プロローグ
コポポ…と音がする。
目が覚めれば、半透明な緑の液体の中で身体を浮かべていた。
軽く息を吐くと、ボコリと気泡になって浮かび上がる。
視線を上げてみれば、その先には人影が見えた。表情まではわからないが、女性のようだ。
なんとなく、寝ぼけ眼で人影を追う。なにやら慌てているようだが、いったいどうしたというのか。
…いや、なんで俺は謎の液体に浮いているんだ!
そもそも呼吸はどうなっている!
溺れる!?落ち着け、ヒー、ヒー、フー。うん。落ち着いた。どうやら呼吸は出来ているようだ。なぜだ!
俺はいつからエラ呼吸になった!?あれか?某魚人間とかの血が流れているのか?
鏡を見たらSAN値チェックですか!?
慌てて両手に視線を向ける。そこには鱗がびっしりとした腕…ではなく、普通の小さな手が付いていた。
(よかった…どうやら鏡を見るたびにSAN値を減らすような事態にはなってなか―へぶぅ」
いつの間にか始まっていた排水に気付かず、顔面から地面にダイブする羽目になるとは思わなかった。
痛む鼻頭を押さえつつ、再度視線を上げる。
クリアになった視線の先には、先ほどの人影らしき女性が立っている。
腰まで伸びた濡烏色のロングヘアー。
透き通るような白い肌。
小ぶりな輪郭に適度に配置されたパーツ。
深い紅色の瞳。
控えめに言っても恐ろしい美人である。黒のワンピースも恐ろしく似合っている。とりあえず黒姫さんと勝手に命名しよう。
「いや、驚いたな。完全に魂が混ざっている。キミ、私の言葉が理解できるかな?」
どうやら黒姫さんは割と電波なようだ。いきなり魂とか言い出しましたよ。
とりあえず、言葉はわかるけど首を傾げておこう。変に自己解釈されると嫌だし。
「ああ、理解というのは言語的な意味だ。ヒアリング。聞くことに対して不便はないか確認したい」
そう言って、微笑みながら再度問いかけてくる。条件反射で頷いてしまう。いや、こんな美人さんに微笑まれて嘘つくとか無理だろ。
「それは重畳。早速だが自己紹介してほしい。本来の性別や、生きていた世界についても、な」
そう言われて思い返す。いった自分は、何故ここにいるのか…。