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兄のメイドの手は懐かしい感じがするのです

大変お待たせして申し訳ありません…。

 私がアデイラ・マリカ・ドゥーガンとして目覚め、兄のリオネルに転生の秘密を暴露してから一ヶ月。


「……」


 兄に呼び出され向かった食糧庫の一角。いくつか重ねられた麻袋の一つを開けてみれば、そこには小粒ながらも楕円の真っ白な真珠が輝いてるではありませんか。

 これは紛う事なきもち米!


「アデイラが欲しいって言ってたのは、これで良かった?」


「はい! おにいさま、ありがとうございます!」


 喜色を満面に浮かべ、思わずリオネルに抱きついちゃいましたよ。


「ばっ……!」


 なぜか首まで顔を真っ赤にし、言葉を詰まらせた兄に、私はコテンと首を傾げましたよ。なぜ、そんなに顔を赤くしてるんだ?

 って、そういや今アデイラの姿じゃん。こんな美少女に抱きつかれたら、いくら血が繋がっても照れちゃうよね。

 そっかそっか、兄もケンゼンな少年だったか。

 いつも本ばかり読んでたから、根暗な子だと思っちゃった。


「リオネルおにいさま、なんだかかわいいですわ」

「……馬鹿にしてるのか?」

「いえいえ、本心を言ったまでですわ」


 リオネルはギロリと私を睨み、私のおでこをペチンと叩いて唇を尖らせる。

 なんだよー。本当に可愛いって思ったのを口にしただけじゃないか。

 微かに痛む額をさすりつつ言い返してみれば、今度はほっぺをむにーと引っ張られた。だから、私はお餅じゃないってば。


そんな兄妹の攻防を微笑ましく眺めているのは、私の専属メイドのミゼアとレイ、執事長のガイナス、それからは初めて会うけど、兄のメイドのリナもそこにいた。

 リナは西洋人寄りのガルニエ人とは違い、細面に一重の涼しげな目元。髪も青みがかった黒で、どちらかと言えばこの世界では遠く東の国に住む人たちにも見える。もしかしたら、本当に東の国出身なのかもしれない。



 さて、そんな兄のメイドであるリナなんだけど、さっきから私の顔をじっと見てるんだけど……。


「リナ、私の顔になにか?」


 兄の頬への虐待から逃げた私は、おすまし顔でリナに問う。おっと、ちょっと悪役令嬢ぽいぞ、私!


「……失礼いたします。アデイラお嬢様」


 リナはいいえ、と首を軽く横に振った後、静々と私に近づいたかと思えば、ほっそりとした手を私の額に充てる。

 ひたり、と額が冷たい。昔、しょっちゅう熱を出してた時に、よくこうして額に手を置いてくれたのはお母さんじゃなく、病棟に長く勤めていた看護師さんだったな。

 労わりが掌を通して伝わってくる懐かしい感触。


 ほんわりと昔の事を思い出している中、周囲からリナを責めるような不穏な空気を感じ、私は手を動かし何でもない、とみんなを宥める。


「ようございました。熱はないようで安心しました」


 ほう、と安堵の吐息を漏らしつつ、リナがそう言う。


「そ、そう?」


 と、私はそっけない言葉で返したんだけど、内心は心臓がドキドキしていた。


 それは、この世界に転生してから一ヶ月。

 日々をドゥーガン家のみんなと過ごしている内に、元の世界の記憶が少しずつ薄らいでいる事に、怖さを感じていたのだ。

 眠るのが怖い。寝てしまったら昔の私が消えてなくなってしまう……。

 そのせいで軽く不眠が続いてるのだった。

 おかげで今日も呼び出されるまで、何度も生あくびを噛み殺したことか。

 ああ、いつもベッドに拘束されてたから、寝たい時に寝れるあの環境がちょっとだけ恋しい……。


 まあね、ミゼアとレイに言えばすぐにでもベッドを整えてくれるんだけどね。でも、そんな我が儘ばかり言ってたら、あのバッドエンドにまっしぐらな気がして、ついつい眠気を押し殺すしかなかったのである。


「本当に大丈夫。そうだ、せっかくだからおにいさまが苦心してくれたこのもち米、試食してみない?」


 まだ何か言いたげなリナの視線から逃げるようにして、私はみんなにひとつの提案をする。


「え? お嬢様が作られるのですか?」


 ガイナスが驚愕に目を見開き声をあげる。なんだか馬鹿にされてるような印象を感じたのは気のせいだろうか。

 いや、ガイナスだからなぁ……。一概に否定できないところが……。


「それって、この間庭師に頼んでいた『キネ』と『ウス』というのが完成したって事?」


 リオネルがコテンと首をかたむけながら、そう問いかける。

 そういや、先日兄と一緒の時に庭師へ杵と臼の話をしに行ったんだっけ。


「いいえ。あれは今試作品を作ってもらってる最中です。今日は別のものを作ろうかな、と」

「アデイラが作るつもり?」

「え……? だめ、ですか?」


 しょんぼりした目を上目遣いにして兄に向けると、彼は「うっ」と呻きだした。なんだよー、この頃のアデイラは愛らしいだろう?

 きっと彼は高貴な人間が下働きの者がやる仕事をするなんて、と言いたかったのかもしれない。

 確かに公爵令嬢であるアデイラが厨房に立ってるとか、他の貴族からすれば発狂レベルかもね。でも、ドゥーガン家の中の、ここにいる人たちだけの秘密にしちゃえば、他に漏れる事なんてないもん。みんなが口固いのも知ってるし。


「大丈夫ですよ、おにいさま。ここにいる皆を信頼してますもの。決して他家に情報を漏らすなんてしませんわ」


 にっこりと微笑んでみせると、リオネスだけでなく、執事長もうちと兄のメイドたちも口をポカーンと開いていた。

 なんだよー。笑うのが変なのかよー。失礼な連中だな!


「じゃあ、先におにいさまと厨房に行ってますので、ひと袋だけ持って来てくださいな、ガイナス」


 まだ放心状態の兄の手を引きながら、同じように魂が宙をさ迷ってる家令に告げると、食糧庫を出て行った。


 さあて、何を作ろうかしら!


 と言っても、本格的に調理できるのは、明日の朝からしかできないんだけどね……!



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