人だった。この2人が元の世界では中学生高学年から高校生程度。ほかの生徒たちは大体が小学生から中学生低学年だった。

 あくまで種族の年齢を人間に置き換えた場合ではあるが、クリムトすら実は小学生ぐらいだと知ったとき、かなり驚いた。あの図体でまだ成長期とは、いずれは4~5mを超える巨体になりそうだ。


 「森の中は危険ですからね。何人かは戦うすべを持っているとはいえ、基本的に子供たちは立ち入り禁止になってます。それもあの子たちの好奇心に一役買っているんでしょうね」


 困り顔を浮かべながら、相槌を打ってくる。見た目は美人、というより可愛らしい顔立ちにツインテールと、元の世界ではかなり需要がありそうなメイド。そんな彼女だが左右のふとももに括り付けられている大型狩猟ナイフで台無しにしている。それさえなければかなりモテそうだなぁ。

 そんなことを考えながら、2人で軽く話す。生徒たちより少しだけ年上の彼女は、他の子どものお姉さん的役割もしているらしい。そんな彼女からしたら、新入りである俺は放っておけないようである。外見は一桁少女だし仕方ない。下手したら幼女だし。


 「そういえば、そろそろお昼時ですね」


 そういって、どこからかバスケットを取り出し広げだす。一緒に食べましょう。という事らしい。中には美味しそうなバケットが詰まっている。

 その光景をぼんやり見つめ、昨日から一切食事をとっていないことに気付いた。

 不思議なことにまったく空腹感がない。バケットを見ながら美味しそうだなと感じるあたり、食欲自体はあるようだ。

 とりあえず、食い扶持すらろくに確保していなかったのでネロを探しに行くことにする。今は平気だが、いつ空腹で倒れるか分からない。そうなる前に、最低限の食事を確保しておかねば。そう判断して、「ネロを探す」とだけ伝えて席を立つ。

 案外早くネロは見つかった。集落の中央あたりでなにやら話し込んでいるようだ。邪魔するのも悪いと思って少し遠巻きに見ていたら、視線がぶつかった。なにやら周りに伝えてからこちらに寄ってくる。


 「話し合いはいいのか?」


 「井戸端会議のようなものだからね。少しの間抜けても問題ない。ところで、わざわざどうしたんだい?」


 どうやらわざわざ抜けてきてくれたようだ。少しだけ申し訳ないと思いつつも切り出す。


 「どうやって食い扶持を得ればいいんだ?」


 「あ!」


 忘れてたって顔しやがった。少し前の申し訳なさを覚えた自分に言い聞かせたい。コイツには一切遠慮する必要はない。これからはかけるだけの迷惑をかけてやる。


 「えっと、その身体は基本的に食事を必要としないから忘れてたんだよ。食事は肉体の欠損を補うための材料補填と趣味の範囲なんだ。だから気にしなくてもいいし、料理がしたければ私の家の調理場は自由に使ってもらって構わない」


 つまり自分で作れという事か。最初っからそこまで頼る気はなかったのである意味丁度いい。しかしそうなると別の問題も出てくる。食材をどうするかだ。とりあえず聞いてみる。


 「ナツメなら森の中で狩ってきても問題ないよ。呼び止められても私の許可があるといえば自由に入れる。お肉とかは割と需要があるから、ジャイアントリザードの1~2匹ぐらい仕留めてきてくれれば、みんなほかの食材と交換してくれる」


 「鱗とか牙も加工すれば色々使えるからね」と言いながら、特徴を教えてくれる。うん。昨日殴り倒したトカゲだ。そうと知ってれば持ち帰ってたのに、と少し残念な気持ちになった。


 「ついでに手が空いてるときは他の動物を狩ったり、木の実を集めたりしてくれるといろいろ助かるな。ついでに、実際に動き回って身体の感覚を掴む練習にもなるし」


 そういいながら、俺の額に人差し指を当てる。一瞬眩暈がしたのち、知らない知識が流れ込んでくる。


 「近場で出てくる動物と、需要がある植物の情報だけ入れておいたよ。注意点はここから離れすぎないこと。日が暮れる前に帰ってくること。離れすぎると冗談抜きに危ない魔物とかに遭遇するからね。竜とか。日が暮れてもアンデッドの動きが活発化するからあんまりよくないね」


 そう伝えて、指を離す。インストールは2回目だけど1回目ほど負担はなかった。慣れたとしたら嫌な慣れだ。いつか乗っ取られそうだ。耐性つける訓練とかないかな。


 「洗脳系や催眠系の対策は、思考を分割して常に自分のステータスを監視させるのが一番簡単だよ」


 心を読んだようにアドバイスが飛ぶ。うん。そんなんだから不安になるんだよ。

 

 「まぁいいや。それじゃぁ今から何か狩ってくる」


 そう伝えて踵を返す。一応カチュアにも伝えてから出かけることにする。一緒に食事は別の機会にする。少し残念に思いながら歩みを進める。その判断を後悔するのは、すぐ後だった。

 

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