交流会
「…お嫁にいけません」
そういってセレスが俯いている。確かに中学生ぐらいの年齢でおもらしは恥ずかしい。でも、それよりも思いっきりかけられた俺はもっとひどい目にあってるんですが。まぁ、着替えたんですけどね。
「まぁ、セレスさんのおもらしは置いておきましょう」
「ひどい!」
「では、掘り下げましょうか?」
「それも嫌!!」
涙目になってエリスが叫ぶ。どうしろというのだ。いや、どうしようもないから話を進めるか。
「まったくやれやれですわ。では、改めて自己紹介させていただきます。わたくし、吸血種のローザリア・クルースニクと申します。以後お見知りおきを」
そういって、スカートのすそを摘まみながらお辞儀する。どこぞやのご令嬢のような動きだ。
やんごとなき出自だったらなにか怖いので一応確認を取ることにする。
「ご丁寧にどうも。ちなみに何か高貴な出自とかですか?」
「いいえ? 吸血種はこういったものだとお母さまから教わりましたの。何か変でしょうか?」
「一般的な吸血種とか知らんからわからん。ただ、元の世界ではお嬢様とかが使う挨拶だったから気になっただけだ」
そういえば吸血鬼の元ネタになった人たちは大半が貴族や騎士階級だったか。そう考えると吸血鬼は身分が高い傾向にあるかもしれない。この世界でそれが適応されるかはまた別の話だが。
「そういえば転生者でしたわね」
納得したように頷く。
「ご安心ください。わたくしは普通の吸血種ですわ。蝙蝠に分裂したり、棺桶で寝たり、怪物に変身したり、石仮面を被ったり、ビームを出したりはいたしません。あんなのは一部の変態だけですわ」
「そうなn…いや!前半はともかく後半は一般的なイメージですらねぇよ!というか一部にそんなのいるのか!」
いったい吸血種ってなんだ。
「え?異世界の一般的な吸血種とは、夜行性で、陽の光に弱くて、泳げなくて、棺桶で寝て、変身能力があって、他種族が石仮面で変化して、数人で合体して空を飛びビームを放つのですよね?」
心底驚いた顔で見つめてくる。誰だよそんな知識を与えたやつ。中途半端に合ってるのが余計にひどい。とりあえず間違った部分は訂正しておく。外人がイメージする忍者ぐらい別物だ。
「///は、恥ずかしい…今まで勘違いしてたなんて…」
真っ赤になった顔を隠す。肌が白いので余計に赤が目立つ。普通はこんな嘘信じないぞ。なかなかに微笑ましい子だ。将来が心配で仕方ない。そんなローザリアを立ち直ったセレスがからかう。
「ローザはちょろいですから。もっと疑らないとすぐ騙されますよ」
「そうですわね!もっと疑ってかからないといけません!」
ふんすっ!と音が聞こえそうなぐらいに気合を入れる。なんというか、悪い子ではないんだけど残念な感じがする。素直なんだろうけど、どこかズレてるような感じだ。なんというか、放っておけない感がすごい。悪い意味で。
「す、スミマセン…ナツメ…さん…」
兄か姉か、はたまた親心か、経験がない奇妙な感覚に頭を悩ませているとふいに声がかけられた。
「ボク、はクリムト、と言います。混血種、です。昨日、は急に声をかけて、ごめんなさい」
そう言って、馬顔の巨体がペコリと頭を下げる。そういえば、昨日こいつに声をかけられたんだっけか。
「いや、俺こそ急に逃げてすまない。話の流れでネロの言葉に釣られた奴らかと思ってしまった。許してほしい」
そういって頭を下げ返す。大体ネロが悪い。
「お、怒ってませんか?嫌わないでくれますか?」
「いや、昨日は話を聞かなかった俺が悪かったんだ。怒られたり、嫌われたりは俺のほうだと思う」
不意の質問にそう答えると、心底ほっとしたように胸をなでおろす。よくよく見れば、足元が震え、目元がうるんでいる。馬の表情なんて見たことがなかったが、クリムトはコイツで引っかかっていたようだ。
「よかったら、ボク、は、口下手だけど、困ったことがあったら、助けになるから、声をかけてほしい、です」
どうやらクリムトは、相当にお人よしのようだ。そういえば学生時代にも口下手で誤解を受けるやつがいた。そういうのに似ているかもしれない。俺は勉強ばっかりでほぼボッチだったから気にしたことはなかったが。
「そうだな。いろいろ分からないことだらけだから、何かあったら頼りにする」
そういって笑顔を向けクリムトの逞しい胸板に軽くこぶしと打ち付ける。確かクラスメイト達はこういうコミュニケーションをしていたはずだ。
「う、うん。任せて!」
力強く言い切ってくれた。まだ慣れてはいないようだが、これからの付き合いで改善されるだろう。むしろ元ボッチの俺がこういったコミュニケーションを取ろうというのが驚きだ。自分でも心境変化がよくわからない。
「さて、次は僕の番だね。名前はメナス。墓守種で特技は裁縫と穴掘り。あとは包帯を使った罠の設置だ。よろしく」
そういって全身に包帯を巻きつけた男(?)が声をかけてきた。よく見れば、彼の後ろにも何人か並び順番待ちをしている。ちなみに列はセレスとローザが仕切っている。いつのまに。
「ナツメだ。一応キメラらしい。何ができるかは分からないし、身体の制御すらままならない」
「うん。さっきから聞いていたけど、その姿と声でその口調は違和感がひどいね」
あまりにさっくりと言ってくるので、思わず面食らってしまう。
「見た目は何でこんなところにいるのか分からないぐらい美少女で、声もそれに合ったかわいい声だ。それなのに、言葉はぶっきらぼうで若干粗野。精神が男だって前もって聞いていても相当に違和感がすごいよ」
あきれたように言い放たれた。うん、知ってる。できるだけ自分の外見を意識しないで会話していたが、やはり違和感がすごいのか。というか、この世界の美的感覚でもやはりこの姿は美少女なのか。
「でしたら、このような口調で会話すればよろしいでしょうか?…すまん、無理。今の一言で自分で吐き気がする」
とりあえず、意識して口調を変えてみた。参考はローザリア。そして一瞬であきらめた。
「そっか。確かに他人がとやかくいう事じゃなかったね」
ごめんね。と言い残して歩いていく。なんというか、マイペースなやつだ。
「次はあたしだよ!フェザー・ガレット!翼腕種で特技は飛ぶことと歌うこと。趣味も飛ぶことと歌うこと。よろしくね!」
次はずいぶん元気な奴だ。そう思いながら列を眺める。長く続く列を眺め、まだ自己紹介は始まったばかりだとため息をついた。